研究成果トピックス研究成果トピックス

大井美知男 学術研究院(農学系)教授
高品質四季成り性イチゴ品種
'信大BS8-9'を利用した
周年栽培の試み

【四季成り性品種'信大BS8-9'の特性】

  • 真夏の高温期でも糖度が高く、味が濃い
  • 白ろう果が発生せず,うどんこ病に強い
  • 栽培マニュアルに従って栽培管理を省力化
  • 果実品質が高く草勢が強いため周年栽培も可能

【本研究の概要】

<現状の課題>
夏秋どり作型に利用される四季成り性品種は、促成栽培の一季成り性品種に比べ糖・有機酸含量や着色などの果実品質が著しく劣っています。
これまで夏秋どり栽培に適していた高緯度・高標高地域にあっても、近年は高温による収量減と可販果率の低下が現れてきています。
一季成り性品種の促成作型と四季成り性品の夏秋どり作型に2極分化していて、周年栽培体系は存在しません。

【提案】

四季成り性でありながら果実品質の高い'信大BS8-9'が育成されたので、現状の課題を打開する品種として選定し、東北・北海道および中部高冷地での安定供給モデルを構築しようと考えています。

【期待される効果】

夏秋季においても輸入に頼らない国内のイチゴ生産体制が確立出来ると思います。
高品質イチゴの大量生産によって、夏秋季のイチゴ生食の新たな需要が生まれます。
夏秋どりイチゴ生産地帯でのこれまでにない周年生産が実現するでしょう。

●これまでのイチゴ栽培は図のように促成栽培と夏秋どり栽培にはっきり分かれていて,それぞれ利用される品種が全く違ったタイプです.
 促成栽培で利用される品種は高品質のものが多いですが,残念ながら1年中花を咲かせることはできません.
 一方,夏秋どり栽培で利用される品種は1年中花を咲かせることはでき来ますが,品質は促成栽培品種に比べると劣ります.
 そこで,この両方の利点を備える新品種'信大BS8-9'を使って周年栽培しようとしています.

これまでのイチゴの作型と新作型

●周年栽培の実験は更級農業高校の施設で実施しています.狭い空間ですが,室温,培地温度,CO2などを制御して,イチゴの生育にあった最適環境を作り出しています.
 温度環境は地下水の熱エネルギーをヒートポンプによって利用していて,制御はきわめて正確に行われています.
 しかし,実験地での日射量は少なく,また,栽培施設内に透過する日射が極端に少ないため,イチゴの生育や光合成効率が悪くなっています.
 そのため, LED光による補光設備を近々に設置することとしています.

実験施設での栽培の様子

高木 直樹 学術研究院(工学系)教授
温室内の温湿度管理

建築環境工学的視点から温室内の温湿度をコントロールした。対象は、温室内温度、湿度、培地温度であり、いずれも農業の低炭素化を目指して、地下水(年間を通じて16℃)を汲み上げ、ヒートポンプで熱交換を行い、温室内で利用した。秋からの運転で冬を越えた現時点で、外気温度、湿度にかかわらず室温、培地温度は想定の温度20℃に対し15℃~23℃を維持している。ハウスは断熱性、気密性が低い建物であるため、夜間、外気温が下がると影響を受けているが、イチゴの栽培には十分な気温を保持している。

ハウス内温度

【温室内の環境測定】

 ハウスの状況を信州大学農学部(南箕輪)、工学部(長野市)でも監視するために、遠隔監視システムを構築した。システムで監視しているセンサーは、地下水温度センサー5カ所、ハウス内室温5カ所、ハウス外気温1カ所、土壌温度6カ所、養液温度12カ所、ハウス内湿度3カ所、ハウス外湿度1カ所、日射センサー2カ所(外部・内部)CO2 センサー1カ所である。これらのデータは携帯電話の回線を利用して、インターネット上に上がり、外部のパソコン、スマートフォンでモニタリングできる。現時点で順調に監視している。

環境測定システム

【温室内の画像監視】

 ハウス内の状況を目視で確認するために監視カメラを設置している。カメラは全貌を監視できる位置に置き、データはインターネットに乗せることで,外部から監視できるシステムになっている。現時点では監視は毎時正時の撮影をしている。またカメラは一般的な監視カメラではなく、市販一眼レフカメラを用いているため、極めて高精度であり、後から詳細な観測をするためにズームアップをした時も画像の鮮明度は高い。

ハウス内画像
同画像のトリミング画像

藤縄 克之 信州大学特任教授(研究)・信州大学名誉教授
施設園芸栽培作物の
低コスト・高品質・
周年安定供給技術の確立

農水省の「攻めの農林水産業の実現に向けた革新的技術緊急展開事業」の採択を受けて、2014年度から2015年度までの予定で「施設園芸栽培作物の低コスト・高品質・周年安定供給技術の確立」を実施しています。局所加温・冷却方式を用いた地下水熱源ヒートポンプシステムが組み込まれた最新式農業ハウスが安曇野市三郷に建設され、厳しい冬の寒さを見事に乗り越えたイチゴとトマトがいよいよ収穫され始めました。

松澤 恒友 信州大学特任教授
健康で美味しい
「ながのブランド」を創出!

信州大学工学部は長野市と連携し、社会人、大学院生を対象に、地域食品産業分野での技術革新を担う人材の創出により地域経済の活性化を目指す人材養成プログラムに取り組んでいる。同プログラムでは、農産加工実習や課題研究を通して、大学のバイテクやプロセス技術のシーズを駆使し、長野県産素材に拘り、健康で美味しい高付加価値食品の商品開発を進めている。

松島 憲一 学術研究院(農学系)准教授
トウガラシ等の地域資源の活用

トウガラシやソバをはじめとした農産物資源の遺伝学的、育種学的な研究を実施しています。我々の農学的、生物学的な研究結果が工学的分野と融合して大きな結果を生むことを期待しております。