Pick up! 研究紹介:榊原厚一

Pick up! 研究紹介動画 ~水循環の理解から地球環境を考える~

研究テーマ:水文観測網を構築し,高山帯の水の流出過程と循環過程を明らかにする。

Q1. 研究の目的を教えて下さい。
森林限界を超える高山帯の水の流出過程や循環過程を明らかにしたいと考えています。高山帯は北極等の極域と同様に,気候変動の影響を強く受ける地域と言われています。その影響をまず受けるのは,気象と水環境です。しかしながら高山帯の厳しい環境によって,観測に基づく研究が十分なされておらず,現時点での水の動態さえ分からないことが多いことが現状です。そのため,信州の地の利を生かした水文観測網を構築し,高山帯の水の流出過程と循環過程を明らかにしていきたいと考えています。
Q2. 具体的な研究内容の詳細を教えて下さい。
今は,北アルプスの乗鞍岳の高山帯を主な研究対象地として,研究に取り組んでいます。各種許可を取得したうえで,降水量,渓流流量,水質等を観測するセンサーを高山帯に設置しています。また現地で水試料を採取し,水の同位体比や溶存成分を分析しています。特に今注目している現象は,高山帯の豪雨時の流出現象です。基盤岩が露出している高山帯は,従来,雨の流出への変換が迅速に起こると考えられていました。しかし実際に観測をしてみると,単純な降水の流出では説明ができないデータが出てきました。その一つが,ハイドログラフのテーリング(ピークが尾を引いている状態)です。もし雨が単純に流下するのであれば,このような数日に及ぶテーリングはみられません。さらに雨と渓流水の化学成分にも大きな違いがあることが分かってきました。これらの情報を手がかりに,高山帯の水の流出は,なぜ,どのタイミングで,どのように起こるのか。さらにその水は,水資源として利用できる価値はあるのか,等を明らかにしていきたいと考えています。
Q3. 日本の高山帯は世界の高山帯と比べてどのような違いがありますか?
「夏の降水量の多さ」が最も大きな違いです。高山帯研究の中心地である欧米では夏に乾燥する気候ですので,どのように夏の水資源を確保していくかが課題です。一方,日本の高山帯はアジアモンスーンの影響を受け,夏に大量の雨が降ります。例えば乗鞍岳では,7月から9月の3カ月間で2000 mmを超える降水が観測されることもあります。この降水は災害の源にもなりますし,有効に活用できれば水資源になります。このような環境下における研究は世界的に類を見ないです。防災技術発展や水資源確保の観点で,日本の高山帯から新しい知見を発信していくべきだと考えています。
Q4. 榊原先生の研究はどのように役に立つのでしょうか?
やはり,まずは,洪水や土砂災害の予測技術の向上です。高山帯は日降水量が100 mmを超える降水が多発するので,平地と比べて多くの事例が検証できます。どう水が動いたら災害になるのかを明確化することで,警報の発令のタイミングや被害範囲の確かな推定につながると考えています。
また,少し大きなことを言ってしまいますが,今後,もし世界的な水危機に陥った時,水資源獲得に対するポテンシャルが最も高い地域は高山帯ではないかと思います。そのようなときが来ないことを祈りますが,もしもの時に高山帯の水循環について理解できていないと対応ができません。現在,また将来の私たちの持続的な発展に貢献していきたいと思っています。

研究室の学生の研究テーマを訊いてみましょう

金井 杏樹 (物質循環学コース,4年生)
Q1. どのようなことを研究されていますか?
山岳域の斜面からの水流出過程を研究しています。

Q2. 具体的な研究内容を教えて下さい。
最近,豪雨に伴う災害が頻発しています。特に洪水や土砂災害です。これらは山岳地や森林の斜面からの水流出が起点となっています。そのため,雨が降ったときに「斜面内部の水がどう動くか」を理解することがとても重要になります。現在は斜面から流出する水量,雨から流出までのタイムラグ,地中の水のエネルギー分布の時空間的変化等を調べることにより,山岳斜面における降雨-流出現象の解明に取り組んでいます。
Q3. この研究の大変なところを教えて下さい。
やはり自然現象を相手にしているところです。例えば研究室で念入りに観測機材を調整して現場に設置しても,想定外の豪雨などによって機材が流されてしまったり,うまく測れなかったりなどのトラブルが頻繁に起こります。研究をしていて,自然の驚異を実感しています。
井上 凌 (物質循環学コース,4年生)
Q1. 今,何をしているのですか?
山岳地域で観測した気温データをプログラミングによって解析しています。

Q2. プログラミングによって何かわかったことはありますか?
山岳域の気温の鉛直勾配を解析することで,高度ごとにどのように気温が変化するのかが明らかになりました。現在,その気温変化が一般的な気温逓減率と異なることが見えてきたので,その要因を地形や土地被覆の面から明らかにしたいと考えています.
行廣 真 (物質循環学コース,4年生)
Q1. 研究テーマを教えて下さい。
北アルプス広域の地質と水質の関係を調べることです。

Q2. 今はどんな作業をしていますか?
地理情報システムを用いて,流域の地形や地質の空間情報を解析しています。

Q3. この研究のためにどのようなフィールドワークをされましたか?
実際に北アルプスの槍ヶ岳や雲の平などに登って採水や現地調査を行いました.卒業研究では合計で19日間山で調査をしました。

研究室必須アイテム

山岳調査に行くときの必須アイテム

ザック:何日も山に入るのに必要な荷物を持っていきます。
レインジャケット:雨風をしのぎたいので。
GPS:観測地点の測定には必須ですね。
熊よけスプレー:万が一のときに備えて。

Interviewer

金子 滉克 (物質循環学コース,3年生)
Q. 今回,榊原研究室をいろいろ回って,どうでしたか?

榊原先生,研究室の先輩方に温かく迎えていただき,水循環に関わる研究内容を知ることができました.お話を伺う中で,高山帯の自然環境が私たちの生活に密接に関わっているとわかりました.私も高山帯での研究に興味があるので,卒業研究に向けて励んでいきたいと思います.

関連する研究成果

論文1 Koichi Sakakibara, Sho Iwagami, Maki Tsujimura, Ryohei Konuma, Yutaro Sato, Yuichi Onda
"Radiocesium leaching from litter during rainstorms in the Fukushima broadleaf forest"
Science of the Total Environment, 796, 148929 (2021).

論文2 Koichi Sakakibara, Maki Tsujimura, Sho Iwagami, Yutaro Sato, Kosuke Nagano, Yuichi Onda
"Effectivity of dissolved SF6 tracer for clarification of rainfall–runoff processes in a forested headwater catchment"
Hydrological Processes, 33, 892-904 (2019).
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