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先鋭領域融合研究群 環境・エネルギー材料科学研究所の手嶋所長らが、リチウムイオン二次電池の高電圧作動を可能にする 電極表面処理技術を開発

16年09月15日

先鋭領域融合研究群 環境・エネルギー材料科学研究所の手嶋勝弥所長(教授)と是津信行准教授が、リチウムイオン二次電池の高電圧作動(高電圧と安全性の両立)を可能にする電極表面処理技術を開発し、8月30日に記者会見を行いました。

 

1.発表のポイント

□ 大気圧での気相プロセスで,ピンホールフリーの自己組織化単分子膜を形成し,長期間安定して繰り返し高電圧動作できる電極表面処理技術を開発しました。

□ 高電圧動作に伴う副反応を抑制できるため,既存の電解液をそのまま使用できます。

□ 電極反応抵抗も既存電極の1/3 以下に低減することにも成功しました。高速充放電用電池にも対応できます。

□ 本研究成果は,イギリスの Nature Publishing Group (NPG) の電子版科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。(2016 年8 月24 日)

 

2.発表の概要

  リチウムイオン電池は、軽くて容量が大きいため、ノートパソコンや携帯電話などに使われています。ハイブリッド自動車などに搭載する大型リチウムイオン電池でも、小型で軽く、より高密度なエネルギーの貯蔵が求められています。そのため、現在の3.7Vから5V級への高電圧化の要請が高まっています。

  正極材料の一種であるスピネル型のニッケルマンガン酸リチウム正極の平均電圧は4.7V であり、マンガンを主成分とする(コバルトを用いない)安価な材料として注目されてきました。しかし、高電圧に起因する副反応が継続的に生じることが問題になっています。これまで、添加剤使用などの既存電解液のさまざまな改良や、電極表面の酸化膜被覆などが実施されてきましたが、未だ安定に、高電位で充電・放電反応を実現するには至っていません。さらに、電解液には可燃性の有機溶媒を含んでいるため、高電圧動作時の安全性の確保も課題になっています。

  手嶋教授、是津准教授らの研究グループは、長期間安定して繰り返し高電圧動作を可能とする電極表面処理技術を開発しました。膜厚約1.3nm のフルオロアルキルシラン単分子膜を電極表面に均一被覆した結果、既存の電解液やセパレータを用いたハーフセルの充放電加速試験において、100 サイクル後の容量損失を2%以下まで抑制できることを見い出しました。自己組織化単分子膜を被覆しない電極では20%以上劣化するため、高電圧耐久性が著しく向上したと言えます。さらに、高温動作においても優れた性能を示すことを明らかにしました。

  自己組織化単分子膜の被覆は、電極と電解液の直接接触を絶縁することによって、電解液の酸化分解反応の抑制に効果があったと考えます。副反応によって生じるフッ化水素酸に対する耐性が向上したため、電極中の遷移金属の溶出も抑制できることがわかりました。また、当初予期しなかった結果として、単分子膜の被覆によって、電極抵抗が被覆前の1/3 以下まで低下することがわかりました。リチウムイオンの脱溶媒和反応の促進には、電極表面の高フッ素濃度が貢献していることがわかりました。

 

3.発表の背景

  この研究は、科学技術振興機構(JST)が推進する戦略的創造研究推進事業(CREST)「超空間制御に基づく高度な特性を有する革新的異能素材等の創成」(研究統括:瀬戸山 亨)のうちの採択課題「超イオン伝導パスを拓く階層構造による結晶相界面デザイン」(研究代表:手嶋勝弥)の一環として遂行されました。

 

<論文情報>

タイトル : “Sub-2 nm Thick Fluoroalkylsilane Self-Assembled Monolayer-Coated High Voltage Spinel Crystals as Promising Cathode Materials for Lithium Ion Batteries

著者名 : Nobuyuki Zettsu, Satoru Kida, Shuhei Uchida and Katsuya Teshima

掲載誌 : Scientific Reports

doi : 10.1038/srep31999

 

4.お問い合わせ先

信州大学先鋭領域融合研究群 環境・エネルギー材料科学研究所

手嶋勝弥・教授、是津信行・准教授

TEL 026-269-5556 ・ FAX026-269-5550

E-mail teshima★shinshu-u.ac.jp

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