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全研究総覧

ブータン王国山間地域の農村における在来作物・野生植物の持続的利用 【地域】 ブータン

はじめに

 ブータン王国は国全体が山岳地域にあり,農村のほとんどが山間部の斜面に位置する。これら地域では,伝統的に生産されている数種の作物と周辺の森林から採取する野生植物を食用に利用してきた。このような在来作物や野生植物を持続的に利用しつつ農村と森林等の周辺の環境の維持を図っていくために,各地域において様々な工夫がなされてきたが,同国の近代化にともない,その様相も変化しつつある。本研究ではこのような現地においての調査を行い,在来作物・野生植物の持続的利用と農村環境の関係を明らかにしていく。

方法(調査地)

調査は,2010年5月20日から30日の間に実施した。各調査地において住民もしくは市場の販売員より野生植物利用について現地名,可食部,信じられている健康効果,採取時期,採取場所,利用法などの聞き取り調査を行うとともに対象植物の標本を採取した。
調査地はブータン王国南部のSarpang 県Bhur 郡のJhuprey 村(標高664m),同県Hilley郡のMuga 村(1330m),同南部のSamtse 県Samtse 郡のSaureni 村(1013m),同県Chargharey郡Chargharey 村(740m),さらに,同国西部のParo県Shari郡のDamchena 村(2430m)および同県Luni郡Bondey村(2229m)の各農村において農家を訪問して調査を行った。また,首都Thimphuの定期市においても調査を行った。
 調査対象となった植物は文献などにより同定を行った。さらにシダ植物については国立科学博物館筑波実験植物園に写真による同定を依頼した。また,採取した植物標本についてはブータン王国農業省National Biodiversity Centerに寄託した。
 なお,本課題は,渡航費等については科研費を用いて実施した。

結果と考察

本調査の結果,食用野生植物として42科86種の種子植物と3科8種のシダ植物を確認できた。また,これら食用植物とは別に南部のSarpang 県Hilley郡のMuga 村では14種類の薬用植物が利用されていることも明らかになった。なお,これまで本調査をあわせ6カ年にわたり同国の全20県における現地調査を行ってきた結果,同国において種子植物では合計60科172種が,シダ植物で合計6科18種が、食用利用されていることが明らかになった。
また,本調査の聞き取り調査の結果,これら食用野生植物の中には様々な健康効果が信じられているものがあった。例えば,イラクサ科のBhangrey Sisnoo(Girardinia palmate)については5調査地で食用利用されており,関節痛に効くと信じられていた1調査地を除き,その他の4調査地で高血圧に効果があると信じられていた。また,同じイラクサ科のGharia Sisnoo(Urtica parviflora)についても同様の傾向にあり,食用利用されていた4調査地のうち1か所で関節痛に効くとされ,他の2調査地では高血圧に効果があると信じられていた。一方で禁忌が信じられている植物もあり,例えば,Tamarkeyと呼ばれるツヅラフジ科のStephania glabra は黄疸の出ている患者,肝炎患者に食べさせるのは良くないとされていた.しかし,これらの健康効果または禁忌については実際の効果については実証されておらず,今後は過去の調査や実際に知られている薬理効果などと照らし合わせ,その効果の科学的な評価および要因物質の特定も必要である。

今後の方針と計画

前述のように食用野生植物についての現地調査は本年度を含めこれまで6カ年実施してきており,本年度が最終年度となる。このため,本研究を共同で実施してきたブータン王国農業省の再生可能資源研究評議会と,来年度以降にも引きつづき同国山間地域における調査を継続的に実施することについて合意を得,今後は食用野生植物に加え在来の栽培作物に関する調査も実施することとなった。さらに,その方法,分担等についても打ち合わせを行ってきた。今後は渡航費等の研究資金の獲得を目指すとともに,現地ではブータン人共同研究者による事前調査を進めてもらうこととなった。
 また,我が国中山間地,特に長野県内での野生植物利用の現状とブータンでの利用状況の比較を行い,使用植物種,その健康効果,山林・圃場等の周辺の環境,採取による周辺の環境への影響等について類似点,相違点等を社会学的な観点からも合わせて考察していくこととしており,両国・地域における野生植物の持続的利用について問題点,改善点をあぶり出す予定にしている。
これに向けて本年4月末より下伊那郡大鹿村での食用野生植物の利用状況についての現地調査を始めており,昨年、本プロジェクトのコアサイトの一つである飯田市上村下栗地区における野生植物の利用調査を別課題で実施した上原三知助教と共同で調査を実施することとしている。

成果

[論文]
松島憲一・南峰夫・根本和洋・Kinlay TSHERING・北村和也・中谷達明・加藤友希.ブータン王国南部および西部地域における食用野生植物利用とその伝統知識に関する調査報告(第六次調査).信州大学農学部紀要.47(1・2) 41-68.2011.

松島憲一.ブータン王国の山菜利用と国民総幸福量.科学.81(6).印刷中.2011.

[学会発表]
松島憲一・南峰夫・根本和洋・Kinlay Tshering・北村和也・中谷達明・加藤友希.ブータン王国南部・西部地域で食用利用される野生植物について.日本熱帯農業学会第109会講演会.2011.

[著作]
松島憲一.森と共存するブータンの山菜利用.森林サイエンス2.信州大学農学部森林科学研究会編・小池正雄監修.川辺書林.250-269 2011

研究者プロフィール

松島 憲一
教員氏名 松島 憲一
所属分野 大学院農学研究科 機能性食料開発学専攻 機能性食料育種学
兼担研究科・学部 大学院総合工学系研究科 生物食料科学専攻 生物・生命科学
所属学会 日本香辛料研究会、園芸学会、日本育種学会、日本熱帯農業学会
SOAR 研究者総覧(SOAR)を見る
他の研究 イメージマップによる里地・里山の認知・利用領域と有用植物認知度の世代間比較長野県中山間地域における伝統作物の遺伝的多様性の解明とその保全研究
南 峰夫
教員氏名 南 峰夫
所属分野 大学院農学研究科 機能性食料開発学専攻 機能性食料育種学
兼担研究科・学部 大学院総合工学系研究科
所属学会 日本草地学会、日本育種学会、日本熱帯農業学会 日本園芸学会 日本栄養・食糧学会 American Society of Agronomy Crop Science Society of America Society for the Advancement of Breeding Researches in Asia and Oceania 日本作物学会
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他の研究 長野県中山間地域における伝統作物の遺伝的多様性の解明とその保全研究
根本 和洋
教員氏名 根本 和洋
所属分野 大学院農学研究科 機能性食料開発学専攻 機能性食料育種学
所属学会 The Society for Economic Botany、International buckwheat risearch association、日本育種学会、日本熱帯農業学会、北陸作物育種学談話会、育種学会中部談話会、長野県園芸研究会、雑穀研究会、日本アマランス・キノア研究会
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他の研究 長野県中山間地域における伝統作物の遺伝的多様性の解明とその保全研究