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平成20年度入学式告辞

08年04月06日

入学式告辞



 ここ信州でも花の季節を迎え、いよいよ大自然に生命が躍動する、本日ここに、ご来賓ならびに関係者各位のご臨席のもと、信州大学2,291名の入学式を挙行できますことは、大きな喜びであります。新入生の皆さん、まことにおめでとうございます。意欲あふれる将来性豊かな皆さんを、全学をあげて心から歓迎いたします。また皆さんを支え、温かく見守ってこられたご家族の方々には、今日までのご労苦に深い敬意を表しますとともに、衷心よりお喜びを申し上げます。
 皆さんが学生生活を送る信州は、ご覧のように、豊かな自然に恵まれ、勉学にも、人間形成の場としても、スポーツを楽しむにも絶好の条件を満たしています。また健康長寿県としても知られ、健康増進や体力向上には最適な環境です。信州大学は八学部と大学院をもつ総合大学であり、全学協働のもとで、高度な教育研究などが展開されていることは申すまでもありません。地域との連携、外国諸大学との活発な学術交流なども精力的に推進し、“地域に根ざし、世界に拓く大学”として個性を発揮しています。この恵まれた学園で、大いに知性を磨き、体力を鍛え、自己研鑽に励んでください。
 信州大学が誇る特色の一つは、地域との良好な関係です。現在、長野県内の多くの自治体や企業との連携のもとで、教育文化、研究、産業振興、医療福祉などさまざまな分野で、実りある交流が推進されています。このような背景のもとで、最近策定した「信州大学ビジョン2015」では、“信州は、我らのキャンパスだ!”と声高に謳っています。先輩たちが行動しているように、皆さんもこれから、授業としてのフィールドワークに、あるいはボランティア活動に信州の各地域に出向き、子どもから高齢者まで多くの方々と触れ合いながら、地域活性化などに寄与するとともに、自らも貴重な学習体験を積んでほしいと思います。信州に特有な文化や伝統、さらには厚い人情やホスピタリティーなど、必ずや感動的な場面に遭遇するでしょう。地域の方々も、皆さんの信州大学への入学を歓迎され、活発な交流を待ち望んでおられるはずです。
 皆さんは、一日も早く大学の生活環境に適応して、心身ともに健やかに、楽しく有意義な学生時代を過ごしてください。これまでは、心身を鍛える重要な時期にありながら、受験勉強のために時間的にもそのゆとりはあまりなかったかと思います。大学では、課外活動などにもすすんで参加し、心身の鍛錬に励むことをお勧めします。サークル活動やボランティア活動などを通して、学友と共に行動することによって、心身の鍛練はもとより、人間形成にとっても計り知れないほど大きなものが得られるはずです。嬉しいことに、各サークルの学生たちが、大会記録などを携えて、しばしば学長室を訪ねてくれます。また学生と学長との気楽な懇談の場として「学長オフィスアワー」を設けておりますが、そこでも有意義な意見交換ができ、とても貴重な楽しい機会となっています。これらの交流を通して、学生たちのエネルギッシュな行動力、あふれる意欲や情熱にふれ、深く感銘を受けることが稀ではありません。皆さんも、何事にも積極的に参画し、そこで心底から感動する体験をしてほしいと願っています。
 ところで、このような学生たちに共通するのは、確かな目標に向かって邁進していることです。皆さんも、大学で何をしたいのか、この機会によく考えて、しっかりした目標をもってほしいと思います。将来の大きな目標でなくても、まずは学生時代にあるいは一年先に達成したい当面の目標であってもよいでしょう。目標に向かって努力していると実感したときには、快感をもたらし意欲を高める物質が脳内に増えることが知られています。目標があって、目的意識をもって大学生活が送れたら、毎日がどんなにか楽しいでしょう。気力がみなぎってくるに違いありません。
