令和4年05月17日 取材

令和4年4月1日に経法学部長に就任された廣瀬純夫学部長に中島男女共同参画推進センター長が経法学部における男女共同参画の現状等についてインタビューをしました。

経法学部の男女共同参画

中島男女共同参画推進センター長(以下、「中島」):学部長へのご就任おめでとうございます。本日はよろしくお願いいたします。信州大学全体として男女共同参画を進めていますが、各学部で状況が異なると思いますし、学部長という立場で学部の実情やこんな風に進めたいというようなお話しをお聞かせいただければと思います。
経法学部は、学生も教員も女性比率はそんなに低くないというイメージがありますが、教員と学生の女性比率をみると、どちらかというと教員のほうは全国的な平均の20.8%(※)と比べても15.4%(令和3年5月1日現在)と、それほど差はありませんが、学生は人文系と比べると少し低いかなと思いました。他の学部からみた純粋な興味として、女性がこの分野を選びにくい何かがあるんでしょうか。
※出典:一般社団法人国立大学協会「国立大学における男女共同参画推進の実施に関する第18回追跡調査報告書

廣瀬経法学部長(以下「廣瀬」):今の女子学生比率は32%(令和4年4月現在)です。自分自身の学生時代を思い起こすと、周りに女子はほとんどいませんでしたので、ここに教員としてきて、むしろ多い方かなという印象を持ちました。

【経法学部】廣瀬 純夫 学部長

中島:全体としてはどこの学部も昔(自分が学生の時)よりは増えてきているとおっしゃいますね。

廣瀬:経済学についてはどうしても数学が必須になるので、そこが敬遠されてしまう大きな要因の一つかなと思います。ただ、総合法律学科のほうでも半分が女子ということはないので、社会科学に興味を持ってくれる女性が、少ないのかもしれないですね。経済学や法学は、高校までで学習する機会が乏しいため、社会科学を学ぶ魅力について、こちらの情報発信が足りないのかもしれません。

中島:私自身が理学部なので、数学が原因と聞くと、うちもそれに当てはまる感じはしますね。

廣瀬:理学部でも、それほど数学を多用しないコースもありますよね?

中島:そうですね。概して言うとそっちのコースのほうが女子学生比率は高いので、裏付けるデータにもなってしまうんですが。ただ私自身は物理専門ですが、物理と比べると数学科のほうが女子学生は多いので、単純に数学が女性を遠ざけているとも言えないですね。

廣瀬:物理は周りに女性が少なそうなイメージがありますね。

中島:自分の専門についても色々考えて、何が悪いというわけではなく、いろんな複合的な原因、歴史的な積み上げから、上の女性がいないから育てられないというところもありますね。
先ほども申し上げましたけど、経法学部では教員と学生の女性割合の差が少ないなと思いました。

廣瀬:偶然の結果かもしれません。教員の採用に際しては、公募要領の中で、「業績等(研究業績、教育業績、社会的貢献ほか)及び人物の評価において同等と認められた場合には女性を採用します。ただし、これは性別のみで優先的に採用することを認めるものではありません。」とし、最終候補者を決めるにあたって、評価が同じであれば女性を優先するということを強調しています。しかし、教員の採用は文系の学部では一番大きな投資ですので、応募者の中に、どれだけたくさんの女性がいるか、つまり、潜在的な候補者として、社会科学分野のジョブマーケット自体に女性がどのくらい多数いるかということが、どれだけ女性教員を採用できるかに影響してきてしまいます。一つ一つの学部の力ではどうにもならないところがありますね。

中島:文系理系に分けること自体ナンセンスかもしれませんが、学生の進学率は、理系から見ると文系のほうが大学院への進学率が低いかなという印象ですね。

廣瀬:文系はそもそも性別に関係なく、全体として大学院に進学する人が少ないんですよね。出口として考えたとき、文系の場合は大学院までいっても就職機会が少ないか、あるいは、大学院まで進学したことを評価されない場合が多いように感じています。

中島:欧米ではドクターをもっていれば収入が高いみたいな話がありますよね。日本でもそのように変わりつつあるんでしょうか。

【経法学部】廣瀬 純夫 学部長

廣瀬:きちんと調べたわけではないですが、文系の大学院出身で、企業の現場でそのことがどれだけ優遇されているのかということはあまり聞いたことがないですね。

中島:もしかしたらそういうところが女性の方がより大学院進学を敬遠してしまう要因になっているのかもしれないですね。

廣瀬:就職のチャンスが少なくなるかもしれないというところが・・・。欧米のように、大学院で専門教育を受けることが評価されるようにならないだろうかと思いますね。

中島:理系でも大学院に行く人が多いとはいえ、そこは実は一段階ずれているだけで、修士課程から博士課程に行くというのはやっぱり大きく差がありますね。特にポスドク問題が大きくなってしまってからは、どうしてもみんな尻込みしてしまうようで、優秀な学生もなかなか博士課程まではいきませんね。

