分子腫瘍学講座 | 信州大学(Molecular Oncology | Shinshu Univ.) > 研究内容




【研究目標と教室理念】

私達は細胞の形や動きを規定する骨格系分子などに着目して、癌の特異性を分子の言葉で記述し、細胞生物学的理解を深めると同時に癌の診断・治療に応用することを目指しています。癌の治療診断に役に立ちたいという気持ちを大切に考え、教室の運営がなされています。

【研究テーマ】


1.感染、炎症、ポトーシス、発癌に関わるASC蛋白質の機能解析

アポトーシスの際に凝集体を形成し、炎症、細胞計画死、癌に深く関わる新規蛋白質ASCを見出しました。この蛋白質は、発癌を炎症や細胞計画死の側面から理解するために良きプローブです。また、その遺伝子はメチレーションによって発現が低下することが分かり、ASCの研究はエピジェネティックスと癌細胞集団の不均一性という癌の本質を理解する上で、重要な課題です。
 ASCの自然免疫シグナルにおけるイソフラマゾーム形成の中心的役割が国際的に認められました。

[主な論文]
・Taniguchi S, Sagara J.
Regulatory molecules involved in inflammasome formation with special reference
to a key mediator protein, ASC. (review)

Semin Immunopathol.2007 Sep;29(3):231-238.

・Yamamoto M,Yaginuma K, Tsutsui H, Sagara J, Guan X, Seki E, Yasuda K, Yamamoto M,
Akira S, Nakanishi K, Noda T, Taniguchi S.
ASC is essential for LPS-induced activation of procaspase-1 independently of
TLR- associated signal adaptor molecules.

Genes to Cells.2004; 9(11):1055-1067

                      (Nature Review, Immunology のポスターより引用)

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2.免疫応答を制御する「センサー」の分子機構の解析

免疫反応は主に自然免疫と獲得免疫の2種類の免疫応答を巧みに使用しています。これによって、多種多様に存在する病原体やアレルゲンなどの抗原に対して、生体は免疫応答を変化させ的確に応答し、その恒常性を維持しています。このような免疫応答の方向性を規定する因子として、細菌, ウイルス, 腫瘍細胞など生体内外由来のDNA, 脂質, 特殊なプロテアーゼなどが重要であることがわかってきました。本来、これらの分子は生体の恒常性を維持するために重要ですが、この反応に異常をきたした場合、自己免疫や癌を含めた慢性炎症性疾患に繋がると考えられます。我々はこれらの様々な因子に対する「センサー」分子やシグナル伝達経路を解明し、将来的にはこれらの「センサー」分子を制御することで新しい疾患治療法の開拓につなげようと考えています。


[主な論文]
・ Hida S, Yamasaki S, Sakamoto Y, Takamoto M, Obata K, Takai T, Karasuyama H, Sugane K,
Saito T, Taki S.
Fc receptor gamma-chain, a constitutive component of the IL-3 receptor, is required for
IL-3-induced IL-4 production in basophils.

Nat. Immunol.2009 Feb;10(2):214-22. Epub 2008 Dec21.



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3. アクチン結合蛋白質カルポニンやスキャピニンの機能解析

アクチンフィラメントを安定化するカルポニン、脱リン酸化酵素PP1やアクチンに結合し細胞膜と核とを行き来するScapininのがん形質における機能を解析します。
 カルポニンはアクチン結合蛋白質ですが、シグナル伝達系との相互作用により、アクチン細胞骨格系制御と増殖シグナル制御のいずれにも関わり、がん細胞形質制御などに寄与する可能性があります。

[主な論文]
・ Taniguchi S.
Suppression of cancer phenotypes through a multifunction actin binding protein,
calponin,that attacks cancer cells and simultaneously protects the host from
invasion.

Cancer Sci. 2005 Nov; 96:738-746.

・ Sagara J, Arata T, Taniguchi S
Scapinin, the Protein Phosphatase 1 Binding Protein, Enhances Cell Spreading and
Motility by Interacting with the Actin Cytoskeleton

PLos ONE. 2009;4(1):e4247


 (Canser Science,Review 2008より引用)

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4. 嫌気性菌を利用した固形癌治療のための治療法開発

癌組織が嫌気的であるという性質を利用した治療法の原理を示しました。現在、それを基盤として、大学発ベンチャー企業によって臨床応用を目指した薬の開発研究が進んでいます。
 下のモデル図は、シトシンデアミナーゼを導入したBifidobacterium longumは固形がんの所に選択的に生育し、その状態で制癌剤5FUの前駆体で毒性の低い5FCを担癌動物に飲ませると、腫瘍の所でのみ大量の5FUが産生されることを示しています。

[主な論文]
・ Taniguchi S, Fujimori M, Sasaki T, Tsutsui H, Shimatani Y, Seki K, Amano J.
Targeting solid tumors with non-pathogenic obligate anaerobic bacteria.

Cancer Sci.2010;101(9):1925-1932

[参考資料]

イノベーションへの道” アネロファーマサイエンス



                       (Canser Science,Review 2010より引用)

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