深海底の泥にREEが濃集する鍵は魚骨類中の炭素にある?!
~魚骨類中のアパタイトにおけるREEと炭素の分布と存在形態から その関係性を探求~
2026年2月24日
本研究では、希土類元素(REE)に富んだ深海泥中の魚骨類の微細組織を分析し、
REE濃集メカニズムの解明を最終目標としています。
REE濃集メカニズムの解明を最終目標としています。
【研究のポイント】
REE泥に中の魚骨類がREEのホストであることは明らかになっていましたが、なぜREE泥の中で魚骨類にREEが濃集するのかは分かっていませんでした。これを明らかにするためには、REEが魚骨類の構成物のどこにどのように存在するのか、またどのような元素と共に存在するのかが重要になります。
本研究成果のポイント
●REEが濃集している箇所にはアパタイト構造中に炭素が存在することを確認。
●炭素量とREE量の相関を解明し、炭素がREE濃集の鍵であることを示唆。
●炭素がアパタイトに取り込まれる可能性は、有機成分(コラーゲンなど)の分解に起因すると推察。
【概要】
REE(希土類元素)は、自動車をはじめとするハイテク産業において、不可欠な金属として知られています。近年、日本の南鳥島周辺で採取された深海泥には、魚の骨や歯の破片が含まれており、これに希土類元素(REE)が高濃度で濃集していることが明らかになりました。魚骨類にREEが濃集するメカニズムを解明することができれば、海水などの流体から効率的に希土類元素を回収する技術の開発に貢献することが期待されます。したがって本研究では、このREE泥中の骨片類にREEがどのように濃集しているかを詳しく調査しました。
本研究の結果、骨片類は歯に比べてREEがより高濃度で含まれる傾向があることが判明しました。また、骨片類中に存在する炭素が、REEの取り込みを促進している可能性があることが示されました。この炭素は、魚骨類の構成物であるアパタイトと呼ばれるリン酸カルシウムの構造に炭酸基(CO₃²⁻)として取り込まれ、REEをアパタイト構造内に取り込むための特別なサイトを形成する役割を担っていると考えられます。
【研究背景】
希土類元素は、電動車などに欠かせない極めて重要な金属です。しかし、その生産は一部の国に偏っており、その供給の不安定さは常に大きな問題となってきました。近年では、日本の排他的経済水域に位置する南鳥島周辺にREEを高濃度で含む泥(REE泥)が存在することが知られ、新たなREE資源として関心を集めています。しかし、深海底泥の資源としての活用には、そこに住む生物たちへの影響など、環境問題が常に伴うため、実現するためには多くの課題を解決する必要があります。
一方、なぜ深海底泥中にREEが濃集するかについても議論が続いています。REE泥中に含まれる魚骨類がREEのホストであることは、明らかになっていましたが、「なぜ魚骨類にREEが濃集するのか?」は明らかになっていません。もしこのメカニズムが解明されれば、廃棄物として扱われる魚骨類を資源として活用することで、環境負荷を気にすることなく、海水やその他の流体から希土類元素(REE)を直接効率的に回収する新しい可能性が広がるでしょう。このような技術革新は、廃棄物の有効活用や持続可能な資源循環の実現に寄与するだけでなく、資源確保の際の環境問題を大きく軽減する鍵となるかもしれません。
したがって本研究では、REE泥中にREEが濃集するメカニズムの解明を目指して、REE泥中の魚類骨片に含まれるREEの存在形態を調査しました。特に、歯と骨片に含まれるREEの存在量と分布を系統的に分析し、魚類歯のエナメル質よりも多くのREEを含むことが知られている魚類骨片類に焦点を当てました。さらに、これまでの研究では見過ごされてきた骨片中のREE濃集における炭素の役割について検討しました。
【研究手法】
研究には、REE抽出実験、電界放出型電子線微小部分分析、透過型電子顕微鏡観察、レーザー誘起ブレークダウン分光分析、フーリエ変換赤外分光分析、およびX線吸収端近傍構造解析を用いました。
【研究成果】
南鳥島周辺の未固結な深海泥には、希土類元素(REE)を高濃度に含む魚骨類が存在しています。これらの魚骨類を形状に基づき、歯と骨片に分類しました(図1)。骨片は歯と比較して希土類元素(REE)の濃度が高い傾向が見られるため(図2)、これら二つの比較を通じて、REEの濃集に寄与する要因を明らかにしました。
