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CST特別授業_生物分野「感覚をつくる」

2013.10.15 【 CST

CST特別授業の紹介です.

担当は本学生物教員の坂口先生です.

CST特別授業 「感覚をつくる」が10/12に開催されました

 東北大学から八尾 寛先生に来て頂き,基本的なことから最先端の研究まで,とてもわかりやすく授業していただきました。八尾先生は京都大学医学部ご出身でありながら,入学時から臨床医でなく,研究者を目指しておられた方で,医学部学生さんでは少数派です。当時の京大医学部は最先端の研究 YaoSensei.jpgを行うそうそうたる先生方がおられ,大変な刺激を受けられたそうです。ノーベル賞を受賞された山中先生も京都賞ご講演でおっしゃっておられましたが,医学部は人間への治療に生かされなければ評価しない,ネズミでもダメ,まして昆虫や微生物は問題外,という風潮があります。そんな中,八尾先生はゴキブリの神経の研究をされたり,クラミドモナスという単細胞の緑藻類のもつチャネルロドプシンというタンパク質の研究をされ,その成果を哺乳類の神経回路の研究に生かし,光遺伝学(オプトジェネティクス)という分野の最先端の研究を行っておられます。

 クラミドモナスのチャネルロドプシンというタンパク質は7回膜貫通型のタンパク質で,オールトランス型レチナールという低分子が結合しています。このタンパク質は,青い光を吸収すると,オールトランス型レチナールが13シス型に変化し,それが引き金となり,陽イオンを細胞膜の外から内へ流れこませるチャネル(穴)として機能します。クラミドモナスでは,光を感じるセンサーとして働き,鞭毛を動かすのに役立っています。チャネルロドプシンには1と2という2種類が存在し,その7回膜貫通部分を遺伝子工学で入れ替えることにより,どの膜貫通部分がチャネル部であるのかなど各膜貫通部の働きを世界で初めて解明されました。

 また,この「チャネルロドプシンに光を当てると陽イオンを通す」という性質を利用し,ネズミの神経にクラミドモナスのチャネルロドプシン遺伝子を導入し,光を神経にあてて,神経を興奮させるという手法を用いて,神経回路の働きを調べる最先端の研究を行っておられます。特におもしろいのはネズミの頬に広がっているヒゲ群の各根元にあるニューロンにチャネルロドプシン遺伝子を導入し,様々なパターンで光刺激して,砂糖水と塩水の記憶学習を調べる研究を行われるそうで,結果がとても楽しみです。

 また重要な臨床応用研究として,眼の網膜光受容細胞が変性し,眼が見えなくなった方の視力を回復させようという研究を行っておられます。このような眼の見えなくなった方は,網膜の情報を脳に伝える神経節細胞は残っています。神経節細胞にチャネルロドプシン遺伝子を発現させると,視力が回復する可能性があるのです。聴覚分野では人工内耳によって,聴覚を失った方の聴覚回復ができることをマーゼニッチ氏が報告しており,視力の回復も夢ではないのです。実際,モデル疾患ネズミを使った研究で,神経節細胞にチャネルロドプシン遺伝子を発現させると,脳に光刺激の情報が伝わること,さらに視覚認知行動である「縦縞回転像追随首ふり行動」も観察できることを確認されているそうです。このような,重要であり,世界最先端である研究を知ることができて,学生さんたちも有益な1日を過ごすことができました。八尾先生,ありがとうございました。

 

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