ホーチミンでの仏教美術フィールドワーク研修

ホーチミンへ

 2月17日夜,羽田空港へ集合。日付が変わって18日の深夜1:30発の飛行機で,私たち(教員1,学生5)はベトナムへ,ホーチミンを目指す旅に出ました。  タンソンニャット国際空港に到着したのが,朝の7時頃。空港を出たところで,6人が乗れそうなタクシーを拾ったものの,車内での値段交渉で決裂。ひとまわり小さいタクシーにぎゅうぎゅうに詰め込まれて,市内を目指します。  ホーチミンの道路でまず驚くのは,圧倒的なオートバイの量。しかも,右から左から,ほとんど無秩序に車線変更(車線があるのかも不明ですが…)を繰り返しているので,さながらレース場のようなもの。飛行機であまり眠れなかったはずのみんなも,タクシーの窓から写真撮影。  ホテルは,中心街のレタントン通りとタイバンルン通りが交差するあたりに位置していました。中心街とは言え,歩道は壊れているところも多く,どこかインドを思い出させる風景がありました。チェックイン後は,自由行動。今回の参加者は全員2年生。そして,海外ははじめて。にもかかわらず,みんな,臆することなく,街に飛び出して行きました。行動力あるなぁ。  私は,グエンフエ通りを通り,サイゴン川を見渡せる場所へと出て,川沿いの散策。蒸し暑い南国の雰囲気を味わいました。    

ベトナムの歴史と文化

 ホテルのそばのフォー専門店で,ベトナム料理を食べた後,午後は,広大な動・植物公園の一角にある歴史博物館を見学しました。旧石器時代から青銅器文化の時代へ,そして,幾度もの中国からの支配を受けながらも,それをはねつけ,独立の文化を形成してきた複雑なベトナムの歴史を学ぶことができます。  ベトナムの陶磁器や家具なども展示されており,決して華美ではない,落ち着きのある芸術的感性を感じさせてくれました。そこで,水中人形劇を観覧できるはずだったのですが,観客数が足りないために,残念ながら見ることはできませんでした。  その後は,ベトナム戦争の記録が残される戦争証跡博物館を見学しました。ここは,多くの観光客,とりわけ欧米の観光客であふれかえっています。写真と資料とで,ベトナム戦争の悲惨さが伝えられています。あらためてベトちゃんやドクちゃんの写真,そしてソンミ虐殺の状況などを知らされると,この記憶を継承をすることの大切さを痛感します。当時,世界の各地で起きていた反戦運動の様子も写真で残されていました。学生たちはここで何かをつかみとれたでしょうか。おそらくは世代によって受ける印象が違うはずなので,彼らの感性が何を受け止めたのか,気になるところです。

ベトナムの宗教文化

 2日目は,ホーチミン郊外のスイティエンというテーマパークを見学しました。このテーマパークは,仏教教団がスポンサーになっているようで,巨大な仏像や仏頭,布袋さんの像などが圧倒的なスケールで(いろいろな意味で…)展示されています。仏教というと静かなイメージ,享楽的なものから隔絶したところにあるイメージですが,ベトナムの仏教(の一部?)は,その常識を軽々と壊してくれます。好意的に解釈すれば,人々の(世俗の)幸せのために活動している,ということでしょうか。  3日目は,1744年に創建されたホーチミン最古の仏教寺院ヤックラム寺を見学しました。オレンジ色の屋根が渋い,七重の塔のなかに入り,それぞれの階に置かれた仏像や菩薩,そして布袋の像に礼拝しながら,回廊を登って行きます。眼下には,トタン屋根と近代ビルの屋根とがモザイク状に広がっています。蒸し暑さで疲れた体には,この高いところを吹く風がなんとも心地良いものです。  本堂では,ちょうど読経が行われており,部外者の立ち入りはできませんでしたが,ベトナムの仏教徒の方々が唱えるお経の不思議なリズムを体感することができました。東南アジアというと,タイ仏教に象徴されるような上座部仏教の伝統が頭に浮かびますが,ベトナムの仏教は大乗仏教です。授業でも取り上げたことのある,マインドフルネスを広めた仏教徒ティク・ナット・ハンもベトナム出身の僧侶です。基本は,禅を中心とした考え方なのだろうと思います。しかし,日本の仏教の一部が神道と切り離せないように,ベトナムの仏教もまた,中国の民間信仰と結びついているようです。そのあたりも,ベトナムに日本人が親近感を覚える理由なのかもしれません。    

中華街,そして帰国へ

 仏教寺院の次に,ホーチミンの中華街であるチョロンにて,天后宮を見学しました。これまた1760年から続く古い建物で,趣があります。航海の守り神とされる天后聖母が祀られており,華僑の人たちが,たくさんの御香をたいていました。仏教とは違う,儒教の信仰について学ぶことができたと思います。  自由時間もそれなりにあったので,学生たちは銘々で,市場で値切って買い物をしたり,床屋に行ってみたり,郵便局で郵便を出してみたり,異文化体験を重ねたようです。交通事故にあわずに,無事に帰還できたのはなによりでした。おっと,言い忘れてましたが,最終日の飛行機は夜の23時50分発の予定だったのですが,日本の強風の影響で乗るはずの飛行機が到着せず,5時間遅れの搭乗となりました。映画『ターミナル』ではないけれど,ホテルのラウンジで仮眠をとり,ふらふらになりながらの帰国でした。そういうトラブルもまた,学びの一つですね。21日の昼過ぎに無事に帰国いたしました。  昨年はタイ,今年はベトナムと,芸術コミュニケーション特殊講義の一環で,海外研修を行いましたが,これで打ち止めです。昨年よりも人数は少なかったものの,個性的で活動的なメンバーとともに有意義な研修となりました。感謝です。 (文責:護山真也)

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