令和6年06月13日 取材

令和6年4月1日に工学部長に就任された香山瑞恵学部長に関男女共同参画推進センター長が工学部における男女共同参画の現状等についてインタビューをしました。

工学部における男女共同参画の現状と課題

関男女共同参画推進センター長(以下「関」):学部長就任おめでとうございます。女性初の学部長です。工学部の男女共同参画の現状ですが、女子の割合は学科によって違いますか。

【工学部】香山 瑞恵 学部長

香山工学部長(以下「香山」):違いますね。工学部の中だと物質化学科と建築学科は女子が多めです。一方、水環境・土木工学科と機械システム工学科は大体5%、電子情報システム工学科が10%くらいです。学部全体でならすと大体12%くらい。この割合は多分30年くらい前からほぼ変わってないと思います。理系の女子は私たちが高校生の時くらいから大体3割と言われていますが、その割合も変わっていないと思います。

関:周りを見ていても、女性で理系に進むと、薬学か化学です。看護とか建築士になりたいとか、土木に行きたいとかはいなかった気がします。理系女子を増やせという話がありますが、他の分野でも増やせということでしょうか。

香山:そうだと思います。よく話に出るOECDの調査がありますが、15歳時点でほぼほぼ全世界の国の学力を見ても日本の女子はトップレベルです。特に数学は世界を凌ぐレベルですが、高校に上がった瞬間に低くなるのはなぜだろうと思っています。

関:なぜだとお考えになられますか。

香山:一つは保護者にアンコンシャスバイアスがあるのではないかということ、もう一つ最近聞いているのが、理系に進んだ後のキラキラ感がないことです。特にエンジニアやサイエンティストに対する待遇が低く、もっと正当な評価をされるべきだと思います。エンジニアは泥臭いイメージがあり、自分が成長していくことができ、かつ社会貢献できる職業の選択肢がたくさんある中で、今の子どもたちには理系は一段下に見られている気がします。大人の側の情報発信が良くないのかもしれません。夜遅くまで頑張ることが美徳で、家庭を顧みずに休日出勤する、といったことにならないように変えていくのが工学の役目だとも思います。工学は社会には貢献していますが、その貢献が当たり前になりすぎると依存そのものが見えなく、気づけなくなります。技術の社会実装に際して、目指すは存在を意識されないことですが、でもそれは工学のおかげで実現できていることを声を大きくして言いたいです。

〈男女共同参画推進センターの恩恵〉

関:先生は男女共同参画推進センターの発足当初から携わってくださっていたのですが、ここ10年で、信大での現状が変わってきています。どのように見ていらっしゃいますか。

香山:研究補助者制度を作ってくださいましたよね。あれはちょうど私が第一子を出産した時だったので、とてもありがたかったです。裁量労働制は休みを取るのも仕事をするのも自分で決められるのですが、その中でこの制度があることによって、補助者の方に対してもお互いに契約として割り切っていろいろなお手伝いをしていただけたので、とてもありがたかったと個人的には思っています。最初は女性のみが制度の対象者でしたが、その後、子育てをする男性や介護者にも広がってきていて、とてもありがたい制度だと思います。だんだん自分の子どもが成長してきて、そのうち介護の心配も出てくるようなタイミングになってきているので、ぜひ制度を続けてほしいと思います。より多くの方が利用することで、安心して研究活動ができると良いと思います。その反面、女性教員が増えているかというと、そうでもないのが現実です。女性限定公募も工学部で行っていますが、結果としては女性教員の数は増えていません。

関:やはり応募してくる人がいないということですね。

香山:一旦着任された後に離職された方もおられます。女性に限定せずに公募すると20人程度の応募がある一方、女性限定公募とすると応募者が一桁程度に減ってしまうような状況です。とはいえ、他大学の例もお伺いしましたが、ある大学では女性限定で公募したら何百人も応募があったとおっしゃられていました。

