信州大学農学部 近未来農林総合科学教育研究センター
バイオリソース部門(生物資源研究室)
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Messages (2012-13) 

#09  An indispensable thing to make my dream come true
(平成25年12月27日)


今年もあと数日となりました。たくさんの人に出会い、その人たちと一緒に仕事ができたことにまずは感謝したいと思います。

また今年はいろいろな機会で海外に行き、現地大学の先生や学生と交流する機会に恵まれました。あるときに日本に留学を希望する学生が、「夢を叶えるために必要なものは何か?」と訊いてきたとき、
"If you have a passion, everything follows"と即答しました。

全ての課題を片付けることはできませんが、何かに対する情熱・熱意はそれ自体、ひとを突き動かす大きな要素です。大学に行くこと、そこで過ごすこと、学ぶこと・・・そのなかでそれぞれの学生が「なにか」、それは必ずしも勉強でなくてもいいと思うのですが、に魅かれる瞬間に気付いて欲しくて、私は教育をなりわいとしているのだと時折感じます。

そのためにはみずからが情熱の炎を燃やし続けることが必要ですね・・・今年はそれができたと思うのですが、来たる年はもっと。

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#08  垂直出題
(平成25年7月28日)

私が受け持っている授業は前期に集中していて、「家畜栄養学」以外は持ち回り授業の1−2回分担がほとんどです。それぞれ異なる学年を担当していて教える内容も当然異なりますが【 詳しくはこちら 】、では小テストなどでおなじ問題を出すと解答はどのくらい違うのだろうと思い、試しに次の問題を出題しました:

「ニワトリ ブタ ウシ ウマの4種の家畜を好きなところで線を引いて区分し、区分の根拠を説明しなさい」

条件は:
・どのように区分してもよい - 3分割、4分割でも可
・区分の根拠は「あなたが知っていることで、できるだけ客観的なものを」(1年生)、「科学的なものを」(2年生)、「家畜栄養学に則ったものを」(大学院1年生)として、そこで出題のいわば難易度を調節しました。
さらに1年生と2年生の授業では「できるだけほかの人と答えが重ならない、個性的なものを」という条件を加えました。

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ありがたいことに、 解答 としてさまざまな線引きと根拠を返してくれました。いつも思うのですが、自分が教えている相手が逆に何かを教えてくれるというのは、教育者の大きな役得です。
大学院1年生では、専攻が家畜栄養ではない学生が多いのですが、指示に沿った解答ができていますね。さすがです。
どのくらいバリエーションがあったか?については、2年生(41名が解答)では線の引き方で12通り、内容的には20通り以上のものがありました。1年生は受講者数がその4倍(約150名:共通教育科目のため他学部生が半分以上を占めます)いたのでそうした集計はしていませんが、意表を突いた?解答もたくさんありました(一部傑作がありましたが諸事情で割愛します)。
どちらの学年の学生も、同じ内容を記していても表現は少しずつ違っていて、それぞれがいろいろ考えて得た結論がたまたま似ていたという状況がよくわかりました。

それが私が期待していたものです。条件を満たして完全な解答ができるならそれでよし、課題に対する知識があまりなかったとしても、発想や表現を工夫すればそれもまた正解に近いものにできるということを、この問題どうこうではなく、みなさんそれぞれがこれから学んでいく多くのことに対して利用できるということを覚えておいてほしいです。
ありふれた言い方ですが、社会は正解がひとつではない問題ばかりですから。

1年生と2年生で出題してしまったので、対象学生が変わる2年後に同じ出題をしてみようと思います。うまくすればその2年後も、というようにいわば水平的にみるとどのような違いがあるか、それも興味深いところです。
出題内容と全く無関係のおまけ問題にも、予想以上に多くの学生が取り組んでくれました。2年後もやりますので、ここではネタばらしはしません(皆さんもぜひ守秘へのご協力を)。来年、再来年と信州大学農学部に入学する方は、どうぞお楽しみに。

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#07  ふた回り目
(平成25年6月10日)

