自然科学・人文社会科学
公開日:2025年2月28日 16:07
工学部起源天体の解明にもつながる 超高エネルギー宇宙線の検出

宇宙から飛来する放射線は、コズミックレイ(宇宙線)と呼ばれ、手のひらを広げると1秒間に1個の頻度で地上へ降り注いでいます。上の画像にあるような高エネルギーのコズミックレイも、大気分子との反応によって地上レベルでは非常に弱いエネルギーとなります。
信州大学学術研究院(工学系)冨田孝幸助教らの研究グループは、非常に高いエネルギーを持つコズミックレイ(※1)である「超高エネルギー宇宙線(※2)」の観測実験を行う中で、観測史上2番目に強いエネルギーを持つコズミックレイの検出に成功しました。この観測結果は、超高エネルギー宇宙線の起源や発生メカニズムを理解するうえで重要な手がかりとなります。
国際共同実施「テレスコープアレイ」実験
超高エネルギー宇宙線は、銀河磁場の中でも直進できるほどのエネルギーを持っているため、これを研究することによって、起源天体の解明が期待されています。一方、飛来頻度の低さゆえにいまだ謎も多いのが実情です。
冨田助教らはこの超高エネルギー宇宙線を確実に観測するため、2008年から国際共同実験「テレスコープアレイ」実験に参加しています。この実験は、アメリカのユタ州にて、米・露・韓・ベルギー・台湾の5つの国・地域と共同して行っているもので、日本とアメリカがホスト国となっています。
観測史上2番目に強いエネルギーを持つコズミックレイの検出に成功
超高エネルギー宇宙線の飛来頻度は、100㎢の地表において1年に1例程度と低いため、テレスコープアレイ実験では、約700㎢という広範囲の地表に507台もの検出器を設置して観測を行っています。この実験にて2021年5月、世界における観測史上2番目に強いエネルギーを持つ超高エネルギー宇宙線を検出することに成功しました。そのエネルギーは、244エクサ電子ボルト(2.44×10の20乗電子ボルト)という極めて高いものでした。
超高エネルギー宇宙線の発生メカニズムを知る手がかりに
この超高エネルギー宇宙線がどこの方向から来たのかを調べたところ、宇宙の大規模構造において「ボイド(※3)」と呼ばれる、物質がほとんど存在しない空間の方向であることがわかりました。ここは、これまで観測された超高エネルギー宇宙線の発生源がほとんど存在しない領域です。この観測結果は、超高エネルギー宇宙線の起源や発生メカニズムを理解するうえで重要な手がかりとなります。
ポイント
2021年5月に観測史上2番目に強いエネルギーを持つ超高エネルギー宇宙線を検出することに成功した
検出された超高エネルギー宇宙線は、「ボイド」と呼ばれる物質がほとんどない空間の方向から到来した
この観測結果は超高エネルギー宇宙線の起源や発生メカニズムを考える重要な手かがりとなる
用語説明
- ※1 コズミックレイ
宇宙から飛来する放射線のこと。微弱なコズミックレイは手のひらを広げると1秒間に1個の頻度で宇宙から地上へ降り注いでいる
- ※2 超高エネルギー宇宙線
宇宙線物理学において、1018eV(電子ボルト)より大きな運動エネルギーを持つ宇宙線を指す。eVは、電子が1 Vの電位差を通過するときに獲得するエネルギーのこと
- ※3 ボイド
宇宙空間において銀河がほとんど存在しない巨大な空間
論文情報
雑誌名:Science. Vol 382, Issue 6673, pp. 903-907, 2023.
論文タイトル:An extremely energetic cosmic ray observed by a surface detector array
著者:Telescope Array Collaboration(構成員は論文のSupplementary Materialsを参照)
タグ
#コズミックレイ / #テレスコープアレイ / #宇宙線 / #超高エネルギー宇宙線
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