関:都会ですか。それは大きいと思います。

香山:ちなみに都内の大学です。これから研究生活が始まる方と、ある程度研究生活が安定して落ち着いて来ている方とでは、地方大学の捉え方は違うかもしれません。私は信州大学に着任してから子どもを出産しました。東京にいるときは、重要な仕事のオファーが来ても家族計画をかんがみて、お断りしてきたこともありました。途中で育休や産休を取得しない前提での仕事の依頼の仕方に疑問を感じたりもしました。仕事への関わり方を少し多様にしていただけると家族計画を検討している人や、プライベート環境が変わるようなタイミングの方も、もっともっと中央政府でのお仕事に参画していくことができると思っています。

関:関わり方の多様化がとても大事ですね。

香山:信州大学では教員だけではなく、職員も在宅勤務ができるようになっていて、働き方の多様化は素晴らしいと思いました。

関:それはある意味、コロナによってそれが認められて、当たり前のようになりました。

香山:あのパンデミックは大変でしたが、流行の収束後、新型コロナ前に戻さなかった信州大学の英断は素晴らしいと思います。その対応ができたからこそ、働く環境がユニバーサルになったと思います。外圧は大きいと思いますが、組織が大きく変わって、良いところも気をつけないといけないところも分かった上で、より多くの人が継続して安心して働けるような環境になってきています。

関:それは経法学部でも感じます。働き方の多様化が認められると継続して働けます。

香山:本当ですね。継続して働けるのは大事だと思います。

【工学部】香山 瑞恵 学部長

〈小中学生への進学講話〉

香山:私たちはAIを日常的に使っています。スマホの仮名漢字変換は、20年前の立派なAIでした。他には、天気を予報したりと、我々は様々なところでAIの恩恵を受けています。現在は、これまでとは少し違う形で、AIが生活の中に入ってきています。そことのお付き合いの仕方は、大人がまず考えないといけないと思います。子どもたちはAIネイティブになってくるので、だからこそ批判的な視点を持たなければいけないと考えています。同時に、AIを健全に使うにはどうしたらよいのかという議論を含めて、小中高校生に講話をしに行っています。

関:中学生にも小学生と同じような話をされるのですか。

香山:今の中学生は社会課題に対するアンテナがとても高いと感じています。自分の事に限らず、社会的な視点も持っている気がしています。彼らはいろんな立場で社会に貢献することができます。個人として情報発信していくことも、社会の仕組みを作ること、何か製品としてサービスや手に取れるものとして世に出していくこともできる。何に興味があるのかによって、原理を突き詰めたい人は理学系かもしれないし、大地とともにありたい人は農学系かもしれない。それぞれの人が持っている興味のオリジンみたいなところをお話していきます。例えば大学や学部などを偏差値で選ぶのではなくて、あの先生のこの研究が面白いとか、この研究が進んでいった先の将来を見たいとか、研究や教員ベースで将来を選んでもいいです、などという話をしています。工学はどの分野とも仲良くなれる、とても懐の深いユニバーサルな学問だと思います。そして、大学の教員は全員が広報員だと思います。私もその一員として、積極的に小中高の教育現場に出かけていき、進路に悩んでいるなら理系に進んだほうが、あわよくば工学を学ぶと楽しい、ということをどんどん伝えていきたいです。

関:進路を考える際に研究や教員で考えることは重要ですね。

香山:例えば、経済を学びたいと考えて経済学部に入学したとしても、入学してみると「考えていたのとちょっと違う」といったような、学部だけで選ぶとミスマッチが大きいのかなと思っています。

関:そういう点では、医学部とか教育学部はあらかじめ入る時点で先生になりたいとか、こういうことをやりたいとか経済学部とか工学部でも入る時点では結構ありますよね。

香山:こういうことをやりたい、という気持ちが、子どもたちにもあると信じています。資格取得という最終目標がない学部は、入ってからずっとモヤモヤと不安がつきまとうのではないかと思います。よく「何にでもなれる」と言いますが、結局自分が動かないと、何にもなれない。自己責任を負わされて大変だなと思います。でも、子どもたちに判断できるだけの情報を提供していくのは私たち大人の責任だと思っています。その責任をできるだけ早いうちに果たすべく、教育現場へと出かけていきたいと考えています。

関:本日はありがとうございました。

【工学部】香山 瑞恵 学部長