 ところで、地球温暖化などの環境危機は、すでに誰の目にも明らかです。異常気象、生物種の激減、食糧危機などへの積極的対策を求める声は急速に高まってきています。信州大学では、教育目標の冒頭に“自然を愛する人材の育成”を掲げ、全学をあげて、環境管理の国際規格「ISO」認証のエコキャンパスづくりと実践的な環境教育を重点的に推進しています。エコキャンパスづくりは、すでに全キャンパスにおいて一部領域を除き達成できました。このような活動によって、平成十八年には、国立大学では最初の地球環境大賞「優秀環境大学賞」、本年3月には環境コミュニケーション大賞「優秀賞」として高く評価されているのです。この間にあって頼もしいのは、学生たちのこれら環境活動と環境教育への高い関心と意欲的な参画です。自主的に環境活動を展開するいくつかの「学生グループ」が、ここ数年来、その優れた成果によって、学内外で栄えある受賞に輝いていることは大学の誇りであります。皆さんはこれから、先輩たちと共に活動しながら、信州大学の個性的な環境教育によって、環境マインドをしっかり育んでほしいと思います。将来いずれの道に進もうとも、環境の世紀・二十一世紀にあって、必ずやそれが貴重な財産になるはずです。
 さて、大学での勉学にあたって、どんなことに心がけるべきでしょうか。大学は、単に知識や技術を伝授するところではありません。講義や書物からの知識や学説であってもただ鵜呑みにするのではなく、それらが構築された思索プロセスを必ず考えてみることが大切です。何事にも疑問をもち、必ず自分で思考する習慣を身につけましょう。得られた情報をこうして噛み砕き、消化吸収することによって、それらが知恵となり、その後の知的活動に生きてくるのです。
 もう一つ、強調しておきたいことがあります。皆さんはいずれ、社会のさまざまな分野で中核的役割を担いますが、そこで期待される素養とはどのようなものでしょうか。今や、ますます多様化、複雑化し、さらに情報化、グローバル化が加速する社会にあって、皆さんは、それに対応できる能力と人間性を涵養しなくてはなりません。自ら課題を探求し、その課題に対して広い視野から総合的に判断をして、新しい創造を産み出す確かな能力を育てることです。もとより、豊かな人間性が備わっていなくてはなりません。このような能力や人間性を育むためには、人文科学、社会科学、自然科学を問わず、できるだけ幅広く深い教養を身につけることが必要になります。実社会では、物事はこういった学問領域を越えて学際的となり、もはや文系・理系といった区別さえなくなっています。地球的課題である温暖化、新エネルギー、人口問題などを例にとっても、すべてが学問横断的であり、狭い領域の知識や技能のみでは対応できません。多様な要因が絡んだ自然現象や社会現象の背後にあるものをしっかり見抜き、課題解決の道を見つける力が求められているのです。したがって、身のまわりにあるすべてのものが「教科書 = 本」であり、それらに気づき、読み解く豊かな感性を磨こうではありませんか。
 ここで、世界のあらゆることが「本」である、と深い思索を込めてつづった詩を紹介しましょう。それは、詩人・長田弘氏の「世界は一冊の本」であり、ご存じの方も多いかと思いますが、そこから抜粋してみます。

 本を読もう。
 もっと本を読もう。
 もっともっと本を読もう。

 書かれた文字だけが本ではない。
 日の光、星の瞬き、鳥の声、
 川の音だって、本なのだ。

 本でないものはない。
 世界というのは開かれた本で、
 その本は見えない言葉で書かれている。

 人生という本を、人は胸に抱いている。
 一個の人間は一冊の本なのだ。
 記憶をなくした老人の表情も、本だ。

 200億光年のなかの小さな星。
 どんなことでもない。生きるとは、
 考えることができるということだ。

本を読もう。
 もっと本を読もう。
 もっともっと本を読もう。

 皆さんはそれぞれが、「自分らしい、かけがえのない人生」という一冊の本を胸に抱いて、充実した大学時代を過ごしてください。皆さんの前途を祝福して、告辞といたします。

平成20年 4月 6日    信州大学長   小宮山 淳