Q&A

フランス語ってどんな言語

フランス語は,イタリア語,スペイン語,ポルトガル語,ルーマニア語などと同じく,もともとはインド・ヨーロッパ語の一つであるラテン語から派生したロマ ンス諸語の一つです。ですから,これらの言語は互いに似たところがあり,フランス語を習得すれば,上に挙げたような他のロマンス語も習得しやすくなり,複 数のロマンス語を話せるようになるのもあながち夢ではありません。現に,フランス語とスペイン語を両方学んでいる学生もいます。
また,英語の単語のなかには,フランス語と共通した単語が数多く存在します。これは,1066年にフランスのノルマンディー公ギヨーム(英語名ウィリア ム)により征服されたイギリスに多くのフランス語がもたらされ,1362年にエドワード三世がその使用を廃止するまではイギリスの上層階級の共通語とな り,イギリス議会においてもフランス語が使われ,英語に深い影響を及ぼしたからです。当時はフランスの方がイギリスに比べるとはるかに文化先進国だったた め,学問や芸術などの諸分野でイギリスの貴族たちはフランス語を多く取り入れたというわけです。
現代フランス語は,4つの鼻母音を含む16の母音(しかし実際にはいくつかの類似母音が融合して12~3種類の母音しか区別されていませんが)と3つの 半母音を含む20の子音([r]の発音は独特で,日本人には難しい発音になります)を持っていますが,母音は明瞭に発音され,延ばされても二重母音化する ことはありません。アクセントは個々の単語にはなく,発音される語の最後の母音,文中では一続きの語群の最終母音に置かれますが,アクセントの有無にかか わらずすべての音節がはっきりと発音されることが特徴です。フランス語は母音が連続するのを嫌う言語です。それをふせぐためのいくつかの文法上の規則がも うけられています。たとえば,フランス語の単語を構成する最後の子音字は発音されないことが多いのですが,その語末の子音が意味上のまとまりのある語群 (これをリズム・グループとも言いますが)の中でつぎの単語が母音ではじまっている場合には,その母音と一体化されて発音されるという連音現象(これをリ エゾンと呼んでいます)が起こります。これは,詩の朗読やシャンソンを歌うときなどには,とくに注意深く意識的に行われます。フランス人の美意識の中に は,美しく諧調に富むフランス語の発音は,母音と子音をバランスよく交互に発音することによってもたらされるという考えがあり,17世紀古典主義時代の文 人ボワローがフランス詩法の規則として母音衝突の禁止を定めてからは,一般のフランス語の発音でもそれが求められるようになったのです。リエゾンが起こる と,フランス語の聞き取りを難しくしますが,反面,耳にここちよく響く美しいフランス語を生み出すことにもなるのです。

[フランス語圏とは?]
フランス語はフランス本国(海外県,海外領土も含めると6000万人)の他,ベルギー(700万人),スイス(250万人),ルクセンブルク(20万 人),カナダ(810万人)をはじめ,モーリタニア(58万人),マダガスカル(70万人),ルワンダ(48万人),カメルーン(120万人)などの旧フ ランス領アフリカ諸国の一部で話され公用語の一つとなっています。また,ハイチ(360万人),モナコ(10万人),アフリカ大陸のマリ(150万人), セネガル(210万人),トーゴ(65万人),ガボン(100万人),コート・ジボワール(320万人),コンゴ(72万人),ザイール(360万人)な ど旧仏領,旧ベルギー領から独立した21ヶ国では唯一の公用語となっています。これらのアフリカ諸国では小学校からフランス語で教育が行われています。そ の他にも,公用語にはなっていませんが,旧フランス領であったチュニジア(375万人),アルジェリア(1200万人),モロッコ(800万人)でもフラ ンス語は話され,北アフリカの地中海に面するこれらマグレブ三国からは移民または労働者が多くフランスに移住してきています。
フランス語は,国際連合,ヨーロッパ連合,ユネスコでも公用語の一つに指定されています。このようにフランス語は,文化的共通語としては,英語,ロシア語,アラビア語,中国語と並んで広く世界中で学ばれている言語なのです。

[国際語としてのフランス語の変遷]
フランス語はすでに12,13世紀にはラテン語に次ぐヨーロッパの教養語となり,その文学作品はロマンス語圏をこえて各国語に訳されています。ま た,13世紀にはイタリア人ブルネット・ラティーニが『知識宝典』をフランス語で書き,マルコ・ポーロの『東方見聞録』もフランス語で広く読まれました。 このようにフランス語ははやくから国際語としての性格を持っていたことがわかります。15,16世紀にはイタリア語,スペイン語の隆盛の前にやや衰えを見 せましたが,16世紀のイタリア戦争でイタリア・ルネサンスを知ったフランスの貴族たちがイタリア文化を取り入れ,イタリア女性と結婚したため,サロンの 風習が上流階級にもたらされ,フランス語はそのようなサロンの会話をつうじて洗練されていきます。
17世紀後半,古典主義の勃興とともに,フランス語は理性的で社交的な言葉としてさらに磨きがかけられ,ボージュラの『フランス語覚書』,ポール・ロワ イヤルの『論理文法』,アカデミー・フランセーズの辞書などによって整備され,ルイ14世のベルサイユ宮殿を中心に,その宮廷をお手本としたヨーロッパの 上流社会の共通語となり,外交の交渉にはフランス語が使われるようになっていきます。
18世紀には,ラテン語にかわって学者たちの共通語となり,ベルリン,ペテルスブルクなどのアカデミーでも紀要はフランス語で刊行され,ライプニッツも『単子論』をフランス語で著し,プロイセン王フリードリッヒ二世も日記をフランス語で書きました。
外交文書にフランス語が公用語として用いられるようになったのは,三十年戦争を終結させる1648年のウェストファリア条約以来のことで,日露戦争の講 和条約もフランス語が正文でした。しかし1919年のベルサイユ講和条約からは,フランス語に並んで英語も使われるようになりました。ただし文言に疑義が あるときにはフランス文によるとされています。第二次世界大戦以後は,国際的に英語の勢力が増していますが,ベルンの国際郵便条約ではフランス語が正文で あると決められ,どこからでも郵便の上書きや届けはフランス語で書けるようになっています。

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