前年度と同程度の量の授業を今年度も担当しています。そのなかで「家畜栄養学」は割り当ての時間数が最も多く、最大のエネルギーを注ぎ込みます。全くの手探りだった昨年度からは多少の余裕もできたので、今年度は次のようなところを意識して少し手を加えました。

・より教養の裾野を広げて…昨年も今年も最初の授業で話したのですが、「何をどう食べればよりよく生きられるか」という動物の栄養学としてみると、家畜で行われていることと人間のなかで行われていることにはかなり共通する部分があります。言いかえれば、その日に学んだことをその次の食事のメニューの選択に生かすこともできるような、大学の授業の中でもとりわけ日常生活と密接したもののひとつです。
そうした利点を生かして、例えば「薬の成分はどのように体内で吸収されるか?」のような身近なところから話を始めて、専門的な知識に入っていけるようにしています。

・よりインタラクティブに…今年度も毎回の授業の小テストとして、「その前の回の授業の内容を、指定した単語を使って要約」してもらい、その次の回の授業の冒頭でいくつかの解答を紹介しています。そのことで、同じトピック(例えば"タンパク質")について最大で3回、形を変えて扱えるということ以上に、学生が講義をどのように理解してくれているかがよくわかります。
昨年度との違いとして、解答用紙の行数を1行増やしたのですが、するとその1行に各学生の個性とも取れる、非常に多様な記述が見られるように感じています。
双方向性の別の取り組みとして、「私が担当する最後の時間にもう一度説明してほしい項目」についてのアンケートを取ったところ、(なし、というのは寂しいから何か書いてくれ、と頼んだこともありますが)様々なリクエストが返ってきました。
挙げられたものは自分の教え方が足りなかったか、あるいは各学生がもっと知っておきたいと考えているものであるか、どちらにしてもそれは、今年度だけでなく来年度同じ科目を担当するときの内容に反映させるべき貴重な声であると考えています。

また今年は昨年と違い、食料生産科学科所属以外の履修学生も少なからずいました。必修でない、自由に選択できる科目の中からこの授業を選んでくれたというのは、担当者として嬉しい限りです。
小テストの解答を見ても、なに学科の学生のできががいい悪いということでは全くなく、ただテーマに対する考え方と表現が属性によって異なるという印象を受け、それぞれの学生の多様な志向に応えられるような授業はどんなものだろうかと、その意味で昨年同様試行錯誤するうちに今年度の分担が終了してしまいました。
次年度以降、家畜栄養学の名のもとで、学科カリキュラムの一部を担っている点を逸脱することなく、同時にすべての受講者の知的好奇心をくすぐる授業となるよう、さらに知恵を絞りたいと思います。

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#06  Nothing to worry about (新社会人のみなさんへ)
(平成25年4月1日)

新年度が始まりました。新社会人としてスタートを切った人たちに、それぞれの職場の先輩方が大いに期待し、温かいまなざしを以って有言無言の励ましを送ってくれることでしょう。
そうした思いを素直に受け止めて、みずからとこの社会の未来を切り開くべく奮闘してください。毎度の小言ですが私からもひとこと:

今のうちにたくさん叱られてください。

私もそうですが今の大学の先生は学生を強く叱ることはあまりしません。理由は様々ありますが、ひとつは社会からの大学組織に対する要請として、学生へのより高度な専門知識技術と幅広い社会教養の賦与がより大きな割合を占めるようになってきていることがあります。
大学という純然たるサービス業で、最大顧客である学生の満足度を高めかつそうした社会からの要請に応えていくうえで、叱る・怒るといったことは多くの場合効果よりも弊害の方が大きくよほどのことでなければそうした手段は選ばれません。
大学が負うべき責任の範囲は別にして、結果として多くの学生が叱られることに対して「免疫」が低い状態で過ごすことになります。

きのうまではお客様でよかったのですが、きょうからは全く反対の立場になります。つまり自身の仕事で他の人を満足させて、その対価として報酬を得る存在となっているということです。
立ち位置が変わって、自身に求められるものも変わり、当然これまで経験したことのない活動の中でうまくいかず叱られることも多々あるでしょう。でもそれがその時期の普通です。ただ、同じことで何回も怒られないよう気を付けてくださいね。

