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地層中に残された巨大津波の痕跡

■ 津波堆積物研究とは?

地層中に残された巨大津波の痕跡(津波堆積物)を見つけ,過去の巨大地震・津波の履歴を解明する研究を行っています.沿岸の低地や湖沼の地層を調査することで,古文書などの歴史記録では知り得ない過去数千年前まで遡って地震・津波の履歴を解明することができます(図1).地質調査によって過去の地震・津波の規模や発生間隔を明らかにすることで,将来発生し得る地震の規模や発生時期の評価に貢献できます.

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図1.別府湾の沿岸低地における掘削調査の様子と堆積物コアに保存された約2000年前の津波堆積物.


■ 津波堆積物研究の進展

近年では,コンピューターを用いた津波の数値シミュレーションに関する研究も多く行われています.図2は,約7300年前の鬼界アカホヤ噴火の際に大規模カルデラ形成に伴って発生した巨大津波をシミュレーションしたものです.地質情報と津波数値計算を組み合わせることで過去に発生したイベントの全容により正確に近づくことが可能となります.このような研究は,沿岸地域での津波ハザードマップの作成にも貢献しています.また,津波堆積物の情報(層厚や粒径)からそれを堆積させた津波の水理量(流速や高さ)を逆解析する研究にも現在チャレンジしています.

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図2.約7300年前東シナ海で発生した鬼界カルデラの大規模陥没による津波の数値シミュレーション.


■ 災害科学を研究する地質学者として

研究者としては,やはり世界の誰も知らない未知のイベントを最初に発見するということが最大の目的であり,最高の瞬間でもあります.しかしながら,災害科学を研究対象としているため,そのイベントによる被災者が必ずいます.特にイベント発生直後の緊急調査では,被災地と被災者への配慮を忘れないことが,当然ですが重要になります.今後発生する地震や津波,河川洪水などの自然災害を止めることは私たち研究者には不可能です.災害科学を研究する地質学者としては,過去に発生したイベントを念入りに調査し,将来のリスク評価に繋がる研究データを公表することが大事な使命であると考えています.

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図3.2015年に発生した鬼怒川氾濫による被害(茨城県常総市).

山田 昌樹