研究・トピックス

Research & Topics

研究・トピックス

  • トップ
  • 研究・トピックス
  • 自閉スペクトラム症・ADHDの診断数、子どもと大人でともに増加 ―全国の医療レセプトデータで14年間の推移を解析―

自閉スペクトラム症・ADHDの診断数、子どもと大人でともに増加 ―全国の医療レセプトデータで14年間の推移を解析―

【研究成果のポイント】

  • • 全国の医療機関の保険診療データ(NDB)を使い、2010〜2023年度に新しく自閉スペクトラム症(ASD)または注意欠如多動症(ADHD)と診断された人の数と、その推移を調べました。
  • • ASDの新規診断は約162万人、ADHDの新規診断は約148万人で、どちらも年々増えていました。
  • • 大人(20歳以上)では、2013〜2014年度頃からADHDの診断数がASDを上回りました。女性のADHDでは、子ども期に加えて20〜24歳にもう一つの診断ピークが近年出現し、子ども期と同じくらいの水準になっています。
  • • この増加は、ASDやADHDの特性を持つ人が生物学的に増えたことを示すものではありません。発達障害がよく知られるようになったことや、支援を受けるのに診断が求められる日本の社会の仕組みなどによって、「診断を受ける人」が増えたためと考えられます。

【概要】

信州大学医学部子どものこころの発達医学教室・精神医学教室の篠山大明准教授、本田秀夫教授らの研究グループは、全国の診療データベース(National Database [NDB])を用いて、日本における自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠如多動症(ADHD)の新規診断の状況について、2010年度から2023年度までの推移を調べました。その結果、ASD・ADHDともに新しく診断される人は子どもでも大人でも増えていました。大人では2013〜2014年度頃からADHDの診断がASDを上回っていました。また、とくに若い成人女性でADHDの診断が大きく増えていることもわかりました。

ただし、このデータは医療機関が保険請求のために記録した病名(いわゆる保険病名)をもとにしています。わかるのは「医療機関で診断を受けた人の数」の変化であり、ASDやADHDの特性を持つ人そのものが増えたことを意味するものではありません。診断が増えた背景としては、発達障害が社会に広く知られるようになったこと、大人のADHD治療薬が承認されたこと、そして日本では福祉サービスや職場での配慮(合理的配慮)を受けるのに正式な診断が求められることが多い点などが考えられます。

本研究成果は、2026年10月20日に米国医師会の学術誌『JAMA Network Open』に掲載されました。

【背景】

ASDとADHDは、代表的な発達障害(神経発達症)です。海外の報告では、ASDは人口の約1%、大人のADHDは2〜3%とされています。研究グループはこれまでにもNDBを使い、日本の子どものASDの累積発生率が高いこと(2021年)や、特に大人でADHDの診断が増えていること(2022年)を報告してきました。一方で、長い期間にわたる診断の推移、ASDとADHDの両方を持つ人がどの順番で診断されているか、新型コロナウイルス感染症の流行前後の変化などは、まだ十分にわかっていませんでした。

【研究手法・成果】

NDBには、日本の人口の約99%をカバーする保険診療の記録が集められています。本研究ではNDBを使い、2009年度から2023年度(2009年4月〜2024年3月)にASDまたはADHDの病名が記録された人を調べました。2009年度にすでに診断されていた人は除き、2010〜2023年度に新しく診断された人を対象にしました。そのうえで、各年の人口(国勢調査などの統計)を分母にして、年齢層ごとの新規診断割合を計算しました。

