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       信州大学医学部 分子病態学教室
      

日本学術振興会賞を受賞してHEADLINE

去る3月9日に日本学士院にて、秋篠宮、同妃両殿下御臨席のもと、第5回日本学術振興会賞をいただきました。酸化LDL受容体LOX-1を中心とした、動脈硬化性疾患に対する一連の研究をご評価いただいたことによるものです。  

さて、どのような天才の発見であっても、その時代の研究の流れや、それまでの先人の知恵の積み重ねと無縁ではありえません。「巨人の肩に乗る」ことが科学の歴史そのものなのですから。私のように取り立てて才能のないものが、小さな研究室でも成果を上げていくためにはなお、先人の知恵を借りなくてはなりません。  

そんな中で、動脈硬化の分野は、基礎研究、疫学研究、創薬、臨床研究がうまくかみあって発展し、実際に世の役に立っている理想的な分野のように思え、研究を始めました。

しかし研究の場では、成果を認められることが研究者としての生活にも関わるために、研究者それぞれが自説を声高に叫びあっている現実があります。 現在当然のように受け入れられている、動脈硬化における「コレステロール」といえども、酸化LDL仮説で名高いUCSDのD. Steinberg博士が「Cholesterol Wars」と述懐しているように、それは戦いの歴史であったわけです。  

そんな覚悟をした上で、ユニークな仕事をすることが大事だが、決して奇をてらうのではなく、王道を行く仕事がしたい。そのような思いで「酸化LDL仮説に乗る」ことにしました。仮説の正しさのおかげか、酸化LDL受容体LOX-1の研究はポジティブなエビデンスが徐々に積み重なってきました。そして、目標であった、酸化LDL仮説を超えて自分なりの仮説が見えるところまで、ようやくたどりつきつつあります。研究を始めて15年かかってのことです。

「time-tested」という外国では良く使われる表現がありますが、この言葉が気に入っています。その場の論争ではなく、歴史の検証に耐える研究領域を築けるか、ちょっとした挑戦ですが、これからが自分の力が試されるところだと感じています。  

このたび、トピックスも数多くある中で、長年続けてきた仕事を評価していただき、大変ありがたく思っています。これを励みとして、さらに努力していきたいと思います。今後ともご指導ご鞭撻をよろしくお願いします。

2009年3月