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平成19年度入学式告辞

07年04月06日

入学式告辞


 ここ松本でも早や桜が開花し、いよいよ華やかな信州の春を迎える、本日ここに、ご来賓ならびに関係者各位のご臨席のもと、信州大学2,230名の入学式を挙行できますことは、大きな喜びであります。新入生の皆さん、まことにおめでとうございます。将来性豊かな皆さんを、全学をあげて心から歓迎いたします。また、皆さんを支え、温かく見守ってこられたご家族の方々にも、衷心よりお喜びを申し上げます。
 皆さんが学生生活を送る信州は、ご覧のように、大自然に恵まれ、勉学はもとより人間形成の場としても、スポーツを楽しむにも絶好の条件を満たしています。また健康長寿県としても知られ、健康増進や体力向上には最適な環境です。信州大学は、八学部と大学院をもつ総合大学であり、高度な教育研究が展開されていることは申すまでもありません。地域との連携、外国諸大学との活発な学術交流なども精力的に推進し、"地域に根ざし、世界に拓く大学"として個性を発揮しています。この恵まれた学園で、大いに知性を磨き、体力を鍛え、自己研鑽に励んでください。
 さて、大学は知識や技術をただ伝授するところではありません。知識を通じて、知恵を磨き高めるところです。それでは、大学で磨き高めてほしい知恵とは何でしょうか。教育学者の天野郁夫氏は、知恵の中核となる能力として、アメリカの研究者のいう「四つのC」、すなわち英語のスペルがCで始まる四つの能力を紹介しています。この「四つのC」などが基盤にあって初めて、高い専門性も身につくのです。
 一つ目のCは,communicationです。外国語を含む言語能力はもとより、コンピュータに関わる情報処理能力、さらにはディベートやプレゼンテーション能力も含まれます。
 二つ目は、critical thinking、物事を批判的に見る能力です。講義や書物からの知識や学説をそのまま受容するのではなく、それらが構築された思索プロセスを考えてみることが大切です。何事にも疑問をもち、必ず自分で思考する習慣を身につけましょう。大学では、受動的ではなく、自ら進んで積極的に学習しなくてはなりません。
 三つ目は、creativity、創造力や独創力です。今、社会は大変革期を迎え、物質的豊かさだけでなく、精神的文化的な豊かさが得られる、持続可能な発展をとげる社会へ転換しつつあります。「グローバル時代」にあって、人口問題や環境問題など世界的課題にも対応しなくてはなりません。このような時代には、科学技術はもとより社会システムの革新"イノベーション"が不可欠であり、それを生み出す創造力や独創力が求められるのです。そのためにも、豊かな教養や深い専門性のもとに、自ら課題を見いだし、多角的視点から総合的に判断し、行動できる課題解決能力を高めることが大切なのです。
 そして四つ目として、continuous learningがあります。生涯学習ができる能力です。今や、全ての知識や技能を大学で修得することは不可能です。深遠なる知の体系を生涯に亘って継続的に学習していく能力を磨かなくてはなりません。
最近では、これら四つの能力に加えて、さらに「二つのC」すなわちchangeとchallengeへの期待も増してきています。Changeは強い変革意欲であり、challengeは目標達成に向けての主体性とチャレンジ精神です。
 これら「六つのC」をはじめ、今、社会が強く求める能力などは「人間力」とも総称されますが、信州大学では、人間力と専門能力の基盤をしっかり築くために、教育体制やカリキュラムにもさまざまな工夫を凝らしています。まず、全員が人文科学、社会科学、自然科学を問わず幅広く学びますが、これによって豊かな教養や人間性を涵養し、創造力の基盤を形成するとともに、専門教育のための基礎学力を養います。こうして身についた教養が、"物の見方、考え方"を確かにし、生涯に亘って"知的探究する能力"となっていくのです。また近年の学問は、従来の学問領域を越えて融合し、学際的となり、もはや文系/理系の知といった区別はなく、狭い専門知識や技能のみでは対処できません。したがって将来、「知識基盤社会」を担う中核的人材となる皆さんは、文系や理系を問わず、幅広く学習することが大切なのです。既成概念にとらわれず、常に問題意識をもって勉学し、自主的な活動を通して、知的好奇心を高めていってください。
 ところで、二十一世紀は環境の世紀とも言われます。地球温暖化や自然破壊による異常気象、生物種の激減、食糧危機など、すでに誰の目にも明らかであり、その対策は地球的課題となっています。信州大学では、教育目標の冒頭に"自然を愛する人材の育成"を謳っており、全学的に、環境管理の国際規格「ISO14001」認証のエコキャンパスづくりと環境教育を精力的に推進しています。そして、この個性的な環境教育は、文部科学省のモデルプログラム(教育GP)にも採択されました。さらに昨年、国立大学では最初に地球環境大賞「優秀環境大学賞」として高く評価されたのです。エコキャンパスづくりは、すでに松本地区以外の四キャンパスでは完成し、今年度は、松本キャンパスでこれを達成すべく準備を進めています。この間にあって頼もしいのは、学生の皆さんのエコキャンパスづくりと環境教育への高い関心と意欲的な参画です。学生の環境活動組織である「環境ISO学生委員会」や他の「学生グループ」が、精力的な環境活動によって、ここ数年来、学内外でさまざまな受賞に輝いていることは大学の誇りであります。皆さんはこれから、先輩たちと共に活動しながら、信州大学が誇る環境教育によって、環境マインドをしっかり育んでほしいと思います。将来いずれの道に進もうとも、必ずやそれが貴重な財産になるはずです。
 近年、物質的に豊かな時代にあって、物を入手するために努力し、困難に耐え、目的を達成するという経験が乏しくなり、ややもすれば漫然と日々を過ごしてしまうおそれがあります。皆さんは、入学してぼんやりしている間に、大学生活が終わってしまうようなことがあってはなりません。大学で何をするために、どんな目標をもって入学したのか、この機会に一度よく考えてみましょう。目標がないと、やがて心の空虚を感じて、不安や不満を抱くことにもなりかねません。是非とも目標をもってほしいと思います。人生の大きな目標でなくても、一年毎あるいは学生時代に達成したい当面の目標であってもよいでしょう。ところで皆さんは、人間にとってどんなときが一番幸せだと思いますか。ノーベル賞科学者である利根川進博士は、「ある目標があって、その目標に向かって努力しているときが一番幸せである」と断言されています。実際、目標に向かっていると実感したときには、快感をもたらし意欲を高める物質が脳内に増えることが、脳科学的に実証されているのです。いわゆる"やる気ニューロン"の活性化が起こるのです。確かな目標に向かって、目的意識をもって学習や課外活動に熱中できたら、どんなにか楽しいでしょう。自然に気力がみなぎってくるはずです。
 皆さんは、一日も早く新たな生活環境に適応し、心身を鍛え、勉学に励んでほしいと思います。また教室のみでなくさまざまな場面で、友人、先輩、教職員などと知的交流や人間的交流を深め、人間形成の貴重な糧にしてください。社会活動を通して、ボランティア精神を育み、社会性を体得することも大切です。そして強調したいことは、何事にも意欲的に参画し、そこで深く感動する体験をしてほしいことです。
 大学時代は、長い人生の中でもかけがえのない一時期であります。充実した楽しい大学生活を過ごされますよう期待して、お祝いのことばといたします。

平成19年 4月 6日    信州大学長   小宮山 淳