研究テーマ8

神経障害性疼痛の発症機構の解析と新しい薬物治療法の開発

この研究は,本学麻酔蘇生学教室との共同研究です。神経障害性疼痛とは,知覚神経が事故や病気や薬で障害された時に生ずる難治性の疼痛です。神経障害性疼痛では,疼痛・温熱刺激がないにもかかわらず自発痛が生じたり,弱い疼痛・温熱刺激を強く感じたり,本来疼痛を生じない組織の擦過や圧迫で疼痛を感じたりする症状が生じます。神経障害性疼痛は,他の疼痛治療で用いられる麻薬や非ステロイド性消炎鎮痛剤が作用しにくく,その発症メカニズムの研究に基づく新しい薬の開発が求められます。

末梢の知覚神経は,多くの場合脊髄の背側に存在する後根神経節内の神経細胞体に起始します。後根神経細胞には,うずくような痛みを感受するC細胞,鋭い痛みを感受するAδ細胞,触覚・圧覚・位置覚を感受するAα/β細胞などがあります。いずれの細胞も末梢と脊髄後角の双方向に神経線維を伸ばし,末梢の知覚を中枢に伝えます。

私たちは脊髄神経に損傷を加え神経障害性疼痛を示すようになったラットの後根神経細胞を電気生理学的に解析し,神経障害性疼痛の発症メカニズムを詳細に検討しました。その結果,驚いたことに痛覚ではなく触覚・圧覚を感受するAβ細胞が,神経損傷によりプロスタグランジンE2を分泌し,自らのプロスタノイドEP4受容体を刺激し,細胞内cAMPを介して過分極活性化環状ヌクレオチド調節性(HCN)チャネル電流(Ih電流)を亢進させ自らの興奮性を高めていることが分かりました。さらにEP4受容体アンタゴニストCJ-023423やIh電流抑制薬イバブラジンが,ラットのin vitroの神経障害性疼痛を有意に緩和することがわかり,これらの薬が新しい神経障害性疼痛治療薬のリード化合物になることが示唆されました。(Zhang H., et al. J. Pharmacol. Exp. Ther., 2019, 368:50-58)