皆さんを叱る人は、皆さん以上に叱られてきて、それによってより多くのことを学んできた人です。どうかそのひとつひとつに込められたメッセージを読み取って、自身の将来を豊かにする糧としてください。
そして10年経って20年経って、皆さんからの激励として、後輩を上手く叱ってやってください。

ついでのもうひとこと:某よくある調査では今年の新入社員は「自動掃除機型」とかで、送り出す側としては(そうしたステレオタイプの評価自体に対して)心中穏やかでないものがあります。社会に貢献できる学生をいかに育てるかという自問として当然踏まえるべきものはありますが、そもそも大学は工業製品の生産拠点ではありません。
みなさんそれぞれが学んだこと感じたことを生かして、ひとりひとりの heart and soul を社会で体現してください。社会を笑う人にイノベーションは起こせません。社会を笑顔にしたい人によってそれが実現できます。

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#05  すぐに使えるお節介?「心で伝える研究発表」 
(平成25年2月22日)

先週、農学部・大学院農学研究科の卒論発表、修士論文発表と審査がありました。昨年もそうだったように今年も、ほとんどの人が練習十分の、良く整理された発表をしているように感じました。
そのクオリティをさらに高めるのに役立つ・・・かもしれない小技を書いてみます。

私が初めて海外で学会発表をすることになり、当時通っていた英会話学校のアメリカ人教員にそのことを話したところ、
「重要なことが4つある・・・eye contact, good posture, loud voice, and smile!」とアドバイスされました。
簡単なことのように思えますが、実践するのはなかなか難しいですね。
原稿を手元において発表するのは、間違いのない情報提供のためにはいいことです。ただ、原稿棒読みの発表をされると聴く側が白けてしまうのは、話し手の意識が原稿とスクリーンに集中してしまい、↑の4つともできなくなってしまう(さらに言えば、抑揚がなくなってどこを強調したいのかが分からなくなる)からだと思います。
発表は自分のためではなく、聴く人のためになることを伝える機会だということをいつも心にとどめておいてください。

学会発表で聞き手になってみると、それぞれの発表が持つ情報量はもっと少ないほうがいい、と思うことが多いです。スライドの枚数を減らす(文ではなく単語や語句で表現する, より単純化した図式で表現する)、あるいは言葉を減らす、そうした作業は発表直前まで行うに値すると思います。
決められた時間を守れず冗長な発表は本当にいらいらする(のは私だけ?)ですが、持ち時間の8割くらいで終わらせても苦情は出ません。真に伝えるべきことはだいたいそのくらいあれば十分です。

最後に、製品・技術のプレゼンテーションや講演と比べて、研究発表が双方向性を持つ、つまりその場で相手のレスポンスが帰ってくることを前提としている点で本質的に異なるものだということを覚えておいてください。どんな場面であれわかりやすく伝えることは重要ですが、研究発表の場合はそれは「流暢さ」で評価されるのではなく、「正確さ」「簡潔さ」そして「誠意」で成り立ちます。
的を射た質問が引き出せる発表の技術と、質問に的確に受け答えできる理論武装、高品質の情報発信には、どちらも必要です。

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#04  "Words for challengers"  (これから試練に立ち向かう人たちに「そっと」かけたい言葉) 
(平成25年1月11日)

"不可能だと思わない限り、人間に限界はない"  (Dale Carnegie[実業家])
*時間を筆頭に、物理量には必ず限界がありますが、それはみなさんの可能性を拘束するものではありません…自身が進んで縛られない限りは。

"何かが足りないことが、幸せに必要なことのひとつ"  (Bertrand Russell[哲学者])
*いろいろな意味に取れますが、私はこの言葉を「つねにすべてのものを希求する状態そのものが幸福であること」と解釈しています。

"弱気は最大の敵"  (津田恒実[元広島東洋カープ投手])
*同じ目標に向かっての競争で、プレッシャーや躊躇はただ自分を不利にするだけです。そうした意味のないものを徹底的に排除することも、成功するための条件だと思います。


これまで積み重ねてきたすべての努力が自信に変わることを願っています。

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#03 「魅力的なロボット、システムそしてクリエイターたち」 
(平成24年12月9日)

