令和4年05月12日 取材

令和4年4月1日に農学部長に就任された米倉真一学部長に中島男女共同参画推進センター長が農学部における男女共同参画の現状等についてインタビューをしました。

農学部の男女共同参画

【農学部】米倉 真一 学部長

【学生の女性比率について】
中島男女共同参画推進センター長(以下「中島」):学部長へのご就任おめでとうございます本日はよろしくお願いいたします。「男女共同参画推進センター」は男女共同参画を進める立場です。女性、特に研究者の方が男性と同等に、育児や介護で困ることがないように制度を整備したり、当事者にお話しを聞きながら変えていけることは担当部署に進言したりしています。学部により様々な事情があると思いますので、学部長という立場のお方に、就任のタイミングでお話しを伺っています。

米倉農学部長(以下「米倉」):とても大事な組織だと思います。日本にはまだまだ根付いていないですからね。

中島:そうですね。日本ではまだまだ過渡期にあり、いつか「そんな組織もあったね」となってくれればいいのですが、信州大学としてはまだまだ必要な組織になっています。農学部では女子学生の比率や、教員の採用における女性比率は、信州大学の中でもかなり高い方ですね。学部で比べること自体よくないとは思いますが、かなり上位に入る学部です。私自身が理学部所属なもので、どのように成し遂げてきたのか、また逆に農学部特有なことでお困りのことがあればお聞かせください。

米倉:女子学生は多いですね。農学部全体でいうと、5:5くらい(令和4年5月現在49.5%)で、コース別で見ると年度によっては7割が女子学生という時もあります。それはおそらく、ここの組織が何かを頑張ったからというより、日本の風潮というのが大きく、理系に進学する女子は、生物学系への興味が大きい方が多いので、農学部や薬学部へ進学する人が多くなっています。これは信州大学だけでなく、全国的な傾向ですね。自分たちが頑張った結果、女子学生比率が高いんだと言いたいところですが、日本のトレンドが農学部に来ているというのがあると思います。

中島:コースによってここの学科は女子が多いというようなことはありますか?

米倉:農学部には生命機能科学コース、動物資源生命科学コース、植物資源科学コース、森林・環境共生学コースの4つのコースがあります。年度によっては女子のほうが多くなるコースもありますが、まんべんなく女子がいて、教育プログラムによって差が出ることはないですね。ただ森林・環境共生学コースはフィールド系なので、そこは生命系よりも若干少なくなっていますが、少ないわけではなく、生命系、例えば私は動物資源生命科学コースにいますが、そこは7割が女子になることもありますが、そのような事がないだけで、ある一定数は女子学生となっており、特に少ないということはありませんね。

中島:日本全体で農学部といわれるような学部は同じような傾向ですか。

米倉:そうですね。

中島:そうなってきたのも古い話ではないですよね。

米倉:私も農学部出身なんですが、当時、女子学生比率は3割程度でした。ただしその当時も工学系の学部に比べると女子学生は多かったですね。今は女子の進学率が上がったこともあり、女子がどこの学部に進学するかを決めるときに、やはり農学部、薬学部を選択する方が多く、それが女子学生の比率が高まった要因だと思いますね。

中島:理学部の物理学コースとしてはそこから奪っていかないといけないところですが・・・。

米倉:物理や工学は女子があまり行かないところだ、というようなイメージ、勝手な先入観が強いんだと思います。

中島:農学部のようなところがなければ理系の女子はここまで増えなかったということも言えますね。そういった意味では、どういうイメージがつけば女子が来てくれるのか、考えないといけないですね。
 先生たちの世代だと女性の先生はあまりいないと思いますが、3~7割が女子学生ということになると、先生たちが苦労したことというか、女子が来たな、と構えてしまうようなことはありますか。

米倉:そういうことはないですし、女子学生のほうが真面目な子が多いので女子が増えて困るというようなことはないですね。女子のほうがしっかりしていて積極的な子が多いですからね。

