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第6回ライフクリエイター入門演習が行われました。

ライフクリエイター入門演習

第6回 「AIの定義と歴史(2)」(2021年5月26日)

信州大学社会基盤研究所 特任教授 林憲一

第6回の講義では、過去二回のAIブームを振り返り、現在の第三次AIブームの特徴や、AIの課題について紹介しました。

1.人工知能の歴史

1950年代に始まった第一次AIブームでは、簡単な迷路などの「トイプロブレム」しか解くことができなかった。記号と数字しか処理できないコンピュータは、迷路のすべての行き止まりと分岐点を記号化し、迷路の枠を取り払い、スタートを起点としたツリー状のチャート図に迷路を置き換えて解法を探した。しかし、組み合わせの数が多すぎる場合はコンピュータで計算しつくすことができず(組み合わせ爆発)、チェスや囲碁などの複雑なゲームには対応できなかった。計算量を減らすために、序盤で経験的に選択肢を削除する「ヒューリスティック」や、計算せずランダムにゲームを進めて最後に勝率を計算する「モンテカルロ法」が編み出された。

コンピュータの性能向上により冬の時代を抜け出し、1980年代には第二次AIブームが到来した。医者などが持つ専門知識をプログラミングし、質問に対してYES、NOで答えて問題を解決する「エキスパートシステム」の開発が進んだ。1970年代にアメリカで開発された医療診断システム「MYCIN」は、血液疾患の患者を診断し、69%の精度を実現した。これは、専門医の精度より低いが、専門以外の医者よりは高い数値であった。しかし、世の中のすべての知識を意味ネットワークで記述するのは大変な作業であり、矛盾も生まれやすかった。加えて、「桜がきれいです」などの論理的・記号的に書けない知識(暗黙知)はコンピュータに記述できず、これらの限界を前にブームは去った。

2.第三次AIブーム

現在は、2010年代から始まった第三次AIブームの真っただ中にあり、競って研究が行われている。たくさんのデータから統計的な手法を用いて傾向を学ぶ機械学習、さらにその中の一分野である、人間の神経細胞の仕組みを再現したニューラルネットワークを使って自動で学ぶ深層学習(ディープラーニング)の実現に大きな特徴がある。これにより、数字や記号の処理しかできなかったコンピュータが、画像や音声などの非構造化データを認識・解析することが可能になり、自動翻訳機や自動運転の開発につながった。

3.AIの課題

進歩の一途をたどるAIであるが、課題も多い。「今やろうとしていることに関係するある事柄だけを選び出すことが非常に難しい」(フレーム問題)といいう課題は、AIはいわゆる常識という能力を備えていないからであり、人工知能における最大の難問とされている。

また、言葉などの記号と実世界の対象がどのように結びつくかという問題では(シンボルグラウンディング問題)、AIが人間と同じように言葉を理解するには身体性(知覚や経験)が不可欠で、記号を操っているだけでは正しい理解につながらないという指摘がある。

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