令和4年07月07日 取材


令和4年4月1日に教育学部長に就任された村松浩幸教育学部長に中島男女共同参画推進センター長がインタビューしました。

教育学部における男女共同参画の現状と課題

中島男女共同参画推進センター長(以下「中島」):教育学部長へのご就任おめでとうございます。学部長が新しくなったタイミングでお話を伺っています。まず、教育学部の男女共同参画の現状について教えていただけますか。

【教育学部】村松 浩幸 学部長

村松教育学部長(以下「村松」):教育学部では、これまで松岡英子先生、高崎禎子先生がセンター長を務めていたこともあり、男女共同参画の取組みは積極的に行ってきました。私自身もこういった取組みは非常に重要だと思っています。
 教育学部では、学部の特性上、女子学生の割合は比較的多くなっています。それに対し教員の方は、公募の際には、「業績等(研究業績、教育業績、社会的貢献ほか)及び人物の評価において同等と認められた場合には女性を採用します。ただし、これは性別のみで優先的に採用することを認めるものではありません。」とし、積極的に採用を進めたいところですが、なかなか女性教員の比率は上がらないのが現状です(令和4年5月1日現在:20.45%)。

中島:どの学部でも共通した問題ですが、入学時に一定割合の女子学生がいても、大学院への進学率はどんどん上にいくほど下がってきますよね。教員もそれ自体少ないのに、さらに管理職になるとより女性が少ないだとか、どうしても上にいくと女性が減っていく構造ですよね。学生は同数か、女子学生のほうが多いくらいですか?

村松:女子学生の比率は53.7%(令和4年5月1日現在)です。ただコースによって偏りはあり、例えば家庭科教育コースは女子学生比率が一番高く89.83%、音楽教育コースは88.14%、図画工作・美術教育コースは74.51%が女子ですね。あとは割と男女バランスよくいますが、ものづくり・技術教育コースだ27.45%と、差はありますね。ただ、私自身、中学校の技術科の教員養成課程である「ものづくり・技術教育コース」にいますが、今までは技術というと男性の先生がほとんどだったんですが、ここ何年かはうちの卒業生で女性が技術を教えるということも出てきました。今年も技術科で採用試験をうける女子学生がいますね。逆に家庭科でも男子学生がということも出てきまして、こういったことがロールモデルになって、男女共同参画が進んでいけばいいのではないかなと思いますね。

中島:ロールモデルの子どもへの影響は、大人が考えるより大きいですよね。それで思い出したことは、私は中学の技術・家庭が男女共修化されたときの移行期の世代ですが、中学3年生で転校した関係で、やるはずだった電子工作ができずに、ハンダ付けの経験がないまま大学に入学したんですね。物理学科だったので、電子回路を作製する学生実験があったのですが、自分は出来ないという負い目があり、同じグループの同級生に任せてしまいました。今考えると、その時点ではハンダ付けができる学生ばかりでもなかったはずですが、私以外の男子学生は得意なはずだから、足を引っ張ってはいけない、と思ってしまったのです。結局は、研究室に入ったときに「そんなこともできないのか」と言われ練習したので、今はむしろ得意な作業ですが、研究室が違えば苦手を克服できないままだったかもしれません。これは30年前の話ですが、今の学生でも、昔ながらの男女のイメージに縛られているのは同じだな、と感じることも多いですね。

村松:我々もそういったところで男女共同参画をアピールしていくことが大事ですので、今は広報に在学生からのメッセージなどを入れるときは、意図的に女子学生に入ってもらっていますね。

【教育学部】村松 浩幸 学部長

中島:広報ではいつも女子学生頼みになってしまい申し訳ない気もしますが、意識的にこういう問題があるということを発信していかないといけないですよね。私も1年生向けに、理系に女性が少ないという問題をテーマに講義をしますが、最初に学生に意見を聞くと、好みによる選択だから、たまたま日本には理系を選ぶ女性が少ないだけなんだからいいじゃないか、無理に増やす必要はないという意見に傾いてしまう学生さんは一定数いますね。そこをちょっと細かくデータを見せながら他の国ではもっと多く、日本だけが男女の比率がおかしいんですよと示しても、なんで外国と同じにしなきゃいけないのかという頑固な意見もありますね。

