Pick up! 研究紹介:高梨功次郎

Pick up! 研究紹介動画 ~植物はどうやって"クスリ"を作るのか 生合成経路の解明を目指す~

研究テーマ:植物二次代謝産物の生合成経路を解明する

Q1. 研究の目的を教えて下さい。
様々な植物を特徴づける代謝産物がどのように作られるかを明らかにしたいと考えています。生体内で作られる化合物のことを代謝産物と言いますが、糖やアミノ酸など生存に必須な代謝産物は多くの植物で共通しています。一方で、タバコのニコチンやトウガラシのカプサイシンなど、特定の植物のみが作る代謝産物があります。これらがその植物のなかでどのように作られるか、また植物の進化史の中でいつ、何故、作られるようになったかを明らかにしたいと思っています。
Q2. 具体的な研究内容の詳細を教えて下さい。
今、私のところではムラサキという植物の紫色の成分であるシコニンがどのように作られるか、を主として研究しています。植物の紫色というとアヤメやスミレなどの花、もしくはナスやブドウなどの果実の色を思いつきますが、この植物は根が紫色をしています。この紫色の成分がシコニンで、切り傷や火傷などの皮膚の薬として使われています。
また、染め物にもよく使われていて、古くは冠位十二階の染め物にも使われたといわれていおり、我々にとってなんとなく馴染みのある植物です。
そんな昔から使われているムラサキですが、このシコニンがどのように作られるかはまだ分かっていないんですね。
図の緑色で囲んだ反応経路は全ての植物が有するものですが、ムラサキ科植物はこの経路で作られるGPPとPHBをカップリングさせてGBAを作る反応を出来るようになったことで、シコニンを作るようになりました。ここ2年でその経路がどんどん解明されているのですが、まだ分かっていないところがあり、そこを解明したいと考えています。

ムラサキ以外にも、コケ植物と高等植物が作る赤色化合物の経路の解明など、数種の植物を用いて、その植物特有の代謝産物の研究を行っています。
Q3. 最後に,本研究の今後の見通しと,将来の目標を教えて下さい。
シコニンがどのように作られるかが判明したら、いつ、なぜシコニンを作るようになったかをしらべたいですね。進化の再現は本当に難しいですが、シコニンを作る能力を獲得することでムラサキ科植物がどう生存に有利になったかを調べたいですね。
また,シコニンに限らず、植物の代謝産物の微生物による大量生産は挑戦してみたいですね。
さらに,何故特有の代謝産物を作れるようになったのか、その進化の過程も非常に興味があります。

研究室の学生の研究テーマを訊いてみましょう

古舘 拓来 (理学専攻 生物学ユニット,大学院生)
Q1. 研究テーマを教えて下さい。
コケ植物が作るリッチオニジンという赤い色素について調べています。

Q2. その研究テーマの具体的な研究内容を教えて下さい。
植物は陸上に進出してから大きくコケ植物と高等植物に分かれて進化しました。ですので、両者は起源が同一であるということから共通する仕組みと、それぞれ独立に進化して獲得した仕組みをもっています。赤い色素は高等植物ではリンゴの果皮やアジサイの花などに含まれるアントシアニジンが有名ですが、コケ植物はアントシアニジンではない赤い色素を作りますので、それがどのように作られるかを調べています。

Q3. それは今何の作業をしているのですか?
遺伝子を改変したゼニゴケをシャーレで無菌状態で育てているのですが、今はそれを月に一度新しいシャーレに移す作業をしています。

Q4. 遺伝子を改変することによって,赤い色素を作ったり作らなかったりするものがある,ということを調べているのですか?
はい。特定の遺伝子の機能を抑制した際に赤い色素を作らなくなれば、その遺伝子は赤い色素の生合成に関与している事が分かります。
押切 春佳 (総合理工学専攻 生物・生命科学分野,大学院生)
Q1. 研究テーマを教えてください
様々なムラサキ科植物のシコニン生合成について調べています。

Q2. その研究テーマの具体的な研究内容を教えてください
私は日本のムラサキを使ってシコニン生合成経路の一反応を解明したのですが、 ムラサキ科植物は東アジアや中欧でも民間薬として使われていて、それらは日本 のムラサキとは別種になります。それらのシコニン生合成経路を日本のムラサキ のものと比較しています。

Q3. 生合成って何ですか?
化合物がどのように作られるかを表した言葉で、生体内で酵素により作られることを生合成と言います。対になる言葉は有機合成ですね。

Q4. それは今何の作業をしているのですか?
LC-MS/MSという機械をつかって、いろいろなムラサキ科植物のシコニンやシコニン と構造が似ている化合物の分析をしているところです。

Q5. LC-MS/MSは何をする装置ですか?
植物は形や大きさ、性質が異なる様々な二次代謝産物をつくります。この機械ではその化合物を性質の違いで分けて、さらにそれぞれの化合物の分子量も調べることができます。得られた化合物の性質や分子量などの情報から、その植物がどんな二次代謝産物を生産しているのかを知ることができます。
眞辺 美咲 (理学科 生物学コース,4年生)
Q. 眞辺さんってアドバンス科目とってたんですよね?アドバンス科目で所属してたときと実際に研究室に配属されてからとで,何か新しく感じたこととかありますか?

やっぱり,1,2年生のときに実際に実験はしていたけど,曖昧でよくわかっていなかったところがありました。そういうところが,1〜3年で授業を受けているうちに,だんだん理解が進んできました。そのような理解が,4年生の今,実験をする上で活かせているかなぁと感じます。
※アドバンス科目:生物学コースでは,意欲のある学生はアドバンス科目を履修することで,本来3年生の後期から研究室に配属されるところ,早ければ1年生から先取りで研究室に所属して研究の経験をすることができる。

研究室必須アイテム

LC-MS/MS (液体クロマトグラフ質量分析計)

混合物から化合物を「分離」してその「分子量」を測定する機械。
代謝産物の研究には欠かせません。
ほぼ毎日、徹夜で働いています。

Interviewer

皆川 香桜里 (理学科 生物学コース,2年生)
Q. 今回,高梨研究室をいろいろ回って,どうでしたか?

ご紹介いただいた機器は初めて見るものばかりで面白かったです.明るい雰囲気で迎えていただき,代謝産物の生合成経路に関する専門的な事柄から,この分野に決めたきっかけなどもお話できたので,私が今後配属する研究室を決めるための足がかりを得ることができました.

関連する研究成果

論文1 Takanashi K., Nakagawa Y., Aburaya S., Kaminade K., Aoki W., Saida-Munakata Y., Sugiyama A., Ueda M., Yazaki K. Comparative proteomic analysis of Lithospermum erythrorhizon reveals regulation of a variety of metabolic enzymes leading to comprehensive understanding of the shikonin biosynthetic pathway. Plant and Cell Physiology, (2019) 60:19-28.

論文2 Oshikiri H., Watanabe B., Yamamoto H., Yazaki K., Takanashi K. Two BAHD acyltransferases catalyze the last step in the shikonin/alkannin biosynthetic pathway. Plant Physiology, (2020) 184:753-761.
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