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分子細胞生理学講座では、シナプス異常と精神・神経疾患の関連について研究を行っています

自閉症について

 自閉症は、社会性の障害、コミュニケーションの障害、特定の物事への強いこだわりや特異な反復行動を特徴とする神経発達障害で、統計によっては100人に2~4人が罹患しているという報告もあります。これらの症状は3歳ごろまでに出現し、診断されますが、症状の強さや傾向はケースバイケースで、時として診断は容易ではなく、グレーゾーンとしてフォローしながら、小学校入学以降に診断が下りるということもあります。

自閉症と遺伝子異常

 自閉症は、基本的には遺伝的要因によって起こります。遺伝的要因と言っても、必ずしも親から子へ自閉症が遺伝するという意味ではありません。自閉症の原因遺伝子は、様々なものが報告されていますが、これらの遺伝子には、自閉症との相関関係の強弱に差があります。相関関係の強い遺伝子の場合、その遺伝子単独で異常があれば自閉症になるのに対し、相関関係が弱い遺伝子の場合、その遺伝子単独の異常では自閉症を発症しません。しかし、これら複数の自閉症関連遺伝子の異常や配列の違い(ポリモルフィズム)が重なることで、自閉症が発症するわけです。一卵性双生児の場合、遺伝子の配列はすべて同じということになります。実際、一卵性双生児の自閉症の一致率は高いですが、100%ではありません。片方が自閉症と診断されたけれど、もう片方が健常であったり、両方とも自閉症だったとしても、重症度や症状に差があることがあります。このことから、自閉症には遺伝的要因だけでなく、環境要因も関わっていることがうかがえます。ただし、あくまで自閉症の原因の根源には遺伝的要因が存在しており、環境要因のみで自閉症になることはないとされています。

自閉症の病態と治療法の開発

 自閉症との関連が指摘されている遺伝子は数多くありますが、それらの多くは、シナプスと呼ばれる、神経細胞同士の情報伝達の要となる部位の形成や機能に関わるものであることが知られています。このことから、自閉症の病態原理の本質は、シナプス異常ではないかと言われるようになってきました。その中でも、Neurexin、Neuroliginというシナプス同士を結合させる分子をコードする遺伝子は、自閉症との相関が特に強いと言われています。また、大脳皮質の中でも、前頭葉に位置する内側前頭前皮質の神経回路が、自閉症の社会性の異常と関係しているということもわかってきました。自閉症は、遺伝子の異常がベースにあるため、幼児期を過ぎて自閉症の病態が確立した後は、根本的治療法が存在しないと考えられてきました。しかし、私たちが自閉症のマウスモデルを用いた研究で、大人になった自閉症モデルマウスの内側前頭前皮質で、原因遺伝子を修復してやると、自閉症の症状が消失するという結果を得ております。このことから、遺伝子治療を行えば、大人になってからでも自閉症を根本的に治療できる可能性が見えてきました。一方で、日本で遺伝子治療が承認されるにはハードルが高く、特に自閉症のような生命に直接かかわる疾患でない場合、承認されるのは困難であることが予想されます。それでも私たちは、自閉症の病態原理をより深く理解し、治療法への道筋を見出すためには、研究を継続していく必要があると考えております。

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