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分子細胞生理学講座では、シナプス異常と精神・神経疾患の関連について研究を行っています

注意欠陥多動性障害(ADHD)について

 注意欠陥多動性障害(ADHD:Attention Deficit Hyperactivity Disorder)は、主に注意力の欠如、過活動、衝動性の問題が特徴的な神経発達障害です。子どもだけでなく、成人にも影響を与えることがあります。ADHDの症状や重症度には個人差がありますが、症状は年齢によっても変化し、軽度のものでは成長にともない症状が見られなくなることもあります。

診断

 ADHDの診断は、症状の詳細な評価や、学校や職場での機能レベルの調査、家族歴、他の精神障害や医学的条件の排除など、包括的なアプローチが必要です。診断基準は、アメリカ精神医学会が発行する精神障害の診断と統計マニュアル(DSM-5)によって定められています。DSM-5によると、以下の3つのタイプがあります。

1.注意欠陥タイプ
2.多動・衝動タイプ
3.混合タイプ(注意欠陥と多動・衝動の両方)

原因

 ADHDの原因は完全には解明されていませんが、遺伝、脳の構造や機能の違い、環境要因が関与していると考えられています。遺伝的要因は、ADHDの発症において最も重要な要素であり、親や兄弟姉妹がADHDの場合、発症リスクが高まることが知られています。また、脳の神経伝達物質(ドーパミンやノルアドレナリンなど)の不均衡や、前頭前野の機能低下が関与している可能性が指摘されています。

治療

 ADHDの治療は、症状の重さや個々のニーズに応じてカスタマイズされます。主な治療法は以下の通りです。

1.薬物療法:日本で承認されているADHD治療薬には、コンサータ、ストラテラ、インチュニブ、ビバンセの4種類があります。コンサータはメチルフェニデートの徐放製剤で、シナプス前終末から放出されたドーパミンとノルアドレナリンを、シナプス前終末に再取り込みするのを阻害することにより、シナプス間隙でのドーパミンとノルアドレナリンの濃度を上昇させる効果があります。コンサータが中枢神経系の刺激薬に分類されるのに対し、ストラテラは中枢神経非刺激薬で、乱用性が低いとされています。ストラテラはノルアドレナリン再取り込み阻害剤ですが、NMDA受容体拮抗作用を有することも知られています。インチュニブはα2Aアドレナリン受容体作動薬であり、低い乱用リスクを持つとされています。ビバンセは最も新しく日本で承認された薬で、プロドラッグとして血中でアンフェタミンに変化し、コンサータ同様、ドーパミンとノルアドレナリンのシナプス前終末への再取り込みを阻害し、シナプス間隙のドーパミンとノルアドレナリンの濃度を高める効果があるのに加え、シナプス前終末からのドーパミンとノルアドレナリンの放出そのものも促進する効果があります。コンサータとストラテラは、ADHDの症状のすべてに効果がありますが、コンサータは不注意に対する効果がより顕著と言われています。一方、インチュニブは、多動や衝動に対する効果が中心と言われています。

2.行動療法:症状の管理や生活スキルの向上を目的とした様々なアプローチがあります。子どもの場合、親指導や教師向けのトレーニングが効果的です。また、自己管理技術や組織スキルを向上させることが重要です。成人の場合、認知行動療法やコーチングが役立つことがあります。

3.教育的支援:学校での支援が重要です。個別化された教育プログラム(IEP)や504プランの開発が役立ちます。教育者は、短期目標を設定し、適切な調整やサポートを提供することで、ADHDの生徒が学習に成功することができます。

4.心理的カウンセリング:カウンセリングや精神療法は、自己認識や自己評価を向上させ、ストレスや他の感情を適切に管理する方法を学ぶのに役立ちます。家族カウンセリングは、家族間のコミュニケーションや関係を改善するのに有益です。

5.代替療法:生活習慣の改善(睡眠、食事、運動)、瞑想やリラクセーション技術、バイオフィードバックなど、補完的な治療法が一部の患者に有益であるとされています。ただし、これらの治療法は、主流の治療法に代わるものではなく、補完的なものとして捉えるべきです。

まとめ

 注意欠陥多動性障害(ADHD)は、注意力の欠如、過活動、衝動性を特徴とする神経発達障害です。遺伝、脳の構造や機能、環境要因が原因とされています。治療は、薬物療法、行動療法、教育的支援、心理的カウンセリング、代替療法など、患者のニーズに応じて組み合わせられます。適切な治療とサポートによって、ADHDの症状は緩和され、生活の質が向上することが期待できます。診断と治療プロセスは長期的であることが多く、家族や教育者、医療専門家との連携が重要です。ADHDの理解とサポートを提供することで、患者は自己管理スキルを向上させ、学業や職業、対人関係において成功を収めることが可能になります。

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