Research
カーボンナノチューブ(CNT)、グラフェン(GP)、新一次元カルビン(ODC)等の構造を精緻に制御し、そこに異種原子(B,N)あるいはほかの結合(sp3結合)を導入して応用に最適なエキゾチック・ナノカーボンを創成し、イノベーティブな機能発現を目指します。
またその高効率生成法も開発します。ENCsの総合的基礎科学像も確立し、応用技術創出の持続性を確保する根源としていきます。水素吸蔵機能、Liイオン電池、電気二重層キャパシタへ応用します。
「エキゾチック・ナノカーボン」とは?
現在、ナノサイズの炭素体(ナノカーボン)に関する科学と技術が大きく発展しています。ナノメートルとは10億分の1メートル、電子顕微鏡でしか見られない超微細な世界です。
ナノカーボンの主要なものがカーボンナノチューブ(CNT)。炭素原子でできた六角網の平面をくるっと丸めた直径ナノサイズの筒状の形をしており、現在分かっている限りでは、すべての物質の中で最も軽く、最も強い。これを繊維状にして地球から宇宙に延ばせば、宇宙エレベーターも可能になると言われています。
様々な機能が注目されているが、特に、銅に比べて10倍の電気を流し、6分の1の重量しかないことから、自動車や航空機の電気回路に使用し軽量化・燃費の飛躍的軽減を図ったり、宇宙に送電線を張るプランなどが考えられています。
また、中には周囲の電場や温度に応じて電気伝導性が敏感に変化する半導体的性能を持つものもあり、これを素子として利用すれば、極めて微小な半導体デバイスが製造可能です。未来のコンピューター技術の鍵を握ると言われています。
その他、強いという性能を利用して耐摩耗性の高い素材を創造したり、軽く強くしかも体内に入れても血栓ができにくい機能を利用して医療機器への活用を図ったり、非常に幅広い活用の道が開ける先端素材として注目されているのがCNTなのです。
ところで、今回ドリームチームがテーマにするENCsは、今述べたCNTを中心とするナノカーボンをさらに発展させた究極のナノカーボンです。CNTやそれと似た性能を持つグラフェンや第一次元カルビンという物質の構造を精緻に制御し、そこにホウ素やチッ素などの異種原子や、別の結合の仕方を導入して、様々な用途に最適な炭素系素材、つまりNECsを創成しようというわけです。もちろん、その効率の良い生成法や具体的な応用技術も、ENCsの総合的な基礎科学を確立しながら、科学技術を持続的・発展的に創出することを目指します。
低炭素社会へのイノベーション
国内外の注目が集まった2月16日キックオフ記念式
CNTには単層の筒状構造のものもあれば、多層のものや、結合の形が違うものもあります。そうした構造の違いでまったく異なる性能が生まれます。しかも、その層の間に別の原子やイオンを入れ込んだりすると、炭素系とは似ても似つかぬ性質を持つENCsが生まれ、それを使って、応用範囲が限りなく広い“夢の新素材”を作り出すことができるのです。
既に述べた伝導体や半導体デバイスへの活用の分野では、例えば高性能な伝導透明膜といった新たな素材にも期待が広がります。
また、CNTにゴムなどとの接合力の強い性能を与えれば、革新的な複合素材が生まれます。これは既に、石油採掘分野や水道管や揚水管の接合部分に使用する漏水防止用シール材として利用する方法が研究されており、水不足に悩む地域で大きな貢献が期待されます。
長野ナノカーボンバレーの創出へ
式典ではクリントン政権のDOE科学技術庁長官で米国物理学会会長などを歴任したミルドレッド・S・ドレッセルハウス終身教授(マサチューセッツ工科大学)が、ナノカーボンの可能性について記念講演を行った。
このプロジェクトは、長野県の協力・支援の下に、信州大学を中心に東京工業大学・愛知工業大学・東北大学・日信工業・ルビコン・オリオン機械・アスザック・興和ゴム・キッツ・旭化成ケミカルズ・フコク・シュルンベルジェ・村田製作所・岡山セラミックスセンター・北野建設・旭硝子・倉敷加工・三井造船他の計30機関が参画するコンソーシアム形式で推進します。
このような形式をとったのは、「100年に一度」と言われる経済不況下で、地域の新産業の創出と競争力の強化につながることを目指してのことです。
かつての長野県の地域産業は、製造大手企業がその経済力・技術開発力を発揮し、地元の中小企業を牽引して発展してきました。
しかし、ここ10年ほどの間に、こうした製造大手の生産拠点が海外に移転し、地域産業の中核が空洞化してしまった。
この地域産業の空洞を、信州大学をはじめとする大学の“知の創造”と、地域の中核企業との“知の共有”によって中枢を形成し、ナノカーボンに関するコア技術を有する地域企業群の創出によって、新たな地域力を生み出すことが期待されています。「ENCsの創成と応用」の本プロジェクトは、長野カーボンバレーの創出に寄与することで、地域の力が日本の力になる新しい地方の時代を切り拓くモデルでもあります。
-
「和して同ぜず」
世界の頭脳が集まって、世界と人類のために貢献する―それにふさわしいドリームチームを作ることができました。
これまで欧米の研究 チームに参加して、日本と違うと感じたことは、欧米のチームはいろいろな国の人が集まって力を合わせているけれど『和而不同(和して同ぜず)』。チーム ワークはとても良いが、同化はしない。
皆、ちゃんと個性をキープして協力する中で、大胆で新しいアイデアが総意として出てくる。
ドリームチームのリーダー として、異質性と本学研究者そして企業との連携でイノベーションが創出できる、そういう環境を作っていくのが私の役目だろうと思っています。 - 1996年ノーベル化学賞受賞者のフロリダ州立大学ハロルド・W・クロト教授は、インターネットを利用してアメリカから祝福のライブ講演をした。