受験生向け研究紹介

松本 卓也

理学科 生物学コース 進化人類学分野

人類進化の謎解きに出かけよう

1. 初期人類の「行動」や「社会」を解き明かす
人類の進化過程を探る際に、最も有用な証拠となるのが化石です。化石からは身体的特徴がわかるほか、成分分析によって当時の食物の性質などがわかります。では、ここでクエスチョン。初期人類は誰と一緒に食物を獲得し、誰と一緒に食べていたでしょうか?初期人類は家族で暮らしていたでしょうか?また、どんな遊びをしていたでしょうか?このように化石に残らない人類進化の謎を解くために考え出されたのが、霊長類学や進化人類学と呼ばれる学問分野です。本学問分野では、現生のヒト(生物種としての人間)とヒト以外の霊長類の行動を注意深く観察し、比較することで、過去の霊長類の行動に関する洞察を深めていきます。
2. ヒトもチンパンジーも、子どもたちにとって「おやつ」は大事?
私はこれまで合計で3年近くアフリカ・タンザニアのキャンプで生活して、野生チンパンジーを観察してきました。私の観察から、野生チンパンジーの子どもたちが母親との食事とは異なるタイミングで独りで「おやつ」を食べていることがわかりました。おやつとして食べられていたものは子どもたちにとって手に入れやすく、母親が普段食べないものも多く含まれていました。これらの特徴は、私たちが子どものころ食べていたおやつとも共通している点が多いのではないでしょうか。まだ検証すべき点は多く残されていますが、もしかしたら遠い昔のヒトとチンパンジーの共通祖先の子どもたちも、森でおやつを食べていたのかもしれません。
人類の進化に温泉が果たした役割とは!?
2020年に発表された論文で、初期人類の化石が出土することで有名なオルドバイ渓谷の地層の分析から、当時の生態系に温泉が存在していたことがわかりました。この論文では、人類は火で調理を始める前に、温泉で硬い植物や動物の肉を茹でていたのではないかと「推測」していますが…ここは霊長類学・進化人類学の出番です。実は、野外環境で温泉を利用していることがわかっているのは、ヒト以外では信州(地獄谷)のニホンザルだけなのです。これから信州のニホンザルを研究することで、温泉が霊長類の行動や社会に与える影響について、いろんな仮説を検証したいと考えています。例えば、いつもは仲が悪くて近寄りがたい相手とも、温泉の中では近くでゆっくり過ごすことができるかも?

高校生へのメッセージ

1. 私の中学・高校時代、大学への期待
野球とテレビゲームばかりしていましたが、夏休みには伊勢の祖父母の家で過ごし、海や山で遊ぶのが恒例でした。海に潜って貝やワタリガニをとったり、夜の森で昆虫採集をしたりした経験が、私の原風景かなと思います。特定の生き物が好きというわけではないけれど、なんだか生き物っておもしろい。そんな漠然とした動機で(信州大とは別の大学でしたが)理学部を目指しました。理学部に入れば、生き物の神秘に迫ることができるのだと、わくわくしていたことを思い出します。そして、その期待は決して裏切られませんでした。
2. 大学ってどんなところ?
ひとことで表現すれば「自由」です。これから信州大学理学部生物学コースを目指すみなさんには、個性的な教員たちや魅力的な研究内容だけなく、信州大学が8学部を持つ総合大学である点も、進路選択のポイントにして欲しいと思います。学問は理系・文系等に便宜上分けられていますが、知りたいことがあるならば、学問の垣根なんて簡単に飛び越えられるような跳躍力が必要です。信州大学での「自由」な交流を通して、自分ひとりでは決して思いつかなかったような研究・発想・将来の夢を描いて欲しいと願っています。
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