よくある質問(中級編)

よくある質問(中級編)/哲学・思想論分野への進学を考えはじめている人のために

◆学部に進学したら、「哲学」や「思想」といった領域で勉強してみてもいいかな、という気になっています。自分がこの分野に向いているかどうか、自分なりにたしかめてみたいのですが、どうすればよいでしょうか。

まずは、哲学・思想論の教員が担当する「共通教育科目」や人文学部の「概論」科目を受講してみてください(受験生の方は、「シラバス」のページで授業内容を確認することができますので、そちらをご覧ください)。どういった問題が取り上げられ、どのような方法で議論が進められることになるのか、おおまかな雰囲気はつかんでもらえるのではないかと思います。

また、授業以外にも、下に参考書を挙げておきますので、一度目を通してみてください。

◇野矢茂樹、『哲学の謎』、講談社現代新書. ◇鷲田清一、『<じぶん>この不思議な存在』、講談社現代新書. ◇富田恭彦、『観念論ってなに?』、講談社現代新書. ◇チャールズ・テイラー、『<ほんもの>という倫理』、岩波書店. ◇伊藤邦武、『偶然の宇宙』、岩波書店. ◇宮元啓一、『インド哲学七つの難問』、講談社選書メチエ. ◇井筒俊彦、『意識と本質』、岩波文庫. ◇加藤徹、『漢文力』、中公文庫. ◇玄侑宗久、『荘子と遊ぶ―禅的思考の源流へ』、筑摩書房. ◇南直哉、『老師と少年』、新潮文庫.

◆「比較思想」や「東洋思想」といった範囲ではなにをするのでしょうか。

例えば、「愛」という言葉を考えてみましょう。私たちが何気なく使っているこの言葉は、英語で言えばLoveですが、この二つは本当に同じ意味で使われているんでしょうか。Loveの背景にあるキリスト教的な考え方、また、「愛」という言葉が持つ仏教的な意味合い、また、それと関連する「慈悲」や「仁」といった概念を合わせて掘り下げてゆくと、「愛」の比較思想が生まれます。

この例のように、私たちが当たり前と思っている物の見方を相対化することを比較思想は目指します。私たちは自由に様々なことを考えているように思っていますが、その思考は時代と地域の制約を受けているものかもしれません。このことを確かめるために、西洋思想に限らず、インド思想や中国・日本思想という別の思考のスケール(尺度)を持つことが大切になってきます。

インド思想を例にとってみましょう。古代インド人たちの中には、古代ギリシアの哲学者たちと同じように、事物の本質を探究していった哲学者たちがいます。彼らの思想を学ぶことで、例えば、「ある単語が意味するものは何か」「自我とは一つの実体ではなく、感情や記憶の集合にすぎないのではないか」「私たちは言葉や概念を介在させることなく、ものを知覚することできるだろうか」といった、西洋思想とも共通する問題群に出会うことになります。

ここから、私たちはかなり入り組んだ「知」の迷路に迷い込みます。一体、インド思想と西洋思想とを明確に分かつ分岐点はどこにあるのでしょう?西洋思想でも問題になることを考えたインド人たちの思考の本質はどこにあったのでしょう?さらに翻って、日本人である私たちの「思想」は、「日本的な何か」の制約から自由なものなのかどうか、も問われなければなりません。

「日本的な」なんて大袈裟な、って思う人は、こんな別の事例で考えてみてください。例えば、高校の倫理の授業で孔子の「仁」について、先生が「仁とはヒューマニティのことです」と説明したとします。あまり上手な説明ではありませんが、ありがちな説明の仕方ですよね。でも、何だか変な感じがしませんか? 漢字を使って生活している私たちにとって「仁」のほうが身近なはずなのに、いざそれを説明しようとする段になると、西洋起源の言い方・考え方に置き換えて表現しないと落ち着かない/分からない/伝わらない/認めてもらえないことがしばしばあります。また、同じ漢字を使っているからと言って簡単に分かり合えるものではないということは、隣国に関する日々の報道に接していれば誰もが感じることでしょう。こんなところにも、入り組んだ「知」の迷路があるのです。ねじれてますねえ・・・。でも、私たちがそんなねじれた状態にあると気づくことも大切だと思いませんか!?  

おっと、ちょっと熱くなりすぎましたね。ともあれ、この分野で古今東西の哲学・思想を学んでいくと、巷で喧しい「グローバリゼーション」なる標語がいかにも胡散臭いものに見えてくるはずです。

◆両親に「哲学なんかに進学したら就職できなくなるんじゃないの?」と言われました。心配です。

断言します。都市伝説です。時節柄、みんな苦労はするようですが、「哲学なんか専攻しちゃったせいで就職できませんでした」という話は一度も聞いたことがありません。高校教員、航空自衛隊、公務員等の難関採用試験をみごと突破する人もいれば、IT、金融、教育関連など、一般企業についても幅広い就職先があるようです。なんにせよ、安心して進学してください。

ページの先頭へもどる