REE泥に中の魚骨類がREEのホストであることは明らかになっていましたが、なぜREE泥の中で魚骨類にREEが濃集するのかは分かっていませんでした。これを明らかにするためには、REEが魚骨類の構成物のどこにどのように存在するのか、またどのような元素と共に存在するのかが重要になります。
本研究成果のポイント
●REEが濃集している箇所にはアパタイト構造中に炭素が存在することを確認。
●炭素量とREE量の相関を解明し、炭素がREE濃集の鍵であることを示唆。
●炭素がアパタイトに取り込まれる可能性は、有機成分(コラーゲンなど)の分解に起因すると推察。
【概要】
REE(希土類元素)は、自動車をはじめとするハイテク産業において、不可欠な金属として知られています。近年、日本の南鳥島周辺で採取された深海泥には、魚の骨や歯の破片が含まれており、これに希土類元素(REE)が高濃度で濃集していることが明らかになりました。魚骨類にREEが濃集するメカニズムを解明することができれば、海水などの流体から効率的に希土類元素を回収する技術の開発に貢献することが期待されます。したがって本研究では、このREE泥中の骨片類にREEがどのように濃集しているかを詳しく調査しました。
本研究の結果、骨片類は歯に比べてREEがより高濃度で含まれる傾向があることが判明しました。また、骨片類中に存在する炭素が、REEの取り込みを促進している可能性があることが示されました。この炭素は、魚骨類の構成物であるアパタイトと呼ばれるリン酸カルシウムの構造に炭酸基(CO₃²⁻)として取り込まれ、REEをアパタイト構造内に取り込むための特別なサイトを形成する役割を担っていると考えられます。
【研究背景】
希土類元素は、電動車などに欠かせない極めて重要な金属です。しかし、その生産は一部の国に偏っており、その供給の不安定さは常に大きな問題となってきました。近年では、日本の排他的経済水域に位置する南鳥島周辺にREEを高濃度で含む泥(REE泥)が存在することが知られ、新たなREE資源として関心を集めています。しかし、深海底泥の資源としての活用には、そこに住む生物たちへの影響など、環境問題が常に伴うため、実現するためには多くの課題を解決する必要があります。
一方、なぜ深海底泥中にREEが濃集するかについても議論が続いています。REE泥中に含まれる魚骨類がREEのホストであることは、明らかになっていましたが、「なぜ魚骨類にREEが濃集するのか?」は明らかになっていません。もしこのメカニズムが解明されれば、廃棄物として扱われる魚骨類を資源として活用することで、環境負荷を気にすることなく、海水やその他の流体から希土類元素(REE)を直接効率的に回収する新しい可能性が広がるでしょう。このような技術革新は、廃棄物の有効活用や持続可能な資源循環の実現に寄与するだけでなく、資源確保の際の環境問題を大きく軽減する鍵となるかもしれません。
したがって本研究では、REE泥中にREEが濃集するメカニズムの解明を目指して、REE泥中の魚類骨片に含まれるREEの存在形態を調査しました。特に、歯と骨片に含まれるREEの存在量と分布を系統的に分析し、魚類歯のエナメル質よりも多くのREEを含むことが知られている魚類骨片類に焦点を当てました。さらに、これまでの研究では見過ごされてきた骨片中のREE濃集における炭素の役割について検討しました。
【研究手法】
研究には、REE抽出実験、電界放出型電子線微小部分分析、透過型電子顕微鏡観察、レーザー誘起ブレークダウン分光分析、フーリエ変換赤外分光分析、およびX線吸収端近傍構造解析を用いました。
【研究成果】
南鳥島周辺の未固結な深海泥には、希土類元素(REE)を高濃度に含む魚骨類が存在しています。これらの魚骨類を形状に基づき、歯と骨片に分類しました(図1)。骨片は歯と比較して希土類元素(REE)の濃度が高い傾向が見られるため(図2)、これら二つの比較を通じて、REEの濃集に寄与する要因を明らかにしました。

現世の魚類における魚骨類は、主にアパタイト(リン酸カルシウム)とコラーゲンなどの有機物から構成されています。一方、REE泥中の骨片類は有機物組織をほとんど失われ、主に無機物であるアパタイトから成っています。REEの含有量の高い骨片類は、ランダムな配向を持つ短柱状のアパタイト結晶の集合体で構成されています。この、REEの濃集部にはイットリウム(Y)だけでなく、炭素(C)も多く含まれいることがわかりました(図3)。

