信州大学 繊維学部技術データベース

Research Seeds

PDF 持久性トレーニングにスプリント走を加える効果

【大分類:7. デサントスポーツ科学 小分類:7.13 Vol.13

 われわれは,整形外科の立場から“立ちくらみ“に関する研究を約30年間すすめて来た.そしてこの問に取扱った約1,000例の"むちうち損傷"患者のほとんどにおいて頸椎の不安定性をもち,その"弱い頸椎なるがゆえに追突事故で損傷される"とも云える症例が多いことを経験した.
 また,“自動車酔い”や“学校での立ちくらみ”あるいは起床時のめまいなどの症例においてしばしば頸椎不安定性が観察された.また1977年岡山市における全国高校総体の開会式で,全国の各県選抜の高校選手約4,000人の開会式集会が岡山市立運動場で挙行されたが,その約90分の間に約40名の選手が"立ちくらみ"で退場した.
 開会式としては長時間でもあり,また天候もややむし暑い日であったとは云え“スポーツ選手”が1%も“立ちくらみ”とは異常であるし,これらの選手を約30〜60分も休ませておけばほとんどは競技に参加できたので体力医学的に不可解とされた.また姫路市教育委員会の調査でも朝会などが長時間(約60分)になると約1%の児童・生徒に“立ちくらみ”が発生していることが認められた.そしてこれらの生徒の抽出的な検査結果からその多くに頸椎不安定性があり,他の障害は必ずしももっていないと判定された.由来“立ちくらみ”の原因の多くは耳鼻科脳外科,内科,精神科領域のものとされて来た.しかし,1980年頃より整形外科領域においてもその原因が当科的のものとの研究発表がみられるようになり椎間板障害や頸椎骨の骨棘による椎骨動脈の循環不全などが指摘されたりしている.問題はこれらの原因では「少しの安臥で回復する……」などの早い回復が理解しがたい点にある.
 “頸椎の不安定性”に原因を求める立場からは,長時間の起立位にはあるが集団でもあり,緊張もとれ,(頸部の支持組織の弛緩で,また約5kgもある頭部保持力の低下によって自然的に頭部が前屈位となり,頸椎不安定部(多くは頸椎3/4,4/5,5/6 間)が過度に屈曲し,椎骨横突起孔を通る椎骨動静脈の自ら循環障害を来し,ひいては脳幹が虚血となり"立ちくらみ"を来すと考えられるのである.
 トレーニングに要する時間が,持久性トレーニングと同じになるよう持久走の時間を短縮し,その分スプリント走を加えた場合の骨格筋の持久性機能の変化を検討した.生後4週齢より9週間,1日2時間の持久走を行なわせる群(E群),1.5時間持久走と0.5時間の間欠スプリント走を行なう群(ES群)を設け,対照(C)群と比較した.
 1)両トレーニングとも下肢筋の相対重量に増加が認められた.
 2)解糖系酵素活性(PFK)の増加は両トレーニングにおいてヒラメ筋にのみ見られた.酸化系酵素活性(SDH)はヒラメ筋,足底筋,長指伸筋,腓腹筋のいずれにも2倍以上の上昇が認められた.E群とES群間の差は認められなかった.
 3)足底筋のミトコンドリア容積に両トレーニング後ともに増加がみられ,ヒラメ筋ではES群に有意な増加がみられた.
 4)ヒラメ筋と足底筋の単収縮時間は両トレーニングとも短縮した.疲労曲線から得た持久性能にはトレーニングにともなう変化が認められなかった.
 5)C群に対し,両トレーニング群の筋線維構成比を比較した場合,遅筋線維の比率の変化はいずれの筋においても認められなかった.
 6)速筋線維のサブグループをtypeⅡa(FOG),Hb-FOG,typeⅡb(FG)に分類しトレーニングの影響を調べた.
 E群の場合,足底筋にtypeⅡaの増加,腓腹筋の表層部と深層部には恥一FOGの減少にともなうtypeⅡaの増加,中層部はtypeⅡbの減少にともなうtypeⅡb-FOGの増加が観察された.ES群においては,足底筋にtypeⅡbの減少にともなうtypeⅡaとⅡb-FOGの増加,長指伸筋にはtypeⅡaの増加がみられた.腓腹筋の表層部にはtypeⅡbの減少にともなうtypeⅡb-FOGの増加が,深層部にはab-FOBの減少にともなうtypeⅡaの増加が観察された.E群とES群を比較した場合,両群間に有意な差がみられることは少なかったが,ES群の各測定項目において変化率は大きく,より持久性機能の向上傾向がみられた.

「デサントスポーツ科学」第13巻/公益財団法人 石本記念 デサントスポーツ科学振興財団
研究者名 春日規克, 鈴木康子, 西沢富江, 平野朋枝, 鈴木英樹
大学・機関名 愛知教育大学

キーワード

持久性トレーニングスプリント走骨格筋