中島:「真面目」というのは自分自身では実感できないところではあるんですが、どうしても少数派だから真面目にならざるを得ないのかな、と思っていましたが、女子学生が7割いても女子のほうが真面目なんですね。

米倉:だからといって男子学生が不真面目というわけではなく、7割の女子学生の中にも、もちろん不真面目な学生もいるので、あくまでも割合の話ですが、概して女子のほうが真面目だなと。何割になってもそこは変わらないのかなと思います。
 あとは農学部に女子学生が多い理由としては、農学部では動物や植物を扱いますので、例えば動物が好きだとか、花が好きとか、学問的で何かを探求するというより、子どものころから興味を持っていて農学部を選ぶ感じの子が多いような気がしますね。

中島:入口が沢山あるという学問の性質があるかもしれないですね。物理や数学というと狭いんですよね。私はそういうところもいいところだと思っていますが、やっぱり人によっては「嫌な人は入ってこなくていいよ」というようなツンケンした感じが出てしまい、そういうところが日本社会だと子どもにあまり行かせたくないと思われてしまうのかもしれません。

米倉:突き詰めると日本社会全体の話ですよね。日本社会全体の価値観・概念がやっぱりこうあるべきだ、というのが強いですよね。親世代ではもっと強くて、子どもになるに段々緩やかにはなっているとはいえ、子どもは親の影響を受けますから、やっぱりそこを脱却するまでは・・・。そういう価値観がなくなってくると大学もよくなっていくと思います。だからこそ男女共同参画推進センターの役割というのは重要で、概念を変えていくということが大事だと思いますね。

【農学部】米倉 真一 学部長

【教員の女性比率について】
中島:農学部は女性教員の割合も高いですが、若い先生が多いですか。

米倉:そうですね、私自身は2010年にここにきて、その当時女性教員は2人(平成23年5月2人(女性比率2.9%))しかいませんでした。その後、女性限定公募をやりました。ただそのあとも普通に公募をして女性教員が採用され、今は11人(令和4年4月1日現在)と、比較的多くなっています。年齢層で見るとやはり若い世代の教員が多いですね。今後、そういう方たちが管理職になり、リードする立場になると色々変わっていくのかなと思います。

中島:それは時間をかけていくしかないですよね。農学部の女性限定公募は信州大学の歴史に残ることだなと思っています。他の学部でそれが出来るかというと、そもそも応募者が来ないとか、逆差別だという意見もあり、それに対しては反論できず、なかなか難しいことだと思います。そういった意味では学生さんにもこれだけ女子がいますし、女性教員を増やしていかないと困るよね、という声が勝ったということですよね。

米倉:そうですね。ただこれがこれから持続的に動くかというと、それには課題が沢山あり、現在、確かに女子学生の割合は高いですが、彼女たちが博士課程まで進学するかというのはまた別の話ですね。やはり教員を増やすためには博士課程まで行き、学問を突き詰めてもらわないといけないというのがあって、それは男子も女子も変わらないんですが、博士課程までどのように流れを作っていくかというのが一つの大きな課題だと思います。

中島:理系全般で言えることですね。いわゆるSTEM分野と言われる分野で、元々女子が少ない中で、修士課程にいくとまた減り、博士課程に行くとまたさらに減り、グラフにするときれいな階段状の構造になっています。理系学部に入っても、進学するにつれ女子が減ってしまうという要因は、問題として考えていかないといけないと思っています。
農学部の修士課程に進学する学生の割合をみるとそこまで低くないようには思いますが、現状はどのような形ですか。

米倉:民間企業で研究開発職に就きたい学生は修士課程まで行きますので、修士課程まではある程度の女子学生は進学しますね。博士課程になるとそもそもの博士課程の学生が少ない中で、より女子が少ないというのが現状です。

