応用生殖科学研究室
マイクロマニピュレータ 卵子 卵巣断面 研究室

研究内容

当研究室では以下の三分野について研究を行っています。リンクをクリックすると該当分野の研究紹介へジャンプします。

動物生殖学

発生工学

神経科学


動物生殖学

1)新規卵胞・卵子培養系の確立

 卵巣には数百万個の卵原細胞が存在しますが、排卵に至るのは1%以下です。生体内で99%以上が死滅するこれらの未発育卵子を有効利用できる体外培養系が確立できれば、動物生産効率を飛躍的に向上でき畜産学分野への応用や非常に大きな経済効果も期待できます。また、絶滅危惧種などの保全や、ヒト生殖補助治療への応用なども期待できるため、本研究室では新規の卵胞・卵子培養系を確立したいと考えています。

単離したマウス卵胞

2)卵胞発育・排卵の新規分子メカニズムの解明

 本研究室では、卵巣におけるFXR(Farnesoid X Receptor)の機能解明を研究しています。FXRは肝臓で発見された核内受容体で、脂質吸収を促進する胆汁酸をリガンドとしてコレステロール・脂質代謝を制御している因子です。このFXRは消化器官にのみ存在し、代謝制御の役割を果たしていると考えられてきましたが、ごく最近、卵巣や精巣にも存在することが明らかとなってきました。卵巣・精巣ではコレステロールから性ホルモンが合成されていることから、FXRカスケードと生殖現象が密接に関係し、卵巣機能に対し重要な役割を持っている可能性があります。そこで、本研究室ではFXRが性ホルモン合成に関与しているとの仮説を立て、研究を進めています。食の欧米化に伴い増加している肥満症や高コレステロール症ですが、これらの患者で生理不順や排卵不全が多いことが知られています。FXRは代謝制御の主要因子であるため肥満や高コレステロール症に深く関与しており、本研究はこれらの疾患メカニズムの解明に貢献できると考えています。

卵巣のHE染色像
卵巣の免疫組織化学染色像

発生工学

3)遺伝子改変動物の作出

 発生工学・生殖工学とは、着床前の受精卵に対して遺伝子操作をおこない、特定の遺伝子の機能を解明するのに重要な技術です。細胞レベルではなく個体レベルで特定の遺伝子の機能を評価できるため、基礎研究にとどまらず疾患研究などにも広く用いられています。特に最近では、簡便にノックアウト・ノックイン動物を作出できる「遺伝子編集技術」が開発され、ますます注目を浴びている研究技術です。本研究室では、マイクロマニピュレーターを用いてマウス受精卵を遺伝子操作し、生殖学研究や神経科学研究のための遺伝子改変動物を作成し、個体レベルで解析しています。また、マウスや霊長類のES細胞やiPS細胞を樹立し、研究ツールとして用いています。

マーモセットES細胞
マーモセットiPS細胞
マウス受精卵
マウスES細胞

神経科学

4)神経変性疾患モデル霊長類の作出と疾患バイオマーカーの開発

 超高齢化社会に入りつつある現在、日本ではパーキンソン病やアルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患の患者数は着実に増加しており、その克服が国を挙げての課題となっています。しかしながら、これらの疾患は早期発見ができないことで治療が困難になるため、発症前に疾患の指標となる“バイオマーカー”の開発が求められています。これまでにマウスやラットを用いて疾患バイオマーカーの開発がおこなわれてきましたが、齧歯類の脳の構造や機能にはヒトと異なる点も多く、齧歯類を使った研究で発見された治療薬などがヒトにおいては効果がない事例が多くありました。そこで、齧歯類に比べ脳構造や代謝経路がヒトに近く、疾患病態を忠実に再現する霊長類(コモンマーモセット)を用いて、神経変性疾患のモデル動物の開発をおこなっています(国立精神・神経医療研究センターとの共同研究)。

 また、治療以外に重要な点として疾患の予防があり、日々の食生活の改善による予防医学も疾患克服に有効な手段と考えられます。食・栄養のシグナルが神経系細胞に及ぼす影響を解析することで、神経変性疾患の新たな治療法の開発、創薬につながることが期待されます。そこで本研究室では食品成分であるポリフェノール類が神経細胞に及ぼす影響を解析しています。

マイクロマニピュレーター
マーモセット顕微授精前(左)と後(右)
マーモセット