研究内容

諏訪臨湖実験所 定期観測の様子

研究内容概要

◆湖沼研究部門
 現在の信州大学理学部附属湖沼高地教育研究センターは2019年4月に発足しました。同研究センターの諏訪臨湖実験所は、山地水環境教育研究センター(2001年から)、山岳科学総合研究所山地水域環境保全学部門(2006年から)、山岳科学研究所大気水環境・水生生態系研究部門(2014年から)など、時代によって組織の名称は変わりながらも、一貫して、在籍する教員と学生が協力し諏訪湖の定期観測を行ってきました。
 諏訪湖は長野県中央部、湖面標高759mに位置する長野県最大の湖です。夏の湖上花火大会や冬の御神渡りなどが有名で、地域にとっては重要な観光資源であり、治水上も重要な役割を担っています。最大水深約6mの浅い湖で、流域河川からの流入で水質が変動しやすい湖でもあります。かつては、生活排水や産業排水が直接流入し、著しく富栄養化が進行した湖でしたが、下水道整備などの水質浄化対策により、現在、その水質は改善傾向にあります。一方、近年は水草の繁茂、底層溶存酸素の低下、ワカサギをはじめとする漁獲の減少といった、生態系の変化を連想させられる事象が生じており、諏訪湖の生態系の保全や流域の治水は地域にとって重要な課題となっています。
 諏訪湖における定期観測は1977年から開始され、45年余にわたって行われてきました。蓄積された長期データと知見は、学内外の学生や研究者の教育・研究だけでなく、行政の施策にも活用されています。同時に、我が国に数多くある水深の浅い冨栄養湖の将来を予測するうえて重要な知見でもあります。近年は冬期の御神渡り(全面結氷)の減少や、夏期の水温成層にともなう貧酸素層の拡大など、地球規模の環境変動の影響も感じられるようになってきました。
 諏訪臨湖実験所では、観測や研究を通して得られたさまざまな諏訪湖の情報を発信することで、陸水学、環境化学、生態学などのさまざまな学問分野だけでなく、地域の環境保全へ貢献することを目指します。
◆高地研究部門
※現在、作成中です。
近年の学生の卒業研究や修論研究の一覧は共同利用実績はこちら!

研究内容詳細

◆湖沼研究部門
宮原 裕一
 現在諏訪湖では、水中の窒素・リンといった栄養塩濃度の減少により、透明度が改善し、浄化の過程にあります。また底層の溶存酸素濃度の減少は、水温上昇にともなう湖水の鉛直循環の抑制によって生じていることも明らかになってきました。諏訪湖で生じている様々な事象は、諏訪湖集水域の環境の変化や、地球規模での環境変動と密接にかかわっています。そこで、データロガーを用いた連続観測を行い湖の環境変動を詳細に把握するだけでなく、集水域を含めた栄養塩や水の物質循環、水質と密接な関係にある湖底堆積物の性状、そして湖内に生息する生物を支える一次生産量の把握など、諏訪湖の環境の変化やそのしくみについて研究を行っています。最近では、湖内でのマイクロプラスチックの動態についても研究を広げています。
笠原 里恵
 水辺環境に生息する鳥類を研究対象として、水辺に棲む生き物の生活と人間活動との将来的な折り合いや自然再生などに興味を持って研究をしています。鳥類は生態系の中で高次の捕食者であり、環境との結びつきの強さ、そして変化に対する応答の早さから、しばしば環境指標に用いられます。その基本的な生態や環境選好性を把握し、人為的な水辺環境の改変や外来生物などによる生物相の変化から受ける影響を理解することは、地域の水辺生態系の現状評価を可能にし、生物多様性の保全や向上にもつながります。
 生態だけでなく遺伝的な側面からの研究も進めており、近年は高山帯や農地に生息する鳥類も対象に含め、また魚類やプランクトンにも研究対象を広げつつあります。

諏訪湖の情報

諏訪湖リアルタイムモニタリング
 諏訪湖の水質を調査するにあたり、近年の計測機器(データロガー)の発達により、一部の水質項目については時間や分単位での連続観測を行うことができるようになりました。これらの観測から、諏訪湖の底層で貧酸素化が進行している様子が明らかとなり、生態系への影響を解析できるようになってきています。しかし、データロガーは、湖上から機器を回収しデータを読み出すまで、観測内容がわからないという課題もあり、湖の未来を予測するためには、より即時性のあるデータが必要です。

 2018年に諏訪市・民間企業・地元漁協とともに、リアルタイムで諏訪湖の様子がわかるような装置を開発し(上写真)、諏訪湖水質のリアルタイムモニタリングが始まりました。また、2020年秋、信州大学理学部において学内初の学術系クラウドファンディングが実施され、理学部の一員である諏訪臨湖実験所も名乗りを上げました。多くの皆様のご支援のおかげで、目標額を達成することができ、新たに自動観測装置「すわこウォッチ」が製作され(下写真)、リアルタイムに気象・水質・生物の関係を明らかにし、諏訪湖の水質を予測することを目指して、2021年から諏訪湖湖心部で観測を開始しました。

 すわこウォッチというニックネームには、「諏訪湖を監視・警戒するもの」という意味が込められています。このニックネームはクラウドファンディングの支援者に応募していただき、諏訪臨湖実験所に所属する学生の投票により決定されました。すわこウォッチには「水温」、「溶存酸素濃度」、「濁度」、「風量」の4つの計測機器が搭載されており、これらの同時モニタリングが行われています。水温は3水深(0.5m、3.0m、5.0m)で測定されており、水深別に水温の違いを知ることで、表層と下層の水がどれだけ混ざっているかが分かります。溶存酸素濃度は水深5.0mで測定されており、下層が貧酸素になっているかを知ることができます。濁度は水深0.5mで測定されており、プランクトンなどにより、どれだけ水が濁っているかが分かります。また、風量は湖上1.5mで測定しており、風の強さと湖水環境の関係を知ることができます。センサから得られた情報は、諏訪湖水質観測プロジェクトのWebサイトから確認することができます。
諏訪湖の動物プランクトン計数データ(1966~2017年)
長野県による諏訪湖の観測・調査
MENU