ここ数年、放射性物質やPM2.5、新型感染症ウイルスなどへの対策に関心が高まり、これらの微細粒子に対応する高性能マスクに注目が集まっています。しかし、既存のフィルターで高い捕集効率を達成しようとすると、フィルターが分厚く、通気性が悪くなります。そのため、息苦しさがあり長時間の使用には適しません。

高い捕集効率と優れた通気性を両立させるフィルター素材として、超極細繊維であるナノファイバーが効果的であることは以前から世界中の研究者から報告されてきました。繊維直径がナノレベルになると、圧倒的に目が細かいフィルターが作製でき、さらに繊維表面で空気の流れに滑りが生じる「スリップフロー効果」を発現するため、空気の抵抗が小さくなるなどの、ナノテクノロジー特有の効果もありあます。しかし、生産性・加工性・コスト面の障壁により、従来、採用されている分野は特殊な工業用フィルター等に限られていました。

国際ファイバー工学研究所のナノ融合技術研究グループは、2010年12月、世界で初めてナノファイバーの大量生産技術の開発に成功しました。この技術を元に、一般消費者がより使いやすいように高性能マスクへ応用しました。新マスクは、高い通気性を維持したまま捕集効率が20%向上しています。さらにフィルター部材は重量比で約100分の1となり、マスク全体としては約40%の軽量化を実現しました。

開発したマスクは御岳山の噴火の影響を受けた王滝村や木曽町に1500枚ずつ送られました。

マスクの開発や寄贈により大学の研究成果が地域の貢献につながったことでテレビや新聞に大きく紹介されました。