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学部長あいさつ

信州大学人文学部長
早坂俊廣

 竺可楨(1890~1974)という、地理学・気象学の分野で偉大な足跡を残した学者が中国にいました。彼は、1936年から1949年にかけて浙江大学の学長を務めました。いま、浙江大学のキャンパスには、彼の言葉が石に刻まれ残されています。

 諸位在校,有兩個問題應該自己問問:
 第一,到浙大来做什么? 
 第二,将来畢業后做什么樣的人? -竺可楨-

日本語に訳せば、「在校生諸君。君たちには、自らに問うてみなければならない二つの問題がある。一つ、浙江大学に来て何をするのか? 二つ、将来、卒業した後にどのような人間になるのか?」といったところでしょうか。初めて目にした時には、何だかありきたりな言葉だなと思ったものですが、何度も目にするうちに、教師が学生に投げかけるべき言葉は、これに尽きるのではないかと考えるようになりました。ここでは、この言葉を信州大学人文学部に引きつけて考えてみたいと思います。

 一つ目の問いに、「もちろん勉強です!」と答えるかも知れないあなた。大学に来てまで、「つとめ、しいる」ことなどする必要はありません。中国明代の思想家・王艮(1483~1540)は、「楽学歌」という作品のなかで、「楽はこれ学、学はこれ楽」と謳いあげました。くだいて訳せば、「楽しいままでいることが学びであり、そんな学びだからこそやっていて楽しい」となります。もともと私たちは何ものにも縛られない自由で気ままな存在であり、そういう本来のあり方を実現するのが「学」なのだとしたら(王艮はそう考えていたのです)、確かにそれはとても「楽」しいことなのかも知れません。まさに「信じるか信じないかはあなた次第」の世界ですが、彼の言い分が正しいのかどうか、4年かけて自ら「実験」してみるのも一興でしょう。

 二つ目の問いに、「どこかに就職するんでしょうね...」と他人事のように答えたあなた。「どのような人間になるのか?」が問われているのですから、それでは答えになっていません。もちろん就職は大切なことですが、「職業イコールあなた」ではありませんし、「どういう人間になるのか?」という問題のほうが人生の一大事であるのは確かなことです。

 さて、「人文学」の英語訳は「Humanities」です。「Human」、すなわち「人間」とは何かを問い続ける学問的な営みが「Humanities」です。一方、「人文学部」の英語訳は「Faculty of Arts」となっています。どうして「Arts」という語が使われているのかといえば、「Liberal Arts」、すなわち「自由学芸」(古代ギリシア以来の、奴隷ではない自由市民が修得すべき科目)に由来するわけですが、ここでは、この「Liberal Arts」を「自由に生きていくための技能」と理解してみたいと思います。「Humanities」を学びながら「Liberal Arts」を身につけていく場が、「人文学部」であるのだとしたら、上で紹介した王艮の「楽学歌」も、それほど奇妙な主張だとは言えないことになりますし、竺可楨の問いが、二つではあるものの別々のものではない、ということも理解できるのではないでしょうか。

 信州大学人文学部は、多彩な「Humanities」の世界を享受しながら、人生の軸たり得る「Liberal Arts」を身につけたいと志す人をお待ちしています。



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