村松:今まで育ってきた環境のなかで培われた強固な意見ですよね。

中島:私たちが育ってきた昭和の時代の感覚が残ったまま、世の中としては明らかな差別は無くなったように見えるので、逆にその問題意識がなかなか共有できないというのがあって、大人側がちょっと意識しながら男女分け隔てなく教えるとかいうのが大事ですよね。

村松:学部としても男女共同参画をもっと意識しなければと思っています。あとこれから一つ課題となってくるのが、男女・ジェンダーに捉われない動きを踏まえて、どうやっていくかということですね。先日の教授会で、SOGIの話が評議員の方からありましたが、じゃあ我々もそういうことをどうやって捉えていこうかなと考えているところですね。悩ましいところではありますが。

中島:それについては先日、大学でもガイドラインを発出して、男女共同参画推進センターで担当していくことになっています。ただ我々も専門家ではないので難しいところがあって、大学にはできれば専門の方をおいて欲しいと要望を出しているところです。その問題も教育学部では在学生に対してもそうですけど、卒業後にすぐ先生としてその問題に直面する若い人を育てなきゃいけないという点で重要ですよね。

村松:男女やジェンダー、LGBTにしてもその辺をどういう風にやっていくか、いろんなところで直面してくる問題ですね。

教育学部の働き方改革

【教育学部】村松 浩幸 学部長

村松:この4月から行っている取組みとして、みなさんが働きやすい環境を作るということで、時間外の業務連絡を取りやめる、ということが先日の教授会で決定しました。例えば、電話とかZoomとか直接的なものは事務職員の勤務時間外に連絡することは原則取りやめる、メールとかメッセンジャーのようなものは、送る側のそれぞれのペースがあるので、それについて制約はしないのですが、受ける側は勤務時間外に対応義務はなく、対応は翌勤務日以降になりますよ、ということを取り決めたところです。あとは会議だとか委員会の時間設定も、原則勤務時間内に収めるようにすることも取り決めました。

中島:会議の時間設定が勤務時間内にされると、事務の方が助かりますね。教員の方が時間外にやるといったら、事務の方は断りにくいというような雰囲気があると思いますし。

村松:その他に、紙でないとチェックが難しいような、入試問題だとか、人事関係の書類は別にして、それ以外の紙でなくても大丈夫なものは全部電子化を進めるということになりました。例えば附属学校の関係で、県の教育委員会に今までは紙で書類やお礼状を送っていましたが、それについても先月、教育委員会にこれから附属学校に関わるような文書は基本、電子化します、お礼状のような形式的なものもやらないですませましょうとお願いをしたところです。できればそれを県内の学校にも広げてくださいということも含めて。やはり女性でとりわけ子育て中の方だとか、これは男性もそうですが、そういうみなさんの働き方改革になるような取組みを進めたいと思っています。特に附属学校においては、他の大学の附属学校でも労基署が入るようなこともありましたので、そういうところから、本当に働きやすい環境になるよう、今やり始めたところですね。

中島:働き方についてのみんなの意識が高まってきているという気はしますけど、教授会での決定事項として明文化して、こうしていきましょうということはすごく大事ですよね。

村松:県の教育委員会の方に話を聞くと、今までは要請がなかったので従来通り紙ベースで行っていましたが、そのように言われれば是非電子化していきましょう、ということでした。また附属学校の方もきちんと文書で送らないと失礼に当たるんじゃないかと、そういう意識がありましたので、それならば学部全体として取りやめましょうということでやり始めたところですね。課題は山積ですが。

中島:そういう大学の姿勢が、これから学校の先生になろうとしている学生さんにも伝わりますよね。

村松:学生たちも、先生たちにメールを出しても翌日になるということをアナウンスしたのですが、こういうことを大学側がやってくれるということに対し、いくつかいただいた意見は非常に好意的でしたね。

中島:こちらも学生から夜中に連絡がきたら、ついつい読んで、読むと返事をしないと、となってしまいますからね。

村松:実験でつまっちゃった場合とかですね。

中島:そういう場合でもこれからはこちらが待たないといけないですね。お互いこういうことになっているよね、ということで約束したほうがいいですよね。土日は返事をしないよ、と学生に言う時もありますけど、内容によっては早く返したほうがいいかな、となって、私の方がルールを守っていなかったかもしれません。

