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最新の科学情報を学ぶ特別授業「気孔の環境応答とシグナル伝達」

2012.11.30 【 CST

CST木下先生授業.JPG1123日(勤労感謝の日)には、長野市では、長野えびす講花火大会が夜行われました。その翌日の1124日(土曜)に、CST 最新の科学情報を学ぶ特別授業「気孔の環境応答とシグナル伝達」を開催しました。講師は若くして名古屋大学大学院理学研究科の教授になられた木下俊則先生です。受講生は、初級CSTの資格取得を目指している教育学部の学生さんたちです。大変有意義な講義を聴くことができました。

植物の葉の裏面には孔辺細胞2個が作る気孔が多数あり、開いたり閉じたりしています。光合成に必要なガス交換(二酸化炭素の取り込みと酸素の放出)や、蒸散による根からの吸水を行うために、植物は気孔を開きます。しかし、水分の少ない乾燥した環境になると、水分を失い枯れてしまわないために、植物は気孔を閉じます。このように気孔の開閉の調節は、根を生やした場所から動けない植物にとっては、生きるためにとても重要です。   

この気孔の開閉は中学校や高等学校で学習するのですが、孔辺細胞の体積が増すと気孔が開くことが知られています。そして、高校の教科書には、気孔の開閉は植物ホルモンによって調節され、アブシジン酸で気孔は閉じ、サイトカイニンで気孔が開くと書いてあります。ところが、「サイトカイニンで気孔が開く」というのは1930年代の植物全体にサイトカイニンを与えた結果が教科書に載ったもので再現性に疑いがあるということなのです。

では、本当は何が気孔を開かせているのでしょうか?木下先生は九州大学大学院理学研究科の島崎研一郎先生と共に、太陽光に含まれる青色光が気孔を開かせることを発見しました。そして、1)青色光が孔辺細胞にあるフォトトロピンというタンパク質に吸収されること、2)H+-ATPaseという酵素によって孔辺細胞から細胞外に水素イオンが汲み出されることを明らかにされました。そして、この水素イオン汲み出しによる細胞内の過分極により、植物の電位依存性カリウムイオンチャネルが開き、カリウムイオンが細胞内に流入し、この浸透圧変化によって、水が細胞内に流入し、孔辺細胞の体積が増し、気孔が開くのだそうです。

この他たくさんのおもしろいお話しをお聴きしましたが、すべては書ききれないので、CSTとして、もう1つだけ、ためになったお話しを書いておこうと思います。文部科学省小学校学習指導要領の理科5学年内容には、「植物の発芽には、水、空気、及び温度が関係していること」と書いてあるため、「すべての植物の発芽には光は関係ない」と思い込んでいる方が多くおられます。これは間違いで、実は光で発芽する植物が多く存在します。植物の種は地表にポロッと落ちるものが多く、光が当たると発芽します。ただし、マメ科植物のように水、空気、温度の条件が満たされると、光がなくても発芽する植物があるため、指導要領には書いてない様です。小中学校の内容でも正確に理解するのはなかなか難しいですね。

小中学校の先生を目指している学生さんにとって、今回の特別講義は、最先端の科学を学べたと同時に、教員になった時に生きる知識も学べたということで、非常に有意義な内容でした。木下先生、ありがとうございました。

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