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柴田 直樹

柴田 直樹

生物学コース

講座:生殖生物学分野
略歴:
1989年 新潟大学大学院自然科学研究科生命システム科学博士後期課程修了(学術博士)。
岡崎国立共同研究機構基礎生物学研究所特別研究員、
日本学術振興会特別研究員、
フロリダ大学ホイットニー臨海研究所客員研究員、
信州大学理学部助手を経て
2006年より現職
キーワード:性決定
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脊椎動物の性・雄雌形成の仕組み

メダカを用いて性分化機構を探る

---メダカ属魚類を用いて---
日本で見られるメダカは1属1種ですが、東南アジアまで視野を広げると、およそ20種のメダカ属魚類が知られています(下図はその系統関係の一部)。また、日本のメダカにも北日本日本海側とそれ以南とでは、性質が大きく異なることが見つかり、つい最近、別種として扱うことになりました。一方、実験動物としては、個体間に遺伝的な差がない系統がいくつも作られており、再現性の高い実験を行うことができるとともに、最近になってこれらの系統の間で興味深い性質の違いがあることが見つかってきました。

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メダカ近緑種

---性決定遺伝子と性分化機構---
ヒトはY 染色体をもつと男性に、もたないと女性になることが古くから知られ、Y 染色体上のSRY という遺伝子が重要な役割をすることが明らかにされ、性決定遺伝子と呼ばれています。また、このSRY という遺伝子は、ほとんど全ての哺乳類で性決定遺伝子として働いています。ところが、哺乳類以外の脊椎動物からはSRY は見つからず、哺乳類以外の全ての脊椎動物、すなわち鳥類、ハ虫類、両生類、魚類などで性決定遺伝子は不明でした。そんな中、2002 年にメダカで性決定遺伝子が発見され、DMY と名付けられました。この遺伝子があるとオスに、ないとメスになるのです。ではDMY は何をしているのでしょう? SRY とはまったく違う遺伝子ですが、オス形成という役割は共通です。DMY とSRY が働く仕組みの中には、何か共通点があるのでしょうか? さらに、メダカに近縁なメダカ属魚類をみるとDMY ではない種も見つかってきています。そもそも性を決めるというとても重要な仕組みが、それほど色々あるのでしょうか? このような疑問に取り組んでいます。

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メダカ近緑種の系統関係

---メダカの性転換には系統差がある---
だいぶ古い研究になりますが、メダカは初めて雄性(または雌性)ステロイドホルモンを投与すると性転換が起こることが見つかった脊椎動物です。このことから、性ステロイドホルモンが性分化に関わると考えられてきましたが、調べてみると正常な性分化には性ステロイドは関わらないことが明らかになりました。では、性転換はどのようにして起こっているのでしょう? さらに、最近になって、同じ雄性ステロイドホルモンでも投与濃度によって異なる影響を及ぼすことや、様々なメダカの系統で性転換を試みると系統ごとに異なる結果が得られることも見つかってきました。ある系統では雄性ステロイドホルモンがオスへの性転換を誘導するのに別の系統では逆にメスへの性転換を誘導したり、性転換が起こりやすい系統と起こりにくい系統があるのです。同じメダカの中でいったい何が起こっているのでしょう? 人為的に引き起こされた性転換ですから正常発生とは違う現象を見ていることになりますが、性転換の過程を調べていくことで正常な性分化の仕組みにつながる発見があるかもしれません。これを期待して、系統間の比較や異なる系統を交配した場合にどのようなことが起こるのかを調べています。

このように当研究室では、「多くの近縁種が実験に使える」、「種内に確立された系統がいくつもある」という、他の実験動物には見られないメダカの特徴を利用して研究を進めようと考えています。

大学といってもそれぞれです

小学校から高校までと大学とではいろいろな違いがありますが、大きな違いの一つに、大学には指定された教科書がないということがあります。もちろん、授業によっては担当教官が教科書として使う本を指定する場合もありますが、どの本を選ぶかは人それぞれです。これはどういうことでしょう。

一口に生物学といっても、生態学、進化学、遺伝学、分子生物学などといった、互いに関係はありますが内容の大きく異なる様々な分野が含まれています。そして、大学では興味関心に応じてそのどこかの分野の中の先端部分が研究され、それが授業、実習、卒業研究に活かされています。このため同じ科目名の授業でも内容の力点は教官によってまったく異なったものになることも珍しくありません。理学部の生物系といえども漠然と全分野を等しく学べるわけではなく、大学や教官ごとに特徴があることになります。

成績で入れる大学を選ぶというのは、もちろん普通のことでしょうけれども、一方で、自分が学びたいこと、欲しいことがらが、その大学で得られるかどうかも、とても大事なことだと思います。どんな研究が行われているのか、授業や実習の内容はどうなんだろう、ということも調べてみるとよいでしょう。

大学での専門の授業は、試しにこっそり潜り込んで聴講しても咎められることはありません。オープンキャンパスのような催しに参加するのもよいでしょう。このとき、ただ聞き手に回って情報を集めるだけでなく、担当教官、事務の人、在学生などに質問したいことを事前に用意して、どんどん尋ねてみるのも良いことだと思います。大学まで行くことができないときは、HP のアドレスに問い合わせることもできるでしょう。

最後に、自分の学びたいことや気になること、どうしてそれを尋ねたくなったのか、という「自分自身」のことを、高校時代にゆっくり見つめて、確信をもって大学を選び将来へと向かってほしいと思っています。