教員紹介

はやさか としひろ

早坂 俊廣

哲学・芸術論 教授

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中国関係

杭州便りその9

やりきれない事故/事件

杭州発福州行き「動車(D次)」和諧号

前回「行政の側が、社会の矛盾を個人の善意で覆い隠そうとすることがないようにしてもらいたい」と書きました。それを書いている時に頭を占めていた不安が、悲しい形で現実化してしまいました。浙江省温州市で起きた高速鉄道の追突・脱線事故については、日本でも盛んに報道されていることと思います。5月に寧波に行った際、同じ型の列車を利用し、温州や福州の到着予定時刻を見て「こんなに早く行けるんだったら、いつか福州まで行ってみようか!」と思ったところでしたので、他人事とは思えません。犠牲者のご冥福をお祈りするとともに、関係各所が原因・責任を徹底的に究明し、今後に活かしてくれることを切望してやみません。  前回はあえて書きませんでしたが、杭州市内でも市民の安全を脅かす事故/事件が頻繁に起きています。銭塘江にかかっている大橋(三橋)の一部が突然崩れ、トラックの荷台部分が滑落する事故が起きました。この橋は、完成直後からその品質に疑問が投げかけられていたようです。街の目抜き通りで高層ビルから窓ガラスが突然落ちてきて、若い女性が足に重傷を負う事故も起きています。工事トラックがあまりに交通事故を起こすので、ある場所で夜間に2時間検問を行ったら、600件を越える違反、180台にも及ぶ押収車両が出たそうです。つまり、ほとんどのトラックが無許可運行・過積載・スピード超過等々を犯していたことになります。食の安全については、もはやここに書くまでもないでしょう。今の中国は、ちゃんとした物を作る技術も財力も十分にあるわけだから、残念でなりません。本当の意味での「和諧社会」の実現を目指してもらいたいものです。

温州という街

今回の事件は、温州という街で起きました。温州の病院や献血車は、輸血のためにかけつける市民であふれかえり、被害者家族・友人を送迎するタクシーや自家用車も自発的に出てきているようです。私は単純な人間ですから、まずはこの事態を心から嬉しく、頼もしく感じています。  テレビニュースで、ある温州市民が「一般の人たちは、温州人を<物質的>だと思っているかも知れないけど、そうではない、我々も<精神的>なものを追求していきたいのだ」と語っていたのが、非常に印象的でした。「温州人はあくどい、金儲けしか考えていない」という話をよく耳にします。「東方のユダヤ人」(この譬え自体、どうかと思いますが)、「市場のあるところに必ず温州人あり。商売す。市場無きところにも必ず温州人あり。商売す。」といった評語がどこまで実態を反映しているのか、私には判断が付きかねますが、中国が市場経済にシフトし出した時にいち早く全国(やがては世界)に進出し、「温州モデル」と呼ばれるスタイルをある時期には確立していたことは確かです。今回の事故/事件は本当に悲しい出来事ですが、温州人に対する世間の見方を変える機会にはなるのかも知れません。

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