信州大学 繊維学部技術データベース

Research Seeds

PDF トレーニング効果と個体差に関する基礎的研究 ― Ⅰ.骨格筋のトレーニング公開と遺伝的要因

【大分類:7. デサントスポーツ科学 小分類:7.13 Vol.13

 骨格筋の成長,肥大,萎縮,再生,修復等の研究は生物学,医学,体育の領域では興味ある課題である.筋力の発揮が筋細胞の微細構造によって決定されていることから,長年にわたって筋収縮機構の研究が生物学,医学の分野で進められている.さらに医学の分野においては筋ジストロフィーに見られるような遺伝的疾患の研究は発症にともなう特異的な遺伝子発現の機構に着目されている(1.体育の分野では運動にともなう筋の成長(骨格筋の肥大や萎縮)に着目され研究が行われている.
 一般的に筋トレーニングが筋の肥大を誘導し,肥大した筋では筋を構成する筋細胞の肥大や,筋細胞の増殖が観察されることが報告されている正1~7).発生段階で筋細胞は,中胚葉構成細胞に筋細胞決定因子が出現することにより,筋芽細胞として決定される.その後,筋芽細胞どうしの融合が起こり,融合開始と同時にミオシン,アクチン等の筋細胞特有のタンパク質の合成が始まり筋細胞に分化する.このような筋細胞への分化の過程は,成熟筋でのサテライト細胞でも似たような現象が観察される5).またトレーエングの結果,筋細胞の収縮構成要素であるミオシン,アクチンの合成や蓄積が起こり個々の筋細胞は肥大する5,9).
 筋トレーニングによる筋細胞の増殖と肥大は9骨格筋の肥大の二大機構として認められるものである.この機構は所謂筋組織あるいは筋細胞に内在した筋肥大のトレナビリテーの発現様式としてとらえられる.この筋肥大に対する発現様式の違いが異なることにより,トレーニングの掴体差が発生するものと思われる.トレーニングの強度,時間,頻度等がトレーニング効果に重要な役割をになっていることは運動生理学的に示されている8)。しかしながら,このトレーニングの強度,時間,頻度等が筋に及ぼす生化学的機構についてはいまだ解明されていない.すなわち筋の成長や肥大に対する運動の強度時間,頻度の生理生化学的意味や役割については解明されていない.筋のトレーニング効果や個体差を理解するためには,これらの機構の解明が要求される.
 トレーニング効果や個体差を理解する場合,遺伝的あるいは環境的因子の基本的な理解が必要である.とくに運動処方,トレーニング処方や運動療法を適切に実施するためには,上述した遺伝的要因,環境的要因の基本的背景が理解されて行われるべきである,運動の筋に対するトレーニング効果や個体差は,一卵性双生児や二卵性双生児の研究結果に見られるように,遺伝的な要因により主に支配されているものと考えられている.しかしながら,筋トレーニング効果やその個体差が,どのように遺伝的要因により制御されているか十分に解明されていない.遺伝学的解析においては,受精後から出生までの環境の変化まで含ある場合と,各細胞に内在する遺伝子の違いだけを考える場合がある.動物実験において生体に及ぼす環境的要因は,一般的に近交系同一系内の雌個体間の比較により解析される.遺伝的要因については,近交系の系統問の比較により確認される,そこで本研究では,基本的に遺伝機構の異なる近交系マウスを用い,トレーニングが骨格筋肥大に及ぼす影響について検討した.

「デサントスポーツ科学」第13巻/公益財団法人 石本記念 デサントスポーツ科学振興財団
研究者名 山田茂*1, 兵頭圭介*1, 藤巻正人*2, 内間高夫*2, 篠原しげ子*3
大学・機関名 *1 東京大学, *2 財団法人民生科学協会総合研究所, *3 慶応大学

キーワード

骨格筋筋肥大量遅筋速筋