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研究内容

一般の病院にはない、大学医学部附属病院の大きな特色は研究です。従来の治療法に限界を感じたとき、これを打破することが出来るのは唯一研究しかありません。世界的にスタンダードな教科書、up-to-dateな論文を読むことは大変重要なことです。しかしながら、大学で働く大学人はそのような教科書や論文を読む受信者だけではなく、それを送り出す発信者になることが出来るのです。これは大学人の使命であり義務でもあります。

若いうちから世界のトップレベルの研究室に留学できる、というのも当科の大きな特徴です。ありきたりな言い方ですが、学問には国境がなく、仕事を通してどこにでも行くことができます。海外に留学し、海外の研究者たちとディスカッションし、研究成果を発表することにより大きな自信と達成感が得られます。終生の師や友人を得ることがあるかもしれません。海外での留学生活は必ずや人生の財産となるでしょう。ぜひ当科に入局して海外に羽ばたいてください。

膵β細胞からのインスリン分泌機構の研究

インスリンは膵臓から分泌される生体内唯一の血糖降下ホルモンです。糖尿病はこの血糖低下ホルモンであるインスリンの作用不足でおこります。インスリンは血糖値(血液中のブドウ糖濃度)の上昇などの刺激で膵臓から分泌されます。1型糖尿病では膵臓に存在するインスリン分泌細胞(膵β細胞)が自己免疫異常で破壊され最終的に消失し「インスリンの絶対的不足」に陥ります。一方、日本人糖尿病の95%をしめる2型糖尿病では肥満などのためにインスリン作用が低下することが発症要因として重要です。しかし2型糖尿病の本質的な病態は「膵β細胞からのインスリン分泌の相対的な低下」です。そして、このインスリン分泌能が長期的にさらに低下していくことが特徴です。

 

我々は、このインスリン分泌機構について30年以上研究を重ねています。最も重要なインスリン分泌刺激物質はブドウ糖です。しかし、ブドウ糖がどのようなメカニズムでインスリン分泌を刺激するのかはまだ一部しか解明されていません。ブドウ糖濃度上昇によるATP感受性Kチャネル(KATPチャンネル)の閉鎖とそれに続く細胞内Ca2+濃度上昇による経路が関与していることは我々が研究を始めた30年前には明らかになっていました。1992年にこの経路とは別の経路によってブドウ糖がインスリン分泌刺激を起こすことを見出し、「KATPチャンネル非依存性経路」として報告し、その生理的な特性や、いくつかのメカニズムの仮説をたて検証してきました。

 

一方、インスリン分泌を刺激するペプチドとしてインクレチン(GIP, GLP-1)の重要性が最近注目されていますが、その作用のセカンドメッセンジャーであるcAMPの膵β細胞での作用メカニズムについても研究してきました。その結果、「KATPチャネル非依存性経路」と「cAMP」が相乗的に作用して効果的にインスリン分泌を惹起していることが明らかとなりました。これらの業績により我々のグループは2013年、第50回ベルツ賞2等賞を「ブドウ糖によるインシュリン分泌とインクレチン:生理的意義の理解に向けて」とのタイトルで受賞しました。さらに、これらの知見は糖尿病治療薬として期待されているDPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬の作用を考える上で極めて重要です。

 

現在は「KATPチャネル非依存性経路」の分子基盤をプロテオーム解析という手法を駆使して解明する努力を続けています。現在、2つの新規蛋白をこの経路に関与する分子基盤として同定し、その詳細を解析中です。また、cAMP作用の生理的な作用機構の解明にも挑んでいます。

 

この研究の論文一覧を見る


甲状腺ホルモン結合蛋白(CRYM)と糖脂質代謝の研究

甲状腺ホルモン結合タンパク(μ-Crystalline (CRYM))は、甲状腺ホルモン(T3)と細胞内で結合するタンパクとして当教室で発見されました。CRYMは細胞質に蓄えられたT3の働きを調整していると考えられており、ヒトでは網膜、脳、心臓、腎臓に多く発現しています。2014年に2型糖尿病肥満患者の内臓脂肪でCRYMが減少していることが報告されたことなどから、当教室ではCRYMを欠損させたマウスの表現型を用いてCRYMの代謝機能への影響を研究しています。

 

CRYMを欠損させたマウスにおいて、甲状腺ホルモン量(T3及びT4)は野生型に比べて約2割低く、そのクリアランスは脳、心臓、腎臓で亢進しており、このマウスに高脂肪食を負荷すると、同一条件の野生型マウスに比べて体重および内臓脂肪・肝臓内の脂肪量が増加しやすく、肥満を呈する傾向があることを、我々はこれまで報告してきました。

 