廣瀬:博士課程から民間企業への就職は結構あるんでしょうか。

中島:そうですね、理学系でも珍しい例ではなくなってきました。ただ博士まで行ってしまうと理系でも就職機会が・・・。という風にみんな思ってしまうんですかね。それでも理系は博士号を持っている人材が欲しいと発信している企業も増えてきているので、博士課程へ行くけど、就職は一般企業を視野に入れている学生もかなり多くなってきていますね。文系では博士号で箔をつけて大企業に行くぞ、という構造にはなっていないんですか。

廣瀬:そうですね。もっと手前のところで、文系で大学院に進学することへの社会的関心が低いのではないでしょうか。私が指導した学生で今大学の教員をやっている人がいますが、彼が大学院に進学する際、ご両親がそういうことをあまり理解してくれなくて、なんで大学を卒業したのに、さらにお金をかけて大学院に進学するのか、というようなことを言われたみたいですね。文系で大学院に進学するということが社会的にみて、男女関係なく、まだなじみがないように思いますね。

【経法学部】廣瀬 純夫 学部長

経法学部のワークライフバランス

中島:職員の方はもちろん女性の割合はかなり高いと思いますが、経法学部として何か働き方改革だとか、会議についてだとか、取り組まれていることや、今からこうしていこうというような流れはありますか?

廣瀬:学部長に就任した際、「イクボス宣言」をしました。宣言をするにあたって、色々なことを調べて頭を悩ませたんですが、今、研究助成をいただいている研究で、少子化や未婚という話を取り上げています。私は元々全然違う分野が専門なんですが、それに興味を持ったきっかけとなったひとつが、「日本経済学会」という学会の2016年の大会で、女性の就業の問題についてのパネルディスカッションがあったことです。ジェンダーの問題について、IMFで、識字率などの教育格差や、女性の労働参加率などを基に、国別の男女格差の程度を測る指数を作成したところ、所得格差と男女格差の間に強い相関があることを明らかにしています。さらに、男女格差と、輸出および生産といったマクロ経済変数の間に、強い相関が見出されているそうです。現時点で分かっていることは、あくまで“相関”であって、因果関係については、何が原因かは留保するという話でした。ただ社会一般で見て、ちょっと前の時代まで、ジェンダーの問題というのは、社会的正義や市民的自由という視点から、男女平等という発想だったと思います。しかし、経済学の世界では、多様性を受け入れること自体が社会の豊かさとか、経済発展につながっていく可能性があるんじゃないかという視点があります。そういう意味では今回、イクボス宣言の中でも、社会科学の教育と研究を担う部局として、そのような問題意識を、共通認識として持てるようになればいいんじゃないかなということを書かせて頂いています。
こういう問題を扱っている研究でよく出てくるんですが、職場にいる女性を支援すること、育休を取ってくださいとか時短してくださいとか、そういう支援をして直接、良い影響が及ぶのが、その職場の周りの人じゃない可能性が高いわけですね。極端な話、職場の女性が育児をしやすい環境を提供すると、それで恩恵を被るのは、他の会社で働いているその女性の旦那さんかもしれない。実際私も学部長になってみて、学内の委員会とかのメンバーを決めるときに、非常に頭を悩ませました。経法学部のような小さい部局の場合、一人いなくなるとかなり大きな影響が出てしまいます。だからといって育休を取られては困るということではなく、そういうことでも、なぜやらなければいけないのかという理解は、少なくとも社会科学を担っている部局として、社会的な意味があるという認識をみなさん共有できるようにできればいいんじゃないかなと。この宣言を書くときに考えたことですね。

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中島:社会科学の立場からお考えいただき、素人にもわかりやすく説明していただけるとわかりやすいですね。

女性比率を高めることについて

廣瀬:たとえば、東京大学が、女性比率を高めるための施策を発表した際、ネットの書き込みなどを見ると、やっぱり逆差別だ、などと書かれたりしていますね。先程の日本経済学会のパネルディスカッションでは、日本で女性の管理職が少ないという議論の中で、ヨーロッパの国々を見ると、大企業の取締役会での女性比率の推移について、一定数を女性に割り当てるクォータ制を採用する国ほど増加率が高いことが指摘されています。社会全体としてみると、そういう強制的な措置をとることが効果を上げる可能性もあるかもしれないと思います。ただ一部局としてそういう取り組みは難しいので・・・。

中島:信州大学全体として取り組まないといけない、というのはずっと言われていますけど、なかなか進んでいませんね。かといって学長が何かをバシッと決めたらいいかというとそこも難しくて・・・。大学独特の縦割り行政のよくないところがジェンダーとか男女共同参画の問題では出てきてしまっていますね。センターでは研究補助者制度ですとか、男女共同参画に関する講義で学生さんに対する啓発するなど、細かく頑張っていますのが、実際に制度を使われた方とか、こんな制度だったら利用できるのにとか、そういう声があったら是非センターのほうにお寄せください。
今日はありがとうございました。