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第6回AIジェネラル基礎ゼミが行われました。

AIジェネラル基礎ゼミ

第6回 「AIと健康芸術」(2021年11月10日)

信州大学社会基盤研究所 特任教授 稲葉敏郎

 第6回目の講義は、稲葉敏郎先生による特別講義が行われました。軽井沢病院総合
診療科医長であり芸術家でもある稲葉先生は、「体と生命を理解し、AIを考える」と
いうテーマのもと、医療的・教育的・芸術的の全体性を意識した観点から、AIについ
て深く考える機会を与えて下さりました。

1.人間の体とAI
 稲葉先生は、人の出生のプロセスや、人の細胞・臓器の仕組みを、図を用いて説明
しつつ、次のようにお話されました。「体」は人の生命を養う場でありながら、私た
ちが自分の体について理解・把握する機会が乏しい。人の体は約1000兆個の細胞で構
成され高度に複雑化したものである。特に人間の特徴としては脳の発達・複雑化が著
しく、これにより「考える」能力が高まる一方で、その分「悩む」場面も多くなる、
すなわち心の複雑化も伴ってくる。自分の体の構造の理解は、自分自身の性質の理解
へと繋がる。
 続けて先生は、「あたま」「からだ」「こころ」を分割して整理することで、私た
ちの内心を、「あたま」の作る偽のこころと、本当の「こころ」とを峻別することが
可能であるとし、両者の違いを説明しつつ、その把握が重要であると説明されまし
た。その上で、AIとは、この「あたま」を外部化したものであって、脳化社会の産物
であるとすることで、本講義の多角的視点におけるAIの位置づけを示されました。

2.実例を踏まえた多角的評価
 AIに関し、近年話題になったケースとして、稲葉先生は、2019年のNHK紅白歌合戦
で登場したAI美空ひばりについて次のようにお話されました。AI美空ひばりは、多く
の関係者の協力のもと、当時の最高峰の技術を用いて実現されたものであるが、視聴
者らの評価は賛否両論の形となった。かかる評価の多様性は、制作物としての(技術
的)評価・社会的試みとしての評価・メディア表現としての評価・死者への倫理とし
ての評価といったあらゆる視点から評価されている所以であるとし、AI技術が技術・
社会・倫理や法律と多くの領域にかかわることを示されました。
 続けて先生は、まとめとして次のようにお話されました。一口に倫理と言っても、
「個の倫理」と「場の倫理」が存在する。もっとも、その両立を図るのは人間だけで
あり、両立を実現する手段は「対話」にあると言える。先に述べた通り、AIは人の「
あたま」の外部化したものである。その背後には制作者など、必ず人が存在してお
り、AIには同人の何らかの意図が反映されている。人間が行うべき仕事は、隠された
意図を「対話」により深め、AI技術を誤った方向に導かないようにすることである。

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