10月下旬、農学部食料生産科学科1年生を対象とした授業を担当(「畜産学汎論」; 持ち回りなので1回だけ)しました。
最初の30分で現在の畜産業・酪農業が直面している問題点をいくつか挙げて解説したあと、学生60名を6つのグループに分けて、残りの時間(60分)で、「問題を解決できる革新的なロボット・システム」の提案を企画書形式で作成・提出してもらいました。

まず、前提となる説明として、次のような問題点があることを解説しました:
@エサ代が高騰する一方で生産物の価格が横ばいか低下傾向にあり、非常に経営が難しくなっている
A労働集約型で後継者が決まらないことも多く、従事者数が減少しており高齢化も著しい
B個体能力の向上に伴い疾病率が上昇しており、また畜種を問わずパンデミック(広域的な伝染病)のリスクが高まっているように、農家個々のマネジメント能力を超える問題が頻発している

グループディスカッションではそれぞれのグループに一企業としてふるまってもらい、各社一押し製品としての提案を指示しました。開発に当たってはできるだけ制約を設けず期間や費用は無視、「なんらかのニーズを満たすもの」を出発点として、それに合わせた実現可能時期と予定価格を設定させています。
言い換えれば、もし四次元ポケットがあったら、どんな道具が使われるかを考えてください、ということです。

要点だけ記しますが、各社A4 1枚の提案シートに過不足なく記入してくれています。

来年 (2013年) PCS (牛妊娠分娩チェックシステム) 小規模な農家でも導入可能な、乾乳期・分娩時の個体健康管理・飼養管理システム

8-10年後 牛の感情・体調を読みとる機械 個体に取り付けたセンサーから発信される情報を集中モニタリングする

10年後目標 かざしただけで家畜の行動を分析・気持ちもわかる機械 個体に装置をかざして、牛からの情報を集める・牛にメッセージを送ることもできる「双方向性」も装備

18年後? 家畜の排出物をエサとして、それを食べて排出物の量をかなり減らし、優良な肥料を作る動物 未利用エネルギーを使って別の動物を養い、エネルギー量の低減を図りつつ堆肥化を迅速に進める

30年後 -THE BUNBEN- 完全自動分娩システム・母牛子牛まとめて面倒見ます

200年後 牛を無性生殖で増やそう! 超高速クローン牛作製装置

どうでしょうか。各提案は非常に個性的でありつつ、畜産業が現状抱えている課題の解決に向けた様々なアプローチとして示されています。今の時点では途方もないアイデアもありますが、各社設定の時期にはそれぞれの一押し製品・技術が出回っているような気がしてきました。
討議前の概説だけでなく、牧場体験ゼミ(この講義を受講している学生の、3分の2が参加してくれました)でそれぞれが見聞き感じたことが、これらの提案の土台になっているようでした。担当教員として嬉しい限りです。 

 あえて指示しませんでしたが、次の4点を意識して討議を進めてくれればと願っていました:

@問題意識を持つ…この場だけでなく、今後も皆さん自身が当事者となって取り組んでほしい課題です。
A発想を制限しない…企画にだめ出しをするのは、どちらかといえば責任ある立場の人が行う仕事ですし、できない理由を探すことはそんなに難しくありません。やると決断して、実現できるように工夫するほうが、より多くの勇気とエネルギーが必要です。また、一見類似した製品もありますが、よく読むとそれぞれが異なるコンセプトから発生した別の提案であることがわかります。こうした差別化をどのように表現していくかも重要です。
Bそれぞれの役割と責任を相互に尊重する…代表・各担当・調査役(一時的に討議から外れて他社の情報収集に当たる役割を担ってもらいました)のように、同じ目的に対してそれぞれの使命をわきまえて行動することは、どのような社会に身を置くとしても重要です。
C生命を相手にした仕事と理解する…動物生産・植物生産問わず、わからないことや先の見えないことが多く、難しい判断を常時要求される分野であるといつも心に留めておいてください 