CRYMの代謝への影響を調べることで、肥満の機序解明に一石を投じることができると確信しています。


甲状腺癌の遺伝子治療研究

甲状腺癌は全悪性腫瘍に対する割合は約1%と決して多くありませんが、頭頚部領域では比較的多くみられる癌腫であり、外科的摘出が治療の第1選択となります。しかし、再発や転移(発生場所から離れて他の臓器に出現)などの予後不良な難治例において、集学的治療(薬物療法や放射線治療などの組み合わせ)の効果は極めて限られており、副作用も多いのが現状です。高い奏効率で毒性の低い治療の開発が重要な課題となっておりますが、癌特異的遺伝子治療はこの課題を克服できるエポックメイキングなアプローチであると考えております。これまで当教室では、腫瘍特異的プロモーターを用いた、非増殖型アデノウイルスベクターによる甲状腺髄様癌や未分化癌に対する自殺遺伝子治療や免疫遺伝子治療を開発してきました。さらにこの研究を発展させるべく、現在、制限増殖型アデノウイルスベクターを導入した新たな治療システムの構築に着手しております。この疾患に苦しむ多くの皆様のお役に立てるよう研究に注力してまいります。


長野県高齢糖尿病患者に関する前向き観察研究 Nagano Study 2

高齢者糖尿病治療の管理目標や予後に関する十二分なエビデンスが欠如している中、1998年から6年間にわたり、当教室の関連病院を含む多施設共同で、長野県高齢糖尿病患者に関する前向き研究 Nagano Studyが行われました。その結果、

 

  • ・高齢糖尿病患者の生命予後は正常人とほぼ同様である。
  • ・最多の死亡原因は「癌」である。
  • ・網膜症の発症・進展にHbA1c上昇が関連する
  • ・登録時の腎機能低下が高死亡率と関連する。
  • ・LDL-C上昇は心血管イベント発症と関連する。
  • ・脳梗塞既往患者では血圧降下と高死亡率が関連する。
  • ・HbA1cと死亡率にはU字カーブの関係がある。

 

など示唆に富む知見が得られました。しかしながら、

 

  • ① 食後血糖がHbA1cと独立した心血管イベントの危険因子となるか?
  • ② 血糖降下療法の種類による相違はあるか?
  • ③ 血圧、脂質と予後との関連はあるか?
  • ④ インスリン分泌能・抵抗性と経過やイベント発生との関連はあるか?

 

など、結論を得られていない課題もあります。この課題を解決すべく、当教室では長野県高齢糖尿病患者に関する前向き観察研究Nagano Study 2に取り組んでおります。死亡や心血管イベント、網膜症、腎機能、血糖・血圧コントロール、脂質プロファイル、QOLに関して綿密に長期間追跡を行うことを通して、高齢者糖尿病治療の新知見を見出し、科学的根拠に基づく糖尿病患者の治療目標設定や治療選択に貢献できるよう努めてまいります。


少量スピロノラクトン投与による糖尿病性腎症の尿中アルブミン減少効果

末期腎不全(透析療法)に至る患者さんのうち40%以上が「糖尿病性腎症」が原因であり、1998年以降、透析導入原因疾患の第一位を占めています。尿中アルブミン排泄量の増加は、腎機能悪化の強い予測因子であることは周知の事実ですので、糖尿病患者さんの尿中アルブミン排泄量を減少させることは、腎機能悪化さらには透析導入を遅らせるために非常に重要です。以前からミネラルコルチコイド受容体拮抗薬であるスピロノラクトンが尿中アルブミン排泄量を減少させることはわかっていましたが、副作用として血中のカリウム上昇などのリスクが高いため臨床現場では普及されてきませんでした。しかし私達はこれまで、スピロノラクトンの一般的な最低使用量のさらに半量という、ごく少量の投与により、尿中アルブミン排泄量はしっかり減少し、一方で血中カリウム上昇などの副作用は生じにくいことを明らかにしてきました。スピロノラクトンは最も古くから使用されてきた薬剤で基本的に安全性は高く、さらに薬価は他に類を見ないほど低いため、この治療法は、安全でかつ医療費削減というメリットを併せ持つ非常に重要で、信州発の新たな治療法になると確信しています。


糖尿病患者におけるインターバル速歩の有用性

糖尿病患者さんにとって運動療法は必須ですが、未だ食事療法ほど確立されていないことが常に問題になっています。信州大学スポーツ医科学教室が考案したインターバル速歩は、速歩3分とゆっくり歩き3分を交互に行う運動療法で、有酸素運動とレジスタンス運動がミックスされており、気軽に誰でもどこでも行うことができます。インターバル速歩は松本市の熟年体育大学に入学するなどして参加することが可能で、20年以上の歴史を持ち、これまで8700人以上の一般市民の方が参加されてきました。その継続率の高さと、体力・筋力・生活習慣病指標の改善効果の高さで、世界中で注目されています。運動療法が最も重要であると言っても過言ではない糖尿病患者さん達にインターバル速歩を行い、どれほどの継続率でどのような効果(血糖や脂質代謝・体力・筋力など)があるのかを調べるのが私達の研究の目的です。まずはパイロット研究として単群研究、そしてその結果により統計学的根拠を持って前向き比較研究を行う予定です。インターバル速歩が、糖尿病患者さんの新たな運動療法として、今後世界に広がることを強く期待しています。


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