令和8年08月18日 取材
令和8年4月1日付けで医学部附属病院長に就任された関島良樹先生に、医療現場の変化、DE&Iをめぐる現状と課題、働き方、そしてこれから目指す病院の姿について伺いました。
医療の進歩と、変わりつつある医療現場
関DE&I推進センター長(以下「関」):今年4月1日に医学部附属病院病院長にご就任され、おめでとうございます。先生のご専門についてお聞かせいただけますか。
関島病院長(以下「関島」):専門は脳神経内科です。脳卒中や認知症、頭痛など、脳や神経に関わる病気を専門にしています。
関: 先生が医学部に在籍されていた頃と今では、医療もずいぶん変わりましたか。
関島: 全然違いますね。僕が医学部に入った頃、あるいは医者になった頃は、治る病気というのは本当に限られていました。でも今は、脳の病気でもほとんど治るようになってきています。
関: 特に大きく進歩した治療は、どのような病気でしょうか。
関島: 私が専門にしている全身性アミロイドーシスです。アミロイドというタンパク質の塊が体にたまって神経などが障害される病気ですが、私が医者になった頃は本当に不治の病でした。それが今は、核酸医薬などを使って治療できるようになり、早く治療すれば、ほとんどの患者さんは悪くならなくなりました。
関: 固まって、もう溶けないと思っていたタンパク質が消えていくということですか。
関島: そうですね。変性したタンパク質が除去されるということです。一番多いアミロイドーシスはアルツハイマー病ですが、脳にたまるアミロイドβを溶かす抗体治療も、3年ほど前からできるようになりました。これも克服されてきています。
DE&Iをめぐる現状と課題――「誰もが適した仕事に就ける」職場へ
関: 現在の病院における男女の割合や、男女の職場環境について教えていただけますか。
関島:女性の医学生、医師、病院職員は年々着実に増えてきています。医学生は、約4割、医師では約3割が女性です。逆に看護師は、以前は女性が圧倒的に多かったのですが、男性の比率が12.4%と増えてきています。医師、看護師など、男女のステレオタイプで「この職種は男性、この職種は女性」というのはなくなってきて、男女を問わず、その仕事に就きたい人、適した人が仕事に就けるようになってきているのではないかと思います。
関: 男女差がなくなることで、職場では何か変わってきたことはありますか。
関島: 育休などは、やはり女性も多く取得しますが、昔は特に医師の世界では「休んではいけない」「家庭よりも仕事を優先する」という考え方がありました。家庭の事情で休むことは、ほとんど認められないような雰囲気でした。でも今は、ライフイベントで一定期間休むことは、女性だけではなく男性も当たり前になってきています。それを見据えた人事配置もできるようになってきたと思います。
関:病院の基本方針にもDE&Iを意識した内容が加わったということですね。
関島: それまでは診療、地域医療、教育・研究など4つの基本方針でしたが、5つ目として「多様性を尊重した働き方の職場をつくる」ということを入れています。
関: 育休から復帰した女性の方も、その後普通に働いているという感じでしょうか。
関島: そうですね。保育所のおひさま保育園もかなり充実してきまして、そういうものも利用しながら、私の診療科でも、皆さん、子育てをしながら、出産されて1年以内に復帰されている方が多いです。そういう職場を目指していますし、そうなっていると思います。
関: 女性もキャリアを途切れさせることなく、着実にステップアップしていけるイメージでしょうか。
関島: そうなりつつあると思います。ただ、課題として、教員や管理職に占める女性の割合はまだ十分とはいえません。特に臨床の教授には女性がいないのが現状です。管理職になるには相応のキャリアと時間を重ねる必要がありますが、新しい時代の中で、着実に実績を積んできた若い方々が、管理職として活躍する日はそう遠くないと考えています。
関: 海外出身の方もいらっしゃいますか。
関島: スタッフではまだ多くありませんが、留学に来ている方はいます。病院の中にも何人かいますし、学生も来たりしています。
関: 海外留学には、どのような意味がありますか。
