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第3回東アジア山岳文化研究会開催

13年06月13日

―山村の生業と文化に焦点を当て 韓国・中国・ベトナムの研究者招き―


韓国張源哲先生

慶尚大学校慶南文化研究院
張源哲院長による報告

 山岳文化研究を進める韓国・中国・ベトナム・日本から研究者が集い、現状報告と意見交換を行う東アジア山岳文化研究会が、平成25年6月1~2日の2日間、信州大学山岳科学総合研究所の主催で開催されました。
 韓国からは、韓国のシンボルとも言える智異山の分化的位置などを研究する、慶尚大学慶南文化研究院の張源哲院長らが参加。中国からは、ユネスコの世界遺産にも登録されている名山・泰山のすぐ近くにある泰山大学の周郢副教授ら、ベトナムからはベトナム社会科学院所属宗教研究院のグエン・クオック・トゥアン院長らが参加しました。
 信州大学山沢清人学長は開会あいさつで、東アジアは、欧米と異なり、山岳に対して畏敬の念を持って接している点が共通する特徴であり、そうした精神的風土に根ざした山村の文化のあり方を、既存の学問の領域を超える文理融合の視点で考察することが重要だ、と述べました。
 信州大学山岳科学総合研究所について鈴木啓助所長が紹介した後、笹本正治副学長が、今回の研究会の趣旨を説明しました。すなわち、平成23年の3.11東日本大震災・3.12長野県北部地震以後2年を経て、中山間地の農村集落が危機的状況に陥っており、その克服のために、古くから継続されてきた農業や林業を基本とする山間集落の生業と暮らしのあり方、文化のあり方を考察し、現代的な発展の道筋を示す必要があるということです。そしてそれは、日本だけでなく東アジア全域の山間集落の未来を決するものと強調しました。
 これを受けて、信州大学山岳科学総合研究所の山岳環境創生学部門から梅干野(ほやの)成央工学部助教が、長野県飯山市小菅集落の伝統的民家の建物調査を通じて浮かび上がった「民家と里山林の関係に見る豪雪地の山村文化」を紹介しました。
 また同研究所の地域環境共生学部門から内川義行農学部助教が、千曲市姨捨棚田の長年にわたる詳細な研究をもとに「文化的景観としての棚田・山村地域が示唆する新たな時代の方向性」と題する報告を行いました。
 韓国からは、張源哲院長はじめ合計4人の研究者が檀上に立ち、智異山地の持続可能な村落発達と社会生活史や、清涼山の山誌(その山について多方面から詳細に研究した研究誌)の刊行の歴史に見る山の神聖化、さらには、朝鮮通信使を通じて伝わった、富士山を畏怖する日本文化と朝鮮の山岳文化との相互関係などを報告しました。
 中国からは、泰山学院の周郢副教授ら3人により、中国における泰山の文化的な位置や民衆意識の変遷、古代中国における泰山の生態保護のあり方、また祭祀のあり方についての研究報告がなされました。
 ベトナムのグエン・クオック・トゥアン院長は、ベトナムの山岳地帯に今も伝わる伝統的祭礼を分析しながら独特な山岳文化について紹介。「次回はベトナムでこの研究会を開催しよう」と呼びかけました。
 予定を変更して、中国の広東第二師範学院の李傑玲氏による広東客家の独特な建築文化についての報告も行われました。


梅干野成央工学部助教

信州大学山岳科学総合研究所
・山岳環境創生学部門
梅干野成央工学部助教

内川義行農学部助教

信州大学山岳科学総合研究所
・地域環境共生学部門
内川義行農学部助教

張源哲院長

慶尚大学校慶南文化研究院
張源哲院長

グエン・クオック・トウアン院長

ベトナム社会科学院所属宗教研究院
グエン・クオック・トゥアン院長

 翌日2日は、このたびユネスコの世界文化遺産への登録が決まった富士山と、葛飾北斎の「富嶽三十六景」が所蔵される山梨県立博物館等をめぐる現地見学会が行われ、富士山に象徴される日本の山岳文化について、熱心に意見交換がなされました。
 現地見学会では、まず山梨県立博物館にて葛飾北斎「富嶽三十六景」を数点、特別に見学させて頂きました。最も有名な「神奈川沖浪裏」(かながわおきなみうら)を始め、「凱風快晴」(がいふうかいせい)、「山下百雨」(さんかはくう)、「諸人登山」(もろびとはくざん)の4点を観覧し、参加者は、その見事さに見入っていました。
 博物館の見学を終え、富士吉田市内へと移動。笛吹市と富士河口湖町を繋ぐ新御坂トンネルを抜けると、富士山が姿を現し、車内は大きな歓声に包まれました。梅雨の時季に富士山が綺麗に見える事は珍しく、笹本副学長も「これだけ綺麗に見えるのは珍しい」と語っていました。
 富士吉田市内では、御師(おし)宿坊「旧外川(とがわ)家住宅」を見学しました。御師というのは、富士山へ信仰登山する人々に自らの住宅を宿坊として提供し、登山の世話を行なってきた人たちのことです。更に、祈祷によって寺院や神社に参詣する人々と神仏の仲立ちをする宗教者でもあったと言います。
 現地見学会の最後には、北口本宮冨士浅間(せんげん)神社を訪れました。両側に美しい杉並木が立ち並ぶ長い参道を歩いていくと、富士登山の玄関、北口本宮冨士浅間神社が現れます。
 グエン・クオック・トゥアン院長は「とても素晴らしい体験だった。信州大学の先生方も周到な準備をしてくれており、とてもありがたかった。この素晴らしい大学で是非ベトナムの留学生を受け入れていって欲しい」と語っておられました。
 梅雨の晴れ間に恵まれた現地見学会は、富士山の歴史、食、文化、そして富士山そのものに出会うことが出来、素晴らしい会となりました。

外川御師

旧外川家住宅にて説明を聞く

浮世絵をみる

山梨県立博物館で浮世絵を見る

富士浅間神社

北口本宮冨士浅間神社を歩く

北口本宮冨士浅間神社

北口本宮冨士浅間神社にて