こちらが言わずともこれらのことを皆さんが十分に認識し、優れた成果を挙げてくれたことは、それぞれの提案内容によく表れています。ぜひ皆さんの力で、これからもっと大きなイノベーションを起こしてください。
 最後になりますが、授業当日の討議指示という無茶振りもかかわらずよく対応し、1時間という短時間で各グループ独自の提案を出してくれたことに改めて深謝します。南箕輪キャンパスで会えることを、楽しみにしています。

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#02 「農学部に相応しい人、農学部に来てほしい人」 [大学受験を控えた皆さんへ]
(平成24年10月19日)

来春の大学進学を目指して勉強中の皆さんにとっては、そろそろ受験校・受験学部をある程度目標設定する時期だと思います。
数字(偏差値や受験倍率、学費とか)で判断できる情報なら、皆さん自身や周囲の人の方が詳しいことでしょうから、ここはひとつ前回同様に、 あまり根拠なくただ私の感じるところで、入ってみたら大学(特に信州大学農学部、食料生産科学科)というのはどんなふうなものかを綴ってみます。

まず、受験しようとする大学のサイトにおそらく掲載されている、理念や目標について語っている箇所
(本学農学部の場合は  ここ  [「学部紹介」-「理念と目標」])にぜひ一度、目を通してみてください。
その中には、皆さんが受験し、学び、卒業を手にするまでのプロセスに対する大学の考え方・方針(ポリシー)が述べられています:
皆さんが受験生の中から選抜されるプロセス:「どのような学生を求めるか」…アドミッション・ポリシー
入学し、学ぶプロセス:「どのように学生を教え育てるか」…カリキュラム・ポリシー/カリキュラム・マップ
一定の知識と能力を培ったら卒業と認められるプロセス:「どのレベルに達したら卒業と認めるか」…ディプロマ・ポリシー

これらは簡単な原則論ですが、同時に大学と受験生・学生との間で成り立つコミットメント(約束事) でもあるため、 私たち教員にとっても各ポリシーに従って受験生を選抜し、教育のプログラムを作り実践し、卒業を認定する上での よりどころとなっています。簡単に言えば、
教職員に対しては「これらのポリシーのもと、本学の理念と方針を十分に理解した教育活動を行ってください」ということを、
受験生・学生に対しては「教育内容と手続きについて、この部分までは責任を持ちます。それ以上、それぞれの努力によって、 さらに高いもの・幅広いものをぜひ追求してください」ということを伝えているものです。
ちょっと堅めの記述ですが、大学に入り、学び、卒業することをもっとも要約して表現するとこうなるという例として、紹介しておきます。

さて、このページをご覧の皆さんの中で信州大学農学部への入学をお考えの人がいたらいいなと思いつつ、 皆さんが気にしているであろういくつかのことに、答えをつけてみます。
・農学部生は就職に有利?
・入学したら実験や実習が多い?
・生き物が苦手でも大丈夫?

・農学部生は就職に有利?
最近の就職実績は学部発行  デジタルパンフレット  をご覧ください。
高いままの数字が近年維持されているのは、支援制度の効果もありますが、それ以上に学生自身の努力によるものだと思います。 みんなが軽々と内定を取っている、ということは決してないです。こんな時代ですから。
農学はいわゆる実学に分類されますが、それが就職活動のときに有利になるのは「自身がどのような技術と知識、資格を持っているか(または将来持つことになるか)」 という誰でも答えられることのほかに、「自身がいま専攻研究などで取り組んでいることが、いまの自分や社会にとってどういった意味や効果を与えているか」というもっと大切なものを、自身の言葉でアピールしやすいことなのだろうと思います。
企業などからみれば、応募者それぞれが持つ固有の要素を、組織活動の中で活かせるかどうかで人を選び雇い入れるわけですから、そうした相手にトータルでどう自分を売り込むかがポイントです。
そのためのネタというのは、すぐには仕込めません。大学受験を控えた皆さんがこういった課題に直面するのはかなりあとですが、 入学したら少しずつでも、食料、生命、環境のさまざまなテーマを取り上げている授業のどの部分が、自分や社会の将来に役立つかを考えながら学んでみてください。 その繰り返しがおそらく、農学部生らしい価値観をもった、社会人として魅力的な人材となるためのよい過程になります。