関島: 医療技術そのものだけであれば国内でもそんなに問題ないと思います。でも、海外に行くと、いろいろな社会を見ることで視野が広がったり、海外の共同研究者ができたりするので、メリットは大きいと思います。私も2年ほどアメリカに行っていました。最近は海外留学を希望する若い方が少し減っているので、病院としても奨学金を出しています。ぜひいろいろな社会を見てきてもらいたいと思っています。多様な人が互いを尊重し、支え合いながら、それぞれの力を発揮できる。そして、立場や職種、経験などに関係なく、誰もが安心して意見を発信できる。そうした職場をつくることが、働きやすさだけでなく、患者さんの安全やより良い医療にもつながっていくと思います。
ワーク・ライフ・バランス――働きやすさと医療安全を支える心理的安全性
関: 病院長になられて、改善したい点や目指していきたい職場環境についてお聞かせいただけますか。
関島: 改善というか、目指しているところとしては、心理的安全性の高い職場環境です。立場や職種、経験に関係なく、自分の懸念や思ったこと、アイデアを発信できる。そして、それに対して批判されることを恐れずに発信できるということを重要視しています。
これは教育や研究にも大事ですが、医療安全にも非常に大事なことです。例えば手術室でドクターが手術をしていて、見ている看護師が「ちょっと変じゃないか」と思った時に一言かけることで、医療事故を防げることが知られています。そういった発言しやすい環境、そして看護師から医師が発言を受けても、それをしっかり受け入れる環境を徹底していきたいと思っています。
関: 医師と看護師、その他の医療スタッフとのコミュニケーションを風通しよくするために、何か工夫をされていますか。
関島: 「TeamSTEPPS」という、チーム医療のためにみんなで学ぶプログラムがあります。それを定期的に開催しています。また、インシデント、いわゆるヒヤリハットのようなものもすべて収集しています。どんな小さなことでも、その中に心理的安全性に懸念があるような事項があれば、みんなで包み隠さず考えるということを徹底してやっています。
関: 医師の働き方改革も進んでいますが、そのあたりはいかがでしょうか。
関島: これもかなり考え方が変わりました。私たちの頃は、教授が帰る前に帰ってはいけない、みんな夜までずっといる、という感じでしたけど、今は仕事が終わればみんな家に帰りますし、昔に比べれば随分変わったかなと思います。ただ、課題としては外科系の人数が少ないことです。長時間手術が多くきついイメージがあるのか、全国的に特に消化器外科医や心臓血管外科医の不足が問題になっています。そのため、 時間外勤務を減らそうと思っても、実際に人がいないのでなかなか減らせないということがあります。そこで、タスクシフトを推進して、医師の事務的業務を補佐するドクターズクラークを増やしたり、医師の指導のもとで一定の診療行為を行う診療看護師を採用したりする方向で進めています。
関: 先生ご自身は、ワーク・ライフ・バランスをどのように取られていますか。
関島: 仕事はかなり多めだと思いますけれども、自分の好きなことをしたり、体を動かしたりして、ストレスをためないようにしています。夏は土日にプールで泳いだりもしています。
これから目指す病院――「笑顔をつくる ミライをつくる」
関: 先生は今後、信州大学医学部附属病院をどのような病院にしていきたいとお考えですか。
関島: 信大病院のキャッチフレーズに「笑顔をつくる ミライをつくる」という言葉があります。これは信大の職員の方が作ってくれたキャッチコピーで、このロゴも職員が作ってくれたものです。本当にこのキャッチコピーのような病院にしていきたいと思います。
関: 信州大学医学部附属病院の良さは、どんなところに感じていますか。
関島: まず、非常に診療科同士の垣根が低い点ですね。診療科の垣根を越えていろいろ協力して共同研究したり、共同のプロジェクトをやったりすることが、とてもスムーズに行われています。それが一番いいところかなと思います。
関: それは心理的安全性というところにもつながりますね。
関島: スムーズに意思疎通ができていると感じます。そこは非常に良い点なので、ぜひ伸ばしていきたいです。というのも医療資源や医療人材は限られています。高度医療を担う医師はある程度大きな病院に集約し、周辺地域もカバーする一方で、人口減少が進む地域には、一人で幅広く診られる総合診療医を育てて配置していく必要があります。また、医師一人ひとりにライフイベントがありますから、助け合えるチーム体制づくりが大事だと思います。内科なら内科、外科なら外科で、長野県、信州大学のチームとして、困った時にサポートし合える環境を作っていきたいと考えています。