信州大学 繊維学部技術データベース

Research Seeds

PDF ヒトのCircadian Rhythmの位相変化に対する運動の影響

【大分類:7. デサントスポーツ科学 小分類:7.14 Vol.14

 最近,生物時計は光以外のいくつかの要因によって,操作できるという証拠が増加しつつある.たとえば,気温,社会因子,運動,メラトニン投与などである.このことは,時間帯を超えて,急速な移動を行う旅行者や,交代制勤務者にとって,実際的利益を生むことになろう.これらを考慮して,われわれは,自転車エルゴメータによる運動が,血中メラトニンや深部温を含む,ヒトのサーカディアンリズムの位相移動を誘導するかもしれないという,可能性を探るために実験を行った.
 二人の男子医学生が,被験者として参加した.深部温として,直腸温が10分ごとに測定された.血中メラトニンが1時間ごとに,RIA法で分析された.被験者は,住居型隔離実験室(台所,ベッド,居間,シャワー,トイレが設置されている)に金曜日の午後5時に入室し,測定が午後6時より開始され,土曜日を経て,日曜日の午後2時まで,44時間にわたってなされた.
 各被験者は,3つのシリーズの実験を経験した.すなわち,対照実験,午前運動実験,午後運動実験である.対照実験では,上記の期間運動を行わない.
 午前運動実験では,運動が土曜日の午前9時から12時まで行われた.午後運動実験では,運動が土曜日の午後3時から6時まで行われた.3時間の運動は,15分間の自転車エルゴメータによる運動に引き続いて,15分間の休息を6回繰り返す,インターバル運動を実施した.心拍数も,この3時間の運動中,測定された.主な結果は,つぎのようにまとめられる.
 1)被験者Aは,午後の運動により約1時間の位相前進が,血中メラトニンリズムと深部温リズムで観察されたが,被験者Bでは,観察されなかった.被験者Aの午後の運動中の血中メラトニンレベルの上昇が,リズムの位相の前進に関連があると予想される.被験者Bでは,運動中,血中メラトニンレベルの上昇がおこらなかったが,このことと,位相の移動がおこらなかったことと関連があると思われる.両被験者間で,運動中の血中メラトニンレベルの反応が異なる理由についても考察した.
 2)直腸温が運動終了後,運動開始直前の値よりも約0.2℃低下する現象が午前,午後の運動ともに観察された.
 3)心拍数は3時間の運動の中で,15分間の休息中は大きく低下するが,休息中のレベルは,午前中の運動の場合の方が高かった.すなわち,午前中の心拍数の回復が遅れることが見い出された.このことは,交感神経系の緊張が,午前中の方が午後より運動後持続しやすいことを意味している.明確な結論を出すには,さらに多くのデータの収集が必要であるが,本実験により,運動はヒトの生物時計を新しい明暗サイクルに,再同調を急速に発生させる道具として,使用できることが示唆される.

「デサントスポーツ科学」第14巻/公益財団法人 石本記念 デサントスポーツ科学振興財団
研究者名 登倉尋實*1, 本問研一*2, 本間さと*2, 中村広治*2, 橋本聡子*2
大学・機関名 *1 奈良女子大学, *2 北海道大学

キーワード

生物時計メラトニン運動サーカディアンリズム住居型隔離実験室