村松:先生方に聞いても、学部全体でこうやります、というのをアナウンスしてもらえると、学生に対しても「こうなっているからごめんね」と言えるということで,先生方としても非常に気楽にできるとのことでした。
 働き方改革でいうと、今年度DX委員会というものを立ち上げました。今のような業務をどうやって圧縮していくのかというところで、例えば既存の事務の中で、ここは電子化したらすごく簡単に行くとか、それぞれのところで進めています。とりわけ学務系が多いですね。時間外勤務の状況を見ていると、学務系の業務が集中する時期に、どれだけ負担を減らせるかというのが大きな課題ですね。

中島:どの学部も共通するものはあるでしょうが、それより学部のローカルルールがたぶん多いので、大学全体よりも学部ごとに取り組んだ成果を情報交換するような形がいいのかもしれないですね。

村松:それから昨年度末、教育学部で効果が大きかったのが、シラバス点検ですね。それまでは、紙ベースで配ってそれをコースごとに割り当てて、相互にチェックして、結果を学務に返すという流れで、それがものすごく大変だったのですね。それを全部電子化しました。スプレッドシートにコースごと用意してそこに入れてもらうとか、データも印刷せずにシステムから抜き出してテキストにそのままいくみたいな形にしました。これは学務系の業務削減には非常によかったですし、先生方の手間も省けましたね。今、そういうことを積み上げていく、あとは根本的にこのやり方そのものを変えなきゃいけないみたいな、そういうことで次のフェーズに入り出したところですね。

中島:変えるのは変えるのでまた仕事が増えるということだから、悩ましいですよね。

村松:システム変更とか、そのときは大変ですよね。

中島:変えるのは面倒、と言って改革が止まってしまうこともありますよね。

村松:そもそもそれはやる必要があるのかというところを含めて、単純な電子化のDXの話と、根本的なところに手を入れるみたいなところで動き出しているところですね。

中島:教育学部ではこういうことをやられていますよ、と良い事例として持ち出して、私の周囲でも変えられるルールがあるかもしれません。

子どもたちに向けて

【教育学部】村松 浩幸 学部長

村松:教育学部では2019年度からJSTの補助事業で「信州大学ジュニアドクター育成塾」というのをやっています。参加者の3割くらいが女子ですね。もっと盛り上がっていければいいなと思っています。

中島:STEM(Science、Technology、Engineering、Mathematics)ではなくて、Artが入ってSTEAMなんですね。

村松:教育学部は学校でいえば、全部が揃っているわけじゃないですか。音楽系だとピアノに合わせてプログラミングをやったり、絵画系だとデザインの先生がやってくれたり、アートと結びつけてやっていただいています。うまく結びついているかというと、まだそこまでは難しいですが、文理横断というか、一緒に展開できたらと思っています。
 この事業は来年度までですが、続けてできるような制度になったので、次は他学部にも参画いただいて、出してみようかというような話は他学部の学部長にもしています。

中島:信州大学はキャンパスが離れすぎていて連携も、力強く声掛けしていただける方がいないとなかなか難しいですよね。

村松:5年間の事業で初年度は教育学部に子どもたちが来て、対面オンリーでやっていました。それも盛り上がってよかったのですが、月2回通うとなるとどうしても保護者の負担が大きくなるじゃないですか。そのため応募者が北信、中信でも松本エリア、東信だと上田エリアとかに限られていたのですが、コロナになったとき完全にオンラインになって、昨年度は対面の会場を長野と飯田の2か所に設けて、月に1回くらい集まりました。あとは水曜日の夜にオンラインでやっているのですが、これが非常に好評です。保護者の負担も月に1回くらいならいいか、となって、上伊那・下伊那などの南信エリアの子どもたちが飯田の方に集まって参加しています。これから理学部さんにもご協力いただければ、松本会場とか、繊維学部なら上田会場とか、会場を分散して設定できれば面白いと思います。
 理工系は女性の割合がすごく低いじゃないですか。それをどうやって上げていくかなのですが、この事業はとりわけ女子にフォーカスという形ではありませんが、ものづくりやプログラミング、科学・技術等に対する敷居を低くして、興味を持つ子どもが増えればと思いますね。

中島:こういう事業をやっていると、教育学部を目指す学生さんにとってもいい宣伝になるというか、こういうことをやっている大学に入って教員になる勉強をしようとなりますよね。今日はありがとうございました。