また、骨片内には微細なYPO₄(ゼノタイム)結晶やその他の不純物は観察されず、炭素(C)のみを含む領域(有機物の残存と推定される)ではYの顕著な濃縮は確認されませんでした。、魚類類のYがアパタイト内の本来Caが存在している場所をYが置換することが確認されました。このことから、REEは主に骨片類の構成物であるアパタイトの構造中に存在していることがわかります。一方で、Yを多く含むアパタイトには顕著なCO₃²⁻の存在が確認されました。炭酸基はアパタイト構造内でリン酸塩や水酸基と置換されることが可能であり、REEの取り込みを促進する適したサイトを形成する可能性があります。
これらの結果から、アパタイト中に含まれる炭素が、深海底の未固結泥中に存在する魚骨類のアパタイト内でのREE濃縮プロセスにおいて重要な役割を果たしていることが示唆されます。また、有機物の分解がアパタイト中への炭素増加を引き起こした可能性があると推察されます。

【波及効果・今後の予定】
本研究より、REEの魚骨類への濃集メカニズムには炭素が重要な役割を果たしていることが明らかになりました。今後は、地質過程において海水からREEがそして有機物などから炭素が魚骨類を構成するアパタイトに移行していく仕組み(条件)を解明することを目指して研究を行っていく予定です(図4)。このシステムの全容が解明できれば、魚骨類を用いた、液相からのREE回収システムの構築が期待できます。魚骨類は多くが廃棄物として扱われるため、魚骨類の有効活用は持続可能な資源循環の実現に寄与することが期待されます。また、この機構の模倣によるREEの吸着材の新たな開発に繋がっていくと考えています。
本研究より、REEの魚骨類への濃集メカニズムには炭素が重要な役割を果たしていることが明らかになりました。今後は、地質過程において海水からREEがそして有機物などから炭素が魚骨類を構成するアパタイトに移行していく仕組み(条件)を解明することを目指して研究を行っていく予定です(図4)。このシステムの全容が解明できれば、魚骨類を用いた、液相からのREE回収システムの構築が期待できます。魚骨類は多くが廃棄物として扱われるため、魚骨類の有効活用は持続可能な資源循環の実現に寄与することが期待されます。また、この機構の模倣によるREEの吸着材の新たな開発に繋がっていくと考えています。
【用語説明】
アパタイト:リン酸カルシウムを主成分とする鉱物で、多くの場合、リン酸塩、炭酸塩、または水酸基が構造内に含まれる。火成岩、堆積岩、変成岩の各岩石の副成分鉱物地として知られ、非常に広く産出する鉱物である。生体の骨や歯の構成成分として知られる。
ゼノタイム:リン酸塩鉱物で、特にイットリウム(Y)を含む。
希土類元素(REE): 希土類元素は、周期表のランタノイド系列に属する元素に加え、スカンジウム(Sc)とイットリウム(Y)を含むグループ。これらの元素は電子部品、磁石、触媒などの製造に欠かせない重要な素材で、資源の効率的な利用が注目されている。
イットリウム::希土類元素の中でも濃度が高いため、検出しやすくREE(特に重希土類元素)の代表として扱われる元素。
【論文タイトルと著者】
タイトル:Distribution of REE and carbon in apatite of fish debris in REE-rich deep-sea mud from the Minami-Torishima area, southeastern Japan
著者:T. Ejima1,2*, Y. Kon2, M. Hoshino2, K. Sanematsu2, D. Araoka2, N. Saitou3, C. Fukuda4, A. Takemoto5, M. Tanaka5, Y. Takahashi5, S. Kawano6 and T. Takagi2
1 Department of Geology, Faculty of Science, Shinshu University, 3-1-1, Asahi, Matsumoto 390-8621, Japan
