令和6年05月20日 取材

令和6年4月1日に繊維学部長に就任された村上泰学部長に関男女共同参画推進センター長が繊維学部における男女共同参画の現状等についてインタビューをしました。

繊維学部の男女共同参画の現状と課題

関男女共同参画推進センター長(以下「関」):繊維学部の男女共同参画の現状を教えてください。

【繊維学部】村上 泰 学部長

村上繊維学部長(以下「村上」):女性教員が少ないのが現状です。

関:4つの学科がありますが、学科ごとに差がありますか。

村上:先進繊維・感性工学科と応用生物科学科に女性教員がいますが、化学・材料学科と機械・ロボット学科には今は女性教員がいません。学生は応用生物科学科が5割女性で、一番多いです。繊維学部全体としては、工学系の学部としては女性が3割で結構多いと思います。応用生物科学科が農学系で、他の学科が工学系と言うハイブリットの学部なので、全体としてキャンパスに女子学生が多いと思います。女性教員が少ないのは問題です。全国に女性教員が少ないと取り合いになり、地方の大学まで来ていただけないことはあります。どこの大学も女性教員比率を上げようと熱心に取り組まれていて、引き抜かれてしまうこともありますが、我々の努力が足りないことも十分認識はしています。色々な意味の多様性を許容する必要があります。

ワーク・ライフ・バランスと多様性

関:先生のワーク・ライフ・バランスを教えてください。

村上:私自身は2年前から妻の母が認知症で介護が必要なため、家で介護を分担していますが、非常に勉強になります。言われたことを引き受けるのではなく、一緒に話をしたり、散歩に行ったりなど積極的に関わるのはとても大事なことだと思います。介護を負担と考えやすいですが、介護によって学べることがあると考えるようにしています。

関:先生ご自身が実際に介護をされていますが、介護に取り組む前と現在で何か変わったことはありますか。

村上:例えば、義母が散歩に行きたいと言う時は、一人だとどこに行ってしまうか分からないので、なんとなく忙しいからと思っても、他のことを後まわしにして、一緒に散歩に行かないといけません。義母が散歩に行く気になると、待ってもらうことはなかなかできません。相手のことも考えて相手を尊重しないといけないという環境に置かれることが大切だと思います。もう一つ重要なのは、子育てもそうですが、介護を家族の中で一人だけでやっていたら潰れてしまうので、分担して、自分ができることはやりましょうという気持ちを持って、誰かに言われなくても実行することが大事で、学部の運営も共通すると思います。

関:先生がそのような気持ちでいらっしゃることは、組織の中にも伝わり、運営自体にも変化が出ます。

村上:全てが完璧にできるわけではないですが、やはり人にはその人の事情もあることを踏まえて、でも学部のことも考えないといけない、というのが基本です。多様性とはそういうものなのだと介護を通して学びました。

【繊維学部】村上 泰 学部長

自走する組織をつくる

関:多様性というと、学部生で留学生比率というのは増えていらっしゃいますか。

村上:繊維学部は留学生の比率は高いと思いますが、昔に比べると留学生は減っているかもしれません。留学生と触れ合うチャンスも、日本人を含めた学生同士のコミュニケーションも昔よりは減っている気がします。

関:それはやはりコロナがあったからでしょうか。

村上:コロナがあって減ったのはもちろんあります。対面にしたら解決するかというと、そうでもありません。会議を対面にすると、みんな同じ時間に集まらないといけません。介護、プライベート、子育ても含めて在宅でできたら随分違うと思うので、対面ばかりがいいことではないと思います。コミュニケーションを強制すれば、コミュニケーションができるわけではないですし、とても難しいと思います。

研究室がうまくいってない時は、研究室に学生が誰もいなくなります。研究室にできるだけいたくないから。ところが雰囲気がいいと、みんなが集まってきます。対面で強制するものではなく、雰囲気が良ければ集まります。雰囲気がいいとは、ある程度自分が認めてもらえて、安全が確保されることだと思います。

イクボス宣言に書いたとおり、自走する組織を目指しています。強制されるのではなく、自分でやってみて楽しいと感じることが大事で、その雰囲気を作るには様々な準備が必要ですが、少なくとも任されていないものは自走しません。任せることから始めないと。信頼のないところに安心はありません。仕事がスムーズに進むとは限りませんが、雰囲気が良くないとそれからの発展もありません。教育のために学生に言わなければならない。良かれと思って言っても学生にとっては攻撃されたと感じて雰囲気が悪くなることもあります。それが多様性の真実みたいなところかと思います。調整力が問われます。

関:先生ご自身が学部長になられてからとそれ以前と、マネジメントをすることで変わられたことはありますか。

村上:学部長も研究室を持たないといけない。研究室が上手くいっていなければ学部長どころではないので、学生に君たちが一生懸命やってくれるから学部長の仕事ができると感謝を伝えました。こういうことを大事にしたいと思っています。

関:ヒューマニティですね。

村上:基本的には自分でできることは限られているので皆さんの思いをうまく引き出しています。コロナ禍に見直す機会があり、取組を考えました。学生自身がテーマに向き合うには、そのテーマが決まり、納得する必要があります。いろいろな先輩の研究する姿を見ながら先輩の思いや研究内容を紹介してもらってイメージを膨らませた上で、自分は何がしたいかをディスカッションするようにしました。なかなか雑談の時間がとれないので、雑談ゼミの時間を設けました。「先生の研究室に入ったのだから、先生の話を聞かせてください」と学生から言われたのと、卒業生に在学時代印象に残っていることを聞いたら、先生の雑談をあげる人が多かったので、雑談ゼミをすることにしました。雑談を突き詰めると、哲学、いろいろなものに対する考え方と言えるかもしれません。30代の時は自分がどう経験してきたかが最初にあって、自分の経験を踏まえて研究室はこういうものをやらなければいけないとの思いが強かったです。今は本当にそれをやりたい人がやらないと意味がないと思うようになりました。自分からやろうと思うのは大事なことで、先生に言われたからではなくて自分でやる習慣づけができれば、社会に出てからも自分の意思で進めることができます。今の世の中ではそれが求められていると思います。学生が自分事としてやっているかどうかを判断する尺度があります。例えば、私が何かをしたことに対して、学生が「先生ありがとうございます」という時は、学生にとって自分事になっています。私に言われてやっていると思ったらお礼は言わないと思います。昔、学生のために色々やっていると思っていた頃は、お礼は言われませんでした。少し手を抜くぐらいになってきたらお礼を言われて、なぜお礼を言われるのだろうと考えました。自分のためのものを先生が手伝ってくれていると思うからお礼を言うのであって、先生に言われてやっているとか、先生のもので自分のものではないと思ったら絶対お礼は言いません。だからお礼を言われることが嬉しいというよりは、お礼を言われることで、この人が自分事としてやっているとわかり、嬉しいです。

関:深いですね。確かにお礼を言うときは自分のものとして使えるとか、自分事の時です。

村上:だから腑に落ちる。主体的にやっている人がお礼を言ってくれます。最近意外に効果を示しているのが、研究室内インターンシップです。研究室に入ったばかりでやりたいことがわからない学生に、先輩が研究を伝えるために説明を頑張るし、新しい人はイメージが湧いてやる気が出るし、とても素晴らしいものです。研究室のまとまりもよくなるし、よい効果がたくさんあります。

関:本日はありがとうございました。

【繊維学部】村上 泰 学部長