中島:でも学生で入ったときもクラスに3~7割女子がいて、修士に行くことが普通になってきているというのが、元女子学生の立場としてはほんとに学びやすい環境だと思います。私たちのときは学生100人のなかにポツポツという感じでしたので。農学部のホームページで実験風景の写真を拝見しましたが、男女混じって伸び伸びとやっていて、男子学生にとってもそういう環境ってすごく理想的だなと思いました。

米倉:そのこと自体は農学部ではある程度当たり前になっていますね。確かに理学部のお話しを聞いていて、もしこれで女子が1割だったらまた別世界ですよね。

中島:男子学生も女子が少ないことを当然と思ってしまうと、社会に出たときにギャップが生まれますよね。学ぶ環境がほんとうにただ学問をやるというだけものではなくて、男女みんなで一緒に学ぶとか、教員と学生がインタラクションしあう大切さみたいなものを考えたときに、ただの数の問題ではないなと思えてきています。

米倉:ほんとうにそうですよね。農学部は女性教員の割合は多いほうなのかもしれませんが、多様性という意味ではもう少し女性教員が多くいるべきなのかなとは思います。

中島:数字的にはいいですが、もっと高みを目指すということを考えていただけたらと思います。

【農学部】米倉 真一 学部長

農学部のワークライフバランス

中島:農学部の教職員のワークライフバランスの面で、お困りのことや不満の声が何かあれば教えていただきたいと思いますが。例えば松本キャンパスだけ保育園があり、他のキャンパスの方からは不公平だという声もあります。

米倉:そうですよね。例えば、松本キャンパスだと留学生会館がありますが、隔地キャンパスだとないですよね。タコ足キャンパスになると、全部を全キャンパスに揃えられないので、そこはやっぱり不公平感がありますよね。ただ保育園は女性教員がもっと増えてきたらより需要が高まってくるでしょうから、そうするといよいよ作らざるを得なくなるではないかなと思います。もちろん男性の需要も高まってくるでしょうし。

中島:子育てや介護のことは家族・家庭の問題で男女関係ないですよね。もともと男性ばかりで社会ができていたときは、仕事とは別のところに家族・家庭があって、おうちで奥さんがそれをするというのが標準でしたけど、世の中が変わってきているのでそういう声を色々聞いて、活動していきたいと思います。

男女共同参画推進センターへの要望

米倉:こういう活動は大変だと思うんですが、支援はもちろん、考え方を広めるということも大事ですので、意識啓発を頑張ってもらえたらと思います。この手の話は煙たがられることもありますが、啓発をしていただけたら、ちょっとずつ空気とか環境・価値観が変わっていくと思いますので。

農学部には女性教員が11人(令和4年4月1日現在)いますが、女性教員同士の懇談会のようなものはあるんでしょうか。女性教員に不満があったり問題を抱えていたりしても、直接学部長の私には言わない可能性が高いんですよね。センターで意見を吸い上げるという意味でも、オンラインでもいいので懇談会のようなものを開いてもらえればと思います。

中島:横のつながりは大事ですよね。過去には松本や教育学部でやっていたこともありますし、他大学だと男女共同参画推進センターにコミュニティスペースがあるようなところもあります。信大でもそれができないかなと思いましたが、そこもタコ足の問題がありますので、何かしら信州大学独自のシステムを築いていければと思っています。
農学部では男女共同参画推進センター運営委員会の委員の方はどういう風に回しているのですか?

米倉:何年かここにいる方で、こういう活動に対して温度が高く、興味がある方にやっていただいています。

中島:男女関係なく、何らかの問題意識を持っている方にやっていただければ、その方がハブになって、みんなで一緒になって考えて、ご意見などいただきたいと思っています。
(令和3年10月から)新体制になって、ダイバーシティ推進担当理事もつけていただいていますし、学長もかなり真剣にはお考えになっていただいていると思いますので、それに遅れないように、むしろ先を走るような感じで頑張っていきたいと思います。今日はありがとうございました。