2 Geological Survey of Japan, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST), 1-1-1 Higashi, Tsukuba, Ibaraki 305-8567, Japan
3 Electron Microscope Facility, TIA, AIST, 1-2-1 Namiki, Tsukuba, Ibaraki 305-8564, Japan
4 Gem Research Japan Inc. 1-3-10, Higashi-Shinsaibashi, Chuo-ku, Osaka, 542-0083, Japan
5 Department of Earth and Planetary Science, The University of Tokyo, Hongo 7-3-1, Bunkyo, Tokyo, 113-0033, Japan
6 Tochigi Prefectural Museum, 2-2, Mutsumi-cho, Utsunomiya, Tochigi 320-0865, Japan
掲載誌:Mineralogical Magazine SJR2024 Q1
アパタイト:リン酸カルシウムを主成分とする鉱物で、多くの場合、リン酸塩、炭酸塩、または水酸基が構造内に含まれる。火成岩、堆積岩、変成岩の各岩石の副成分鉱物地として知られ、非常に広く産出する鉱物である。生体の骨や歯の構成成分として知られる。
ゼノタイム:リン酸塩鉱物で、特にイットリウム(Y)を含む。
希土類元素(REE): 希土類元素は、周期表のランタノイド系列に属する元素に加え、スカンジウム(Sc)とイットリウム(Y)を含むグループ。これらの元素は電子部品、磁石、触媒などの製造に欠かせない重要な素材で、資源の効率的な利用が注目されている。
イットリウム::希土類元素の中でも濃度が高いため、検出しやすくREE(特に重希土類元素)の代表として扱われる元素。
【論文タイトルと著者】
タイトル:Distribution of REE and carbon in apatite of fish debris in REE-rich deep-sea mud from the Minami-Torishima area, southeastern Japan
著者:T. Ejima1,2*, Y. Kon2, M. Hoshino2, K. Sanematsu2, D. Araoka2, N. Saitou3, C. Fukuda4, A. Takemoto5, M. Tanaka5, Y. Takahashi5, S. Kawano6 and T. Takagi2
1 Department of Geology, Faculty of Science, Shinshu University, 3-1-1, Asahi, Matsumoto 390-8621, Japan
2 Geological Survey of Japan, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST), 1-1-1 Higashi, Tsukuba, Ibaraki 305-8567, Japan
3 Electron Microscope Facility, TIA, AIST, 1-2-1 Namiki, Tsukuba, Ibaraki 305-8564, Japan
4 Gem Research Japan Inc. 1-3-10, Higashi-Shinsaibashi, Chuo-ku, Osaka, 542-0083, Japan
5 Department of Earth and Planetary Science, The University of Tokyo, Hongo 7-3-1, Bunkyo, Tokyo, 113-0033, Japan
6 Tochigi Prefectural Museum, 2-2, Mutsumi-cho, Utsunomiya, Tochigi 320-0865, Japan
掲載誌:Mineralogical Magazine SJR2024 Q1