① 診断数と年齢のピーク
新しく診断された人は、ASDが1,621,682人、ADHDが1,483,470人でした。どちらも5〜9歳で最も多くなっていました。5〜9歳の新規診断割合は、10万人あたりでASDが370(2010年度)から996(2023年度)に、ADHDが254から864に増えていました。また、20〜24歳の新規診断割合は、10万人あたりでASDが68(2010年度)から190(2023年度)に、ADHDが20未満から334に増えていました。
② 大人でADHDがASDを上回る
19歳以下の子どもでは、一貫してASDの診断がADHDより多くみられました。一方、20歳以上の大人ではADHDの診断が急に増え、女性では2013年度、男性では2014年度にASDを上回りました。ASDは幼い頃の発達の様子から気づかれることが多いのに対し、ADHDの困りごとは進学や就職で求められることが増えたときに初めて表に出ることがあります。この違いが関係していると考えられます。
③ 若い成人女性でADHDの診断が増加
女性のADHDでは、2017年度頃から子ども期(5〜9歳)に加えて20〜24歳にも2つ目の診断ピークがあらわれました。2020年度以降は、子ども期のピークに近い水準に達しています。この傾向は男性にはみられませんでした。女性のADHDは、多動・衝動性よりも不注意が中心となることが多く、幼少期には気づかれにくいことが知られています。背景には、そうした女性が就職などで生活環境が変わる時期に困難が表面化しやすいことや、SNSなどで大人の女性のADHDが話題になることが増えたことがあると考えられます。
④ コロナ禍の影響
2020年度には、新型コロナウイルス感染症の流行による受診控えの影響とみられる一時的な減少がありましたが、2021年度以降は再び増加しています。
⑤ ASDとADHDの両方を持つ人の診断の順番
両方の診断を受けた人のうち約46.3%(541,149人)は、同時に両方の診断を受けていました。別々の時期に診断された人では、どの年齢層でも「ASDが先、ADHDが後」の順番の方が多くみられました。
⑥ 49歳までに診断を受ける割合の試算
2023年度の年齢別の新規診断割合をもとに試算すると、49歳までにASDと診断される割合は15.7%(男性19.4%、女性11.9%)、ADHDは14.2%(男性16.9%、女性11.4%)となりました。ただし、これはあくまでも「2023年度と同じ年齢別の新規診断割合が今後もずっと変わらずに続く」と仮定したときの理論上の数字です。今の子どもたちが実際に49歳になるまでにこの割合で診断されると予測したものではありません。診断の傾向はここ十数年で大きく変わってきており、今後も変わっていくと考えられます。現在の大人の診断には、子どもの頃に診断を受ける機会がなかった世代も含まれています。そのため、同じ年齢層の新規診断割合が将来も今と同じになるとは限りません。
とはいえ、この数字の高さは、現在の日本で非常に多くの人が診断を受けていることを示しています。その背景として、研究グループは社会的・文化的な要因を考えています。日本では支援サービスや職場での配慮を受けるときに正式な診断が必要になることが多く、それが診断を受ける人を増やしている可能性があります。

本研究の限界

  • • NDBの病名は保険請求のための記録で、実際に医療機関を受診した人の情報に限られます。地域全体の本当の有病率を示すものではありません。
  • • 保険病名として記録された診断が、診断基準を満たしているかどうかは個別に確認していません。
  • • 今回使用したデータにはうつ病や不安症などの診断情報が含まれておらず、これらの影響を考慮できていません。
  • • 結婚などで姓と加入する健康保険が同時に変わると、同じ人が新しい患者として数えられることがあります。そのため、特に25〜34歳の女性では新規診断割合がやや高めに出ている可能性があります。

【波及効果・今後の予定】

本研究により、日本でASDとADHDの診断を受ける人が、子どもでも大人でも増えていることが、全国規模のデータで示されました。特に大人のADHD、なかでも若い成人女性で診断が増えていることは、大人の発達障害の診療体制や、大学・職場での支援を考えるうえで大切な情報になります。

同時に、今回の結果は「診断を受ける人の増加」を示すもので、発達障害そのものが増えたことを示すものではありません。診断が増えている背景には、支援を受けるのに診断が求められる日本の仕組みがあると考えられます。今後は、診断の有無だけにとらわれず、困りごとに応じて支援を受けられる仕組みを整えることも大切です。

研究グループは今後もNDBなどを使って診断の動きを追い続けるとともに、診断が増えている背景や、診断を受けた人のその後の経過について研究を進める予定です。

【論文情報】

論文タイトル Incidence of Autism Spectrum Disorder and Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder in Japan
著者 篠山大明1,2,3、公家里依2,3、廣田智也4、土屋賢治5,6、本田秀夫2,3
1 信州大学医学部精神医学教室、2 信州大学医学部子どものこころの発達医学教室、3 信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部、4 岡山大学学術研究院医歯薬学域子どもの発達とメンタルヘルス講座、5 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学連合小児発達学研究科、6 浜松医科大学子どものこころの発達研究センター
掲載誌 JAMA Network Open
DOI 10.1001/jamanetworkopen.2026.39578

【お問い合わせ先】

〈研究内容に関するお問い合わせ先〉

信州大学医学部精神医学教室
准教授 篠山大明
Tel:0263-37-2638 Email:sasayama[at]shinshu-u.ac.jp

〈報道に関するお問い合わせ先〉

国立大学法人信州大学 総務部総務課広報室
Tel:0263-37-3056 Email:shinhp[at]shinshu-u.ac.jp

※上記の[at]は@に置き換えてください。

 
MENU