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信州大学 理学部 ようこそ、探求の世界へ。理学クエスト
笠原 里恵

笠原 里恵

講座:湖沼高地教育研究センター
略歴:
2009 東京大学大学院農学生命科学研究科 修了(博士:農学) 2009-2010 一般財団法人自然環境研究センター(嘱託職員) 2010-2013 立教大学理学部(研究員) 2013-2015 認定NPO法人バードリサーチ(研究員) 2015-2016 立教大学理学部(研究員) 2016-2019 弘前大学農学生命科学部(研究員) 2019-現職
キーワード:鳥類学,河川生態学,陸水学,保全
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そこに鳥がいる理由
(もしくは,いない理由)

鳥には県境も国境もないけれど

 鳥というと,翼があって大空をどこへでも移動でき,なににも縛られずに自由に生きているように思えるかもしれません.確かに鳥たちは人間が決めた境界なんて気もかけずに飛んでいきますが,生息するにはそれぞれ種で必要な環境があり、ある種がそこにいるか(生息できるか)は、その種が利用できる環境の有無や量に大きく影響を受けています.

 もし利用できる場所がなくなってしまったら?-別の環境を使うことを選択する種もいるかもしれませんが,数を減らし,なかには姿を消してしまう種もあるでしょう.現在、世界では約11000種の鳥類が記載されていますが(Gill & Donsker 2019),IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストでは,このうち約14%が絶滅の危険性が高い種(CR:近絶滅種, EN:絶滅危惧種, VU:危急種)に指定されています(IUCN 2019).

 危機に陥った種の個体数を回復するためには減少の要因を把握するとともに,その種の環境選好性や生活史などの基本的な生態を理解することが必要ですが,個体数が少なくなった後の調査は時間も手間も(お金も)かかり結構大変です.それぞれの種が普通に見られるあいだに知見を蓄積しておくことは,将来に起こりうる人的な環境改変や外来生物の侵入などによる生物相の変化から種が受ける影響を検討する上で重要なことだと考えます.

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まだ普通に見られる鳥たち:オオヨシキリの子育て/ ヒナに魚を運ぶカワセミ/ コチドリの巣と卵/ コチドリの成鳥


人間活動と生き物との折りあいを考える

 鳥類をはじめとした生き物が減少してきた背景によく挙げられるのが,人間による環境改変です.河川や湖沼などの水辺生態系も,水が人間の生活に不可欠であるがゆえに,歴史的に改変されてきました.1980年代以降に環境問題が注目されたことで水辺の環境保全や生物多様性の維持・向上にも関心が向けられるようになりました.その一方で生き物の中には人間活動との軋轢を生じさせているものもいます.水辺に棲む生き物の生活と人間活動との将来的な折り合いや自然再生を考えるうえで,各種の生態や必要とする環境,ほかの生き物との関係などを理解することは不可欠だといえるでしょう.

 私は,諏訪湖や千曲川などをおもなフィールドとして,県内の水辺に生息する鳥類を対象とした研究を行なっています.そこから,地域の水辺生態系の現状評価や,将来的な生物多様性の保全および向上に貢献できる知見の蓄積を目指しています.
・・・県内の高山帯や県外の水域での鳥類の研究もちょろりと実施しています.

鳥や水に興味のあるみなさん,一緒に水辺生態系を解明してみませんか?


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諏訪湖の水環境を定期的に観測するのは研究室の重要な仕事/ 千曲川でのセンサーカメラ調査


引用文献

Gill, F & D Donsker (Eds). 2019. IOC World Bird List (v9.1). doi: 10.14344/IOC.ML.9.1.
IUCN. 2019. IUCN. Summary Statistics. https://www.iucnredlist.org/resources/summary-statistics