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環境を化学で斬る

環境を化学で斬る

自然は調べれば調べるほど不思議なことがたくさん見つかります。私たち研究室では化学分析によって「自然の不思議」を調査・研究しています。
特に、私たちは人間活動に伴い発生する化学物質に注目しており、有害化学物質の生物への影響を理解し、低減するためには、その環境中でのふるまいを知ることが重要と考え、大気、水質、底質、生物等の分析を行っています。

日記から、研究の様子を想像してみてください。

2007年8月XX日天気はれ
今日は乗鞍岳周辺の湖沼調査※1。始発のバスに乗るため、朝3時に山地水環境教育研究センター※2に集合。自動車に、採取機材を積み込み、2台に分乗して出発。この調査に先立ち、環境省や林野庁と何度も連絡をとり、試料採取の許可を得た。何度も行けるところではないので、天気が心配。波田町で朝食を購入し、乗鞍高原のバスターミナルへ。荷物を整え、バスに乗り換える。1時間ほどで到着した畳平駐車場は霧の中。どの方角に目指す池があるのか分からない。2万5千分の1の地図を頼りに池を目指す。お花畑を一周するも分岐する道は見つからず、あきらめて、別ルートへ。肩の小屋に荷物を預け、権現池へと向かう。池からは小屋へ飲料水が引かれており、導水パイプを頼りにひたすら前進。権現池では、湖水と湖底の泥を採取。さすがに標高2810m、水が冷たい。見上げると、剣ヶ峰とその登頂を目指す人達が見える。春の遠足※3で、雪渓を横断し、剣ヶ峰に登頂したのを思い出した。
※1私達は、地球の第三の極である高山で、化学物質汚染の調査を始めています。近隣に汚染源のない湖沼の水や泥を分析することで、わが国の「長距離輸送されてくる化学物質」の汚染実態を知ることができるのでは?と考えています。
※2信州大学山岳科学総合研究所の施設の1つ。諏訪湖湖畔にあり、学内外の学生や研究者が研究の場として利用しています。所属の教員が4年生の卒業研究の指導も行っています。
※3兼担している理学部物質循環学科の1年生とともに一泊二日で乗鞍・上高地へ行きました。その際は、乗鞍高原にある信州大学の施設(乗鞍寮)に宿泊し、学生とともに温泉やバーベキューを楽しみました。

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乗鞍岳・剣ヶ峰直下の権現池

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上高地・乗鞍への遠足

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実験室の様子

2007年12月XX日天気あめ
今日は2週間に1度の河川調査※4。午後になっても雨がやむ気配がなく、同行してくれる学生もいないので、あきらめて、ひとりでバケツ、pHメーター、ポリビン等を自動車に積み込み出発。最初の採水地は上川・六斗橋※5。雨合羽を着て、長靴を履き橋の上へ。傘をさした小学生が通りがかり、興味深そうに覗き込む。「面白い?」と話しかけると嬉しそうに頷いた。雨の中、何地点かの採水を終え、次の川に到着。先日、ここで同行した学生が川に落ちたことを思い出しながら、桟橋に飛び乗った瞬間、板が割れ落水した。7℃の河川水が長靴に容赦なく流れ込む。採水を中断し、一旦帰宅。
今日、川に落ちたことは学生には内緒にしておこう。
※4長期にわたる環境の変化を知るためには、より細かく試料を集め、分析する必要があります。私が所属する山岳科学総合研究所では、定期的に諏訪湖やその流入河川の水を採取し、各種分析を行っています。所属の学生が中心となって30年間以上、定期観測を継続しており、毎年、貴重な成果が得られています。
※5諏訪湖に流れ込む31河川のうち、最も流量の多い河川。水源は八ヶ岳で南側から諏訪湖に流入しています。私たち研究室では、湖の富栄養化の原因となる窒素やリン、水生生物に影響を及ぼす農薬について調査・研究を行っています。

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2006年7月豪雨による諏訪湖水質の変化

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冬の諏訪湖(御神渡り)

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夏の諏訪湖(水草)

最近の研究成果(博士論文・修士論文・卒業論文のテーマ)

水圏における芳香族化合物の動態と水生生物による新規代謝機構に関する研究
水圏における多環芳香族炭化水素類の動態に関する研究-湖沼における非生物学的要因の解析-
山岳湖沼における多環芳香族炭化水素類汚染
陸水域底質中の多環芳香族炭化水素類の発生源解析
諏訪湖流入河川における農薬の流出特性と水生生物への影響
長野県諏訪湖における毒性要因の解析
諏訪湖水質に及ぼす気象の影響

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諏訪湖での調査(湖心)

宮原 裕一