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信州大学全学教育機構の三澤講師らの研究グループが、約100億光年彼方にある天体の立体視に成功

13年02月22日

信州大学全学教育機構 三澤 透 講師

信州大学全学教育機構 三澤 透 講師

信州大学全学教育機構の三澤講師が東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(東大カブリIPMU)の大栗特任助教とともに平成25年2月19日に都内で記者会見を行いました。


信州大学・奈良高専・国立天文台・東大カブリIPMUの研究者を中心とする研究グループ(筆頭研究者:三澤講師)は、およそ100億光年彼方にあるクェーサー(銀河中心核)から吹き出すガスの流れを2つの異なる角度から観測することに成功したことが報告されました。三澤講師によると、この結果は、遠方宇宙にあるクェーサーの内部構造を知るうえで重要な手掛かりになるとのことです。

 

クェーサーの中心付近から吹き出すガスの流れであるアウトフローは、星が形成される速度に影響を与えるなど、周辺の銀河の進化に大きな影響を及ぼすため、詳しい観測が不可欠です。しかし、アウトフローは発光せず、またクェーサー自体があまりに遠方にあるために地球からは点にしか見えないことから、通常の天体観測とは異なった観測が必要でした。

 

そこで、三澤講師らの研究グループは、光が銀河や銀河団の重力により曲折する「重力レンズ効果」に着目しました。グループは、アウトフロー内部の別の場所を通過した光が、重力レンズ効果によって異なる経路を経て地球に到達した複数のクェーサー像に対する分光観測(光を虹色に分ける観測)を行うことにより、アウトフロー内部の角度による違いを調査できると考えました。

 

研究グループが今回観測対象としたのは、2006年に大栗特任助教らが発見した、地球からおよそ100億光年彼方にある重力レンズクェーサーSDSS J1029+2623です。このクェーサーは「銀河団」による重力レンズ効果を受けており、その離角22.5秒角はいままで発見されたものの中で最大です(単独の銀河による重力レンズクェーサーの離角は1~2秒角程度)。このクェーサーから発せられた光は、重力レンズ効果により3つの異なるクェーサー像として地球に届きます。このうち最も離角の大きい2つの像について分光観測を行い、アウトフローを通過する際に吸収される光のパターン(吸収線)の違いを調査しました。観測は、米国ハワイ州ハワイ島のマウナケア山頂(標高約4200メートル)にあるすばる望遠鏡を用いて行われました。その結果、アウトフロー内部にあるガスの角度による違いを見つけ出すことに成功したということです。

 

三澤講師は会見で、「2つの分光観測で吸収構造に違いが認められたということは、立体視による観測ができたことの証拠と考えられる。ただ、この2つのクェーサー像の光が地球に到達するまでに744日の差があるため、吸収線の差異がアウトフローの時間的な構造変化によるものである可能性も残される。引き続き観測を続け、この結果についてより詳細な解析を進めたい」と語りました。

 

この研究成果は、米国の天文学専門誌『アストロノミカル・ジャーナル』に掲載されました。 (Misawa et al. 2013, The Astronomical Journal, 145, 48)

 

研究の詳細は、国立天文台・すばる望遠鏡のホームページ

http://www.naoj.org/Pressrelease/2013/02/18/j_index.html

をご覧ください。

 

会見の模様(動画)は、日本経済新聞のホームページ

http://www.nikkei.com/video/?bclid=67379759001&bctid=410974713002&t=1

をご覧ください。

 

東大カブリIPMU 大栗 真宗 特任助教

東大カブリIPMU 大栗 真宗 特任助教

記者会見の様子

記者会見の様子

図1:クェーサー中心部の想像図(右上)と重力レンズ効果の概念図(左下)。 クェーサーSDSS J1029+2623 (約100億光年) から、アウトフローの異なる 場所を通過して発せられた光が、銀河団 (約 50 億光年)による重力レンズ効果を受けて、3つのクェーサー像A,B,Cとして地球に届きます。 (クレジット:信州大学・国立天文台)

図1:クェーサー中心部の想像図(右上)と重力レンズ効果の概念図(左下)。 クェーサーSDSS J1029+2623 (約100億光年) から、アウトフローの異なる 場所を通過して発せられた光が、銀河団 (約 50 億光年)による重力レンズ効果を受けて、3つのクェーサー像A,B,Cとして地球に届きます。 (クレジット:信州大学・国立天文台)

図2:ハッブル宇宙望遠鏡で観測された クェーサーSDSS J1029+2623 領域のカラー画像。銀河団による重力レンズ効果を受けたクェーサーのレンズ像 A、B、C および、その銀河団に所属する銀河の姿 G1a,b、G2。今回観測したのは比較的明るいAとBのみです。(クレジット:信州大学・国立天文台・カブリ IPMU)

図2:ハッブル宇宙望遠鏡で観測された クェーサーSDSS J1029+2623 領域のカラー画像。銀河団による重力レンズ効果を受けたクェーサーのレンズ像 A、B、C および、その銀河団に所属する銀河の姿 G1a,b、G2。今回観測したのは比較的明るいAとBのみです。(クレジット:信州大学・国立天文台・カブリ IPMU)