・実験や実習が多い?
入学してから卒業までに関わる実験・実習には、「授業の一環として行うもの」「卒業研究の一環として行うもの」ふたつの種類があります。
授業の一環として行うものは、食料生産科学科動物生産学コースを例にとると二年次〜三年次(前期)の期間に実施される「食料生産利用学動物実験」「持続的生物生産システム実習」などです。講義とは別の形で、皆さん自身がアタマとからだを使って作業することを通じて、コースを選択した学生が広く備えておいてほしい知識・技術を養うために設計されているものです。これに費やされる時間は週に2日、午後いっぱいを使っても夕方までにはたいてい終わりますので、全く拘束感がないわけではないですが、"それ以降"から見たらかわいいものです。

三年次後期になると、ほとんどの学生はどこかひとつの研究室に所属して、「卒業研究の一環として」行う実験・実習に取り組むことになります。つまりここから卒業までの1年半、人によっては大学院卒業までさらにはそれ以降の人生の時間を割くことになるかもしれませんが、自らの手で様々なことを科学的手段を以って明らかにしていく作業に携わります。
作業を完遂する(=単位が取れて卒業に必要な要件を満たす)までに要する時間は…当然何をどれだけ成し遂げるかによって変わります。
比較的容易な実験をあまり時間をかけずに行って結果を出し、残りの時間を何か別のことに割くというのもいいと思います。 むしろ、就職活動などで時間を取られて研究に回せる余裕が少ない、という事情になるかもしれません。 逆に、夜遅くまで、正月休みもなく実験に取り組んだ学生が出した成果が、特定の分野で大きなインパクトを与える場合もたくさんあります。

「多くの時間を費やさなければならないか?」の質問に、私はこう答えます:
「そうしなくて済む方法もあるが、他の人より大きな拘束がかかる場合もあることは覚悟してください。ただ、それだけの時間を使ってひとつの目標に向かうことは、その時にもそれからの人生にも、決して無駄にはなりません」

*学科やコース、研究室により上記の状況は大きく異なりますので、ご承知おきください。


・生き物が苦手でもやっていける?
授業としての生物は良い成績を取れるが生き物(とくに動物)が苦手、という人もいるかもしれません。 農学部食料生産科学科は動物であれ植物であれ、必然的に生き物相手ですが、それを触るのが…、という程度だったら全く問題になりません。
授業(実習)として、家畜の世話や作物の栽培など決められたことは当然やってもらいますが、研究対象として生物個体そのものではなく、その生産物や個体を構成する要素(器官、細胞、生命分子[タンパク質や遺伝子])、あるいは食料生産を取り巻く環境(経済など)としているところも多く、それぞれが魅力的な内容の研究を行っており選択に困ることはありません。獣医師を目指す学生が大のネズミ嫌いってストーリーがどこかにありましたが、生き物が苦手でも農学部は卒業できます。
むしろそうした人に積極的に入学してもらって、動植物に対する先入観を払拭し、新たな生命観を養っていただきたいところです。


最後に、いち教員(といってもまだ8ヶ月ですが)から見て、こういう資質のある人に農学部に来てほしい、というのをいくつか挙げておきます:

@生命に対する関心と尊敬を持っている人…人類だけでなく、ほかの生命体(動植物や微生物)もすべて、それぞれが置かれた環境に、およそ信じられないしくみを使ってうまく適応して生存しています。それぞれの命の価値を大切にしつつ、かつそれらがどんなメカニズムで働いているのかを純粋に解き明かしてみたいと考える人に、農学部は向いています。

A環境に対する関心と尊敬を持っている人…人類がこれから長く持続して豊かな社会を作り、発展していくためには、私たちを取りまく自然や資源、つまり環境とどのように調和していくかを考えることが重要です。この環境には、国際関係や経済、文化も含まれます。自身と環境が今どのような状況におかれているか、次の時代にどのような行動を取っていけばいいかを考えたい人に、農学部は向いています。

