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ナノカーボン技術を応用した放射性物質の効果的な除染材料の開発(ハイブリッド吸着剤の創出)発表と記者会見

13年03月26日

記者会見を行う遠藤守信特別特任教授(右)、鶴岡秀志特任教授

記者会見を行う遠藤守信特別特任教授(右)、鶴岡秀志特任教授

 信州大学エキゾチック・ナノカーボンの創成と応用プロジェクト拠点の遠藤守信特別特任教授、鶴岡秀志特任教授は平成25年3月22日、長野(工学)キャンパスで、ナノカーボン技術を応用した放射性物質の効果的な除染材料の開発(ハイブリッド吸着剤の創出)を発表しました。

 2011年3月の東日本大震災の影響を受けて発生した福島第一原子力発電所事故により放射性物質が放出されました。種々の放射性物質の中で137Cs(質量137 の放射性セシウム)が環境中に残留し、その除去が被災地域復興の障害となっています。
 環 境中に放出された137Cs の除去は環境浄化研究において重要な課題であり1980 年代より数々の吸着材料を用いた研究報告が提出されています。長年の既往研究からアルカリ金属であるセシウムの環境浄化には吸着が有効であることが知られ ており、中でもフェロシアン化化合物(通称プルシアンブルー、以下PB)がセシウム吸着能力に優れていることはよく知られています。
 しかし、 PB は微細粒子であるので取り扱いが厄介な上にセシウム吸着後に確実に分離・固定する良い方法がありませんでした。これを解決するために他の多孔体、担持体に PB を担持させるハイブリッド化が試されてきました。PB の吸着能力を損なうことなく使用後に簡便に分離・固定化する技術として米国国立研究所のSangvanich らのPB ハイブリッド材料の創生と性能評価研究論文がCs 吸着能のチャンピオンであり固定化方法も優れています。

 信州大学ナノカーボン研究グ ループ(*1)と北海道大学古月教授のグループはセシウムの環境浄化技術研究開発を共同で推進してまいりました。その成果として、カーボンナノチューブ (CNT)を応用した濾過分離を必要としないメソ孔吸着材料を創生することに成功しました。この新規材料は珪藻土、PB、及びCNTからなるハイブリッド 吸着剤(Synergetic Adsorbent)をスポンジに担持させた構造を持ちます(MaterialsExpress 誌表紙参照(右下))。極希薄溶液中でSangvanich らの結果を2 桁以上凌ぐ137Cs 吸着性能を達成しただけではなく、濾過分離を必要とせず更に使用後の体積減容率は1/10000 以下になる特長を有します。

 本研究は我 が国が直面する課題に資するとともに、ナノカーボン材料の新たな応用方法を示すことで吸着や触媒技術への応用を通じて希少資源の削減や高効率化学反応プロ セス開発への発展が期待されます。また、信州大学と北海道大学の共同研究による成果であり一部、研究費は文部科学省特別推進研究と地域クラスター研究、 JST 地域卓越研究、NEDO 助成金による連携研究の成果で、Materials Express 誌3 月号に掲載されました。

[発表論文]
T. Sangvanich, et al. J. Hazard. Mater. 182(1-3), 225 (2010).
(*1)信州大学共同研究者一覧
鶴岡秀志, Fitri Khoerunnisa1,4,南太規, 竹健司,藤重正嗣, 林卓也, Yoong
Ahm Kim3, Ki Chul Park3, 淺井道博, 金子克美, 遠藤守信.
新規開発吸着剤の操作電子顕微鏡写真


フェロッシアン化鉄充填珪藻土など

(左)CNT で覆われたフェッロシアン化鉄充填珪藻土。(中)カーボンナノチューブで形成されたメッシュが珪藻土をカバーしていることがわかる。(右)Materials Express 誌3 月号の表紙