若手研究者紹介

プロフィール

巽 広輔
Hirosuke TATSUMI

研究分野:
電気分析化学、生物電気化学
キーワード:
液液界面、ボルタンメトリー、バイオセンサー、
酵素反応速度
連絡先:
〒390-8621 長野県松本市旭3-1-1
信州大学理学部
Tel: 0263-37-2507
E-mail: tatsumi[at-mark]shinshu-u.ac.jp



職歴:
2001年4月〜
2007年3月:
福井県立大学生物資源学部 助手

2007年4月〜
2008年3月:
同助教

2008年4月〜:
現職


学歴:
1996年3月:
京都大学農学部農芸化学科 卒業

1998年3月:
京都大学大学院農学研究科農芸化学専攻修士課程 修了

2001年3月:
京都大学大学院農学研究科応用生命科学専攻博士後期課程 修了


主な論文・解説:
  • H. Tatsumi, H. Katano, M. Senda, Theory of normal-pulse voltammetric current of electron transfer reaction at liquid/liquid interface, J. Electroanal. Chem., 590, 82-89 (2006).
  • H. Tatsumi, H. Katano, Voltammetric study of the interfacial electron transfer between bis(cyclopentadienyl)iron in 1,2-dichloroethane and in nitrobenzene and hexacyanoferrate in water, J. Electroanal. Chem., 592, 121-125 (2006).
  • H. Tatsumi, H. Katano, T. Ikeda, Kinetic analysis of enzymatic hydrolysis of crystalline cellulose by cellobiohydrolase using an amperometric biosensor, Anal. Biochem., 357, 257-261 (2006).
  • H. Tatsumi, H. Katano, T. Ikeda, Kinetic Analysis of Glucoamylase-Catalyzed Hydrolysis of Starch Granules from Various Botanical Sources, Biosci. Biotechnol. Biochem., 71, 946-950 (2007).
  • バイオ電気化学の実際―バイオセンサ・バイオ電池の実用展開―, 池田篤治監修, シーエムシー出版, 2007.(共著)
  • H. Tatsumi, H. Katano, Voltammetric study of the interfacial electron transfer between bis(phthalocyaninato)lutetium in 1,2-dichloroethane and hexacyanoferrate in water, J. Electroanal. Chem., 614, 61-66 (2008).
  • H. Tatsumi, H. Katano, M. Senda, Theory of ac-voltammetric current of electron transfer reaction at liquid|liquid interface, J. Electroanal. Chem., 615, 45-50 (2008).
  • H. Tatsumi, H. Katano, M. Senda, Activity Measurement of Chitosanase by an Amperometric Biosensor, Anal. Sci., 25, 825-827 (2009).
  • 巽 広輔, 定常ボルタンメトリー, ぶんせき, 578-584 (2010).
  • 巽 広輔, 非定常ボルタンメトリー, ぶんせき, 206-212 (2011).
  • H. Tatsumi, T. Ueda, Ion transfer voltammetry of tryptamine, serotonin, and tryptophan at the nitrobenzene/water interface, J. Electroanal. Chem., 655, 180-183 (2011).

研究紹介

(1) 液液界面電子移動ボルタンメトリーの基礎研究
液液(油水)界面電子移動ボルタンメトリーは、たがいに混じり合わない有機溶媒と水との間の電位差を制御することにより、それぞれの溶媒中に加えた酸化還元物質間の電子移動反応を電流として観測するもので、近年このような電子移動系と生体膜を介した電子移動系との反応速度の相関が論じられるなど、生体内電子移動反応のモデル系として注目されています。しかしながら、これに適用できる酸化還元物質は現在のところあまり多く見出されていません。私たちは、ある鉄化合物を有機溶媒中の酸化還元物質として用いることにより、ヘムやヘムペプチドといった生体関連物質が液液界面電子移動ボルタンメトリーに適用できることを見出しました。
また、界面での電子移動反応の機構についても解析を行なっています。有機溶媒中のフェロセンという化合物と水中のヘキサシアノ鉄酸イオンとの電子移動反応については、フェロセンの水への移動、水中での電子移動反応、生成したフェロセン酸化体の有機溶媒への移動からなる機構により進行していることを明確に示しました。一方、有機溶媒中の酸化還元物質をあるルテチウム錯体に替えると、こちらは文字どおり界面で電子移動反応が進行していることが明らかになりました。今後は他の酸化還元物質についても検討を行ない、それらの構造と反応機構との関係を明らかにしたいと考えています。

(2) 電気化学測定法にもとづく糖質加水分解酵素反応の速度論的研究
アミラーゼ、セルラーゼといった糖質加水分解酵素は、実用目的で生産されている酵素の大部分を占め、農産・食品加工、医薬、繊維工業などにおいて幅広く利用されています。また近年、環境・エネルギー問題への関心の高まりの中で、バイオマスが再生産可能なエネルギー資源として注目され、糖質加水分解酵素はバイオマス高度利用のための鍵となる酵素としても期待されています。
酵素の機能評価のためには反応速度論的研究が不可欠ですが、従来の研究ではこれらの酵素は、反応速度の測定・解析のしやすさなどの理由から、基質(反応物)と酵素がともに水に溶けている系で扱われることがほとんどでした。一方でこれらの酵素は、天然でも、また各種工業プロセスにおいても、溶けない基質の表面で作用することが多く、従来の測定結果だけにもとづく機能評価はかならずしも十分でないと考えられます。
電気化学測定法の利点の一つとして、試料溶液の濁度や着色の影響を受けないことが挙げられます。酵素反応の生成物が測定できるような電極を用いれば、デンプンやセルロースといった溶けない基質の懸濁液についても、直接かつ連続的に酵素反応を追跡することができます。これまでに私たちはこの方法にもとづき、各種多糖の酵素的加水分解反応の速度論的研究を行なってきました。今後はさらに対象を広げて研究を進める予定です。

今後の抱負

 研究にかんしては、今後も電気分析化学および生物電気化学に基礎をおき、これまでの研究をさらに発展させていきたいと考えています。頂いたチャンスを活かして、充実したテニュアトラック期間となるよう努めたいと思います。一方教育にかんしては、学生ひとりひとりの適性に応じた指導を心がけたいと考えています。講義等において、優秀な学生の学習意欲を喚起しつつ、同時にそうでない学生をひとりも置き去りにしないということは困難ですが、つねにそれを目標としたいと思います。