教員紹介

もりやま しんや

護山 真也

哲学・芸術論 教授

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The 5th Beijing International Seminar on Tibetan Studies 報告

初めての…

2012年8月1日~4日の日程で、第五回北京国際チベット学セミナーが開催されました。私にとっては初めての中国、初めての北京であり、そして初めての北京国際チベット学セミナーでした。最初の二つの点については後日、報告するとして、ここでは肝心のセミナーについて、簡単に報告をしておきましょう。 到着日に貰ったハンドブックによれば、参加者は総勢267名。中国・チベットからの参加者が大多数を占めますが、ヨーロッパ・アメリカからも多数の研究者が参加しています。日本からは、私が出会った限りでは、桂紹隆、能仁正顕、松田和信、根本裕史、加納和雄の諸先生が参加していました。 会場は、直前に北京を襲った集中豪雨のために変更となり、中国蔵学研究中心(China Tibetology Research Center, CTRC)とその向かいにあるチベットホテルの会議室。全部で11のパネルが用意されており、私は「第五パネル:サンスクリット」に割り当てられました。「チベット学」なのに「サンスクリット」というのも変な感じですが、CTRCが進めているサンスクリット写本研究に何かしら関連があれば、この部会になるということでしょう。 Power Pointを利用した発表も多かったため、正式な発表タイトルは完全にフォローしていませんが、第五パネルの主な内容は以下のようなものでした。

8月3日(14:00-17:45、各発表30分)

1. Shoryu Katsura & Diwakara Acharya:ジネーンドラブッディのPSṬ第三章の校訂がほぼ完了したことの報告と、PSとPSVとの関係の問題について。PSはPSVの補足なしには内容理解が不可能な箇所があり、そのテキストの成立をどう考えるか、が論じられた。 2. Ulrike Roesler: サンスクリット語テクストのチベット語訳について、その翻訳の中間形態と思しき資料が提示された。 3. Jowita Kramer:スティラマティの『五蘊論註』サンスクリット語テキストを中心とした、アーラヤ識の存在証明に関する研究。『瑜伽師地論』などの関連テキストのとの比較のもとに、その特色がまとめられた。 4. Li Xuezhu:Abhidharmasamuccayaとそのvyākhyāに関する研究であり、日本印度学仏教学会学術大会での発表にさらにudāna部分の解読が加わった。 5. Liu Zhen: ナーガールジュナに帰せられるものの、おそらくは真作ではない『法界讃』(Dharmadhātustava)のサンスクリット・テキストに関する報告。 6. Francesco Sferra:“The Paramārthasevā by Puṇḍarīka and Its Place in Early Kālacakra Literature.” 7. Horst Lasic: “Dignāga and Ṣaṣṭitantra.” PSṬ第二章に引用されるṢaṣṭitantra(-vṛtti)に関して、Frauwallnerの先行研究に修正を迫るもの。個人的に、次に控える松本のフラグメント・シンポジウムで発表予定の内容と関連する箇所があり、非常に有益だった。

8月4日(8:30-15:00)

8. Eli Franco: “Towards a better understanding of the Buddhist philosopher Jitāri.” 基本的には昨年のIABSで報告された内容と同じ。 9. Birgit Kellner: “Did the Sāṅkhya invent ākāras (Tib. rnam pa)? A vexed problem in Buddhist epistemology, seen through Tibet and Indian fragments and testimonies.” Horstと同じく、Frauwallnerの学説に対して再考を促すものであり、知(buddhi)が形象(ākāra)をもつ、という見解がPSṬから回収される初期サーンキヤのテキスト断片に確認できるかどうかを問うもの。YDの一箇所を除けば、その明瞭な根拠はないのではないか、という考察が示された。有形象認識論の発展(発生)を考える上で、今後、欠かせない視点になりそう。 10. Kazunobu Matsuda: “Sanskrit Manuscript of Sthiramati’s Commentary to the Abhidharmakośa.” upanibandhaの解釈次第では、かなり衝撃的な事実が! 11. Luo Hong: “A Preliminary Report on Abhayākaragupta’s Madhyamakamañjarī.” サンスクリットのみで残された著作。学派名などについて、非常に興味深い指摘が続いた。出版が待ち望まれる。 12. Ye Shaoyong: “A folio of the Yuktiṣaṣṭikāvṛtti and Some Other Sanskrit Manuscripts Newly Found in Tibet: A Preliminary Report.” 中観・唯識研究には貴重な、新資料断片がいくつも収録されている。 13. Shinya Moriyama: “Ratnākaraśānti’s criticism of pseudo-Mādhyamikas.” 個人的には、現在進めているMAVのチベット訳テキストの校訂・英訳研究の流れで必要な発表だったが、パネル全体の趣旨には合ってないことを反省。 14. Pascale Hugon: “On the Sanskrit and Tibetan version of the Pramāṇaviniścaya. A look into the translator’s workshop of rNgog Blo ldan shes rab.” 飛行機の時間のため、聴講できず。非常に残念。 15. Shobha Rani Dash: “Exploring Palm Leaf Manuscript Research: with a special reference to Odisha.”

最後に…

この国際セミナーに参加して、桂先生が『シリーズ大乗仏教 第9巻』(春秋社)の「はしがき」に記されていた次の言葉の意味がよく分かりました。 「今中国において因明研究への関心が燎原の火のように広がりつつあることを報告しておく。やがてこの火が、インドやチベットにおける仏教論理学の研究へと点火して行くことを期待して止まない」 北京・上海を中心として、若手の中国人研究者は着実に育ちつつあります。中国から次々と出版されるサンスクリット文献を片手に、彼らが、仏教論理学の分野でも、日本や欧米とはまた違うスタイルで、新たな境地を開拓する日はそう遠くはないでしょう。私もまずは中国語の勉強からはじめたいと考えています。お隣のH先生の部屋をノックして、まずは「您好」から。

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