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研究科長メッセージ
「社会的なOS」のアップデートを担う:知の実践者として未来を構想する
今日、生成AIをはじめとする科学技術は、私たちの生活を劇的に塗り替えています。しかしその一方で、ハルシネーション(もっともらしい嘘)による情報の混迷や、技術実装に伴う倫理的・法的空白など、従来の枠組みでは解決できない「社会のバグ」が至るところで顕在化しています。
いかに高度な技術(アプリケーション)が登場しても、それを受け入れる土台となる私たちの価値観や規範、すなわち「社会的なOS」がアップデートされなければ、真の社会実装は叶いません。長野県の阿部守一知事は、全国知事会会長として「人口増を前提に組み上げてきた社会システムは転換期にあり、意思決定の在り方から教育・交通などの社会的共通資本まで、社会の基本設計(OS)のアップデートが必要だ」と強調されました。今、社会が切実に求めているのは、まさにこの「社会の基本設計」を刷新できる人材です。
しかし、わが国の現実は依然として厳しいものがあります。令和6年度の文部科学省「学校基本調査」によれば、人口100万人当たりの修士号取得者数は、欧米諸国と比較して大きな開きがあります。また、修士課程在学者のうち人文社会科学分野はわずか15%にとどまり、自然科学が大半を占めているのが現状です。この「人文社会科学における専門知の過少」は、複雑化する現代社会において、日本が新たな価値や仕組みを創造する力を弱める要因として深く危惧されています。中央教育審議会が2025年2月の答申で「大学院教育の抜本的拡充」を強調した通り、高度な専門性を備えた人材育成は、今や国家的な急務となっています。
信州大学大学院 総合人文社会科学研究科は、人間文化学、心理学、経済学、法学という4つの専門領域を擁する修士課程の大学院です。本研究科の最大の使命は、 高度な専門知識を「武器」として携え、既存の枠組みを批判的に検討し、社会のOSをアップデートできる「高度専門職業人」、すなわち「知の実践者」を社会に送り出すことにあります。
本研究科では、この社会的責務を果たすため、理論と直結した極めて実践的な教育を展開しています。
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人間文化学分野: 思想・歴史・社会・言語などへの深い洞察を通じて、技術や制度の根底にある「人間としての倫理」を問い直し、社会の進むべき方向を指し示します。
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心理学分野: 科学的心理学としての問題発見とその解決方法の習熟に加え、「公認心理師」「臨床心理士」「学校心理士」の資格取得を支え、心の専門家として現代社会の諸課題に多角的にアプローチする力を養います。
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経済学分野: 社会科学の分析ツールを用いて、政策判断や経営判断のエビデンスを客観的に評価する「EBPM(証拠に基づく政策立案)」を実践できる人材を育成します。データサイエンス教育に注力し、複雑な社会現象をデータから読み解く、社会の即戦力を輩出します。
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法学分野: 行政や企業の内部で高度な法律知識を駆使し、複雑な利害調整やコンプライアンスを担う人材へのニーズに応えます。高度な法的思考を磨くとともに、税理士資格の科目免除に対応した指導を行うなど、実務に直結した教育体制を整えています。
人文社会科学分野での学びの成果は、学生個人の満足に留まるものではありません。ここでの知性は必ず社会全体に影響を及ぼし、より良い公共の未来を構築するための礎となるはずです。 「学び」そのものが、社会にとっての希望なのです。
私たちは、修士課程という2年間の限られた時間を、濃密な研鑽の場とすることを通じて、次世代の社会基盤を構想する「知の実践者」を育成します。信州の豊かな自然と、本学が積み上げてきた「知」が交差するこの場所で、理論と実践を往還し、より良い未来を構想するための「社会的なOS」を共に構築していきましょう。
令和8年4月
総合人文社会科学研究科長
廣瀬 純夫