B他人に対する関心と尊敬を持っている人…集団での作業が多いので、協調性が求められることがひとつです。もうひとつは、コミュニケーション力と言ってしまえばそれは他の学部であれ、あるいは大学生活だけでなく求められる要素ですが、農学部で学ぶということは(上述の実学とも関わりますが)、「自分が成し遂げること、身に付けるものが、生産物や技術として直接自身や他の人の役に立つ」ということでもあります。他の人に感謝し、また一方で他の人が喜ぶ場面を想像しながら自らの責任に向き合える人に、農学部は向いています。


Never stop, never give it up.   -あきらめずに動き続けよう-


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#01 「科学(理科や数学)を学ぶ理由」 [学生・生徒・受験生のみなさんへ]
(平成24年9月6日)

関連するどの調査結果を見ても、いまの学生・生徒さんの多くは、理科や数学のような自然科学系の科目は難しいと考えているようです。 その難しさが先に立って、入試では大事だがそれ以降の自身の人生にはあまり役には立たない、と言い切ってしまう人もいるとか。
先が判らないのが人生だと思うんですけどね。
思い返せば私が高校生だった〇年前でも、数学ができるかできないかが進路選択の大きな分岐点で、いちど理系コースを選択したものの数学授業の進度についていけずに文系コースに進路転換する人はたくさんいました。 高校生までで習得できた内容の高低で、その後の人生の針路が大きく変わってしまうというのも、なかなかリスキーな話ではあります。
受験に必要だからという受け身発想ではなくて、前向きに自然科学を学ぶに足る理由を4つ、なんの引用もなく私自身の言葉で表してみます。

@明るい未来を作るのに絶対必要不可欠です。  今からちょうど100年後に誕生することになっている某ねこ型ロボットや、そのポケットから繰り出される魅力的な道具の数々がもし現実にできるとしたら、 ひとりの大天才によって生み出されることはなく、数学、物理学、化学、生物学、そのほか人文社会科学含めて様々な分野の、数千人規模のエキスパートの英知が集結してはじめて可能になることでしょう。
それはこれから2-3世代あとのことですが、その人たちに影響を及ぼすのが現在を生きる私であるか皆さんであるか、ないしはあなたが思いを寄せている人がそうかもしれません。
Aひとりひとりが歴史の一部分として、これまでの膨大な知の蓄積を完全な形で次世代に引き継いでいく使命があります。  日常生活の中で現在の技術を甘受するばかりで、この時代に何の進歩も革新も生み出さないとしたら、 その怠慢を未来と過去の世代からダブルで怒られます。
私たちがいま手にしているすべてのものは、間違いのない形で残していく責任があり、またすべての人はそれぞれ、残すに値する標(しるべ)を必ず持って生きています。

B自然科学を学ぶことで得られる論理性、秩序、合理性は、人生のあらゆる場面で大きな武器となります。  これらは交渉事では極めて重要なアイテムです。 齢を取ってから書店に平積みされているベストセラービジネス書を読むのもおおむね同じ効果狙いですが、他人の成功体験を全く異なる環境に移植して自分も成功しようとする試み自体が非論理的です。
脳が若いうちにがんばって負荷をかけた方が、体によく染み込みますし、早く使いこなせます。
C共通の価値観を形成する基礎になります。  複数の人がいて、同じ情報を同程度に理解できていたら、それをもとにして行う判断や結論も大体同じになるか、 少なくとも違いが各々の考え方(プロセス)にあるということがわかり、一歩進んだところから議論が始められます。
そうでないときのストレスを考えるとこの特性は便利です。おとなの世界はそりゃぁいろいろ大変ですよ。相手にどこまで見せるかも技術のうちですが、手持ちのカードがたくさんあって、まわりの人と価値観を共有できることは、だいたいの場面で有利に働きます。
この項あえて抽象論としましたが、具体例はそれぞれで考えてみてください。

こうして並べてみると、これらはとくに理科や数学に限ったものではなく、多くの学問分野に当てはまることですね。
教育者それぞれが、自身の持ち場がいかに魅力ある世界であることを提示できるか、その努力と工夫が問われているのかもしれません。

Fascinating science is here.   